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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
32/50

大久保美架の戦い

 5時07分。山の7合目に極めて近い地点。前日の雨のせいでうっすらと霧が出ている。第9&第11グループ連合は追い詰めた第5グループが同じクラスの人間と共闘に出ると察すると、修司、迫間、根津を囲むように移動する。

「囲まれたら面倒や、こっちから叩こう!」

 根津は右側に進む3人に槍を向ける。

「おう!」

 二つ返事で迫間は右に走り出す。

「《シューサル》!」

 右側の3人の中のピンクのパーカを着た刀の女は5cmの水球を8つ放つ。先頭を行く迫間が4つ切り落とし、1つを膝に被弾した。無骨な大剣の男が迫間に切りかかる。迫間はひらりとかわし、男の右肩を切りつける。すかさず根津が火球のマラヴィラを放ち、男は右脇腹に被弾する。迫間の背後を狙う刀の男の太刀を修司は[ハイパーシーン]で防ぐ。

「やばい、しばらくは後ろ守るから片付けといて!《フレインズ》。」

 根津は他の7人をマラヴィラで足止めしている。修司はマラヴィラを連発している根津が何分もエナが持たないことを分かっていた。そのため今は手負いの大剣の男を狙う。刀の男の腹を思いっきり蹴飛ばし―――。

「迫間!」

 迫間はしゃがみながら右にずれる。スイッチした修司は全力でハンマーを振る。男は大剣で身を守るが、ハイパーシーンは武器破壊を主眼に強度と構造を改造されている。男の大剣は武器を切るには十分でも守るには硬度が足りなかった。ハイパーシーンの100%の一撃を受けた大剣は柄から15cmの位置に大きくひびが入り・・・1m40cmの刀身は2つに分かれた。修司はすぐに振り返り、刀の男の相手をする。すかさず迫間が男の首と肩、腹に連撃を加えたが迫間の追撃を阻止するためにパーカの女がマラヴィラを使う。

「《シュレイムル》!」

 1m40cmの水の棘が迫間の足元から飛び出す。迫間はこれを冷静に飛び退け、さらにその最中に手で首を抑えている大剣の男に太ももに切りつけダメ押しする。

 こういうのは柊の方がエグイぞ!ぬるいね巨乳ちゃん!

 迫間はそのままパーカの女のもとに走り出す。修司は大剣の男の頭に一撃を加えノックアウトすると刀の男と戦うが、この刀の男は回避しかしない。先ほどの大剣破壊の様子を見て警戒している。それに・・・。

火狩火(かがりび)。」

 修司は背中にもろに火のマラヴィラを食らう。ここぞとばかりに刀の男は下げていた刀で切り上げる。修司はハンマーで守るが、また背後からマラヴィラが飛んで来るせいで防戦になってしまう。

 ね、根津はどうなった!?

 ちらりと後方を見ると根津が3人を相手に立ち回っているような風景が一瞬見えた。

 エナ切れでファイトに持ち込まれたか・・・。こっちに向かってきているのが1、迫間の方に2、後方にさっきの火のマラヴィラのアタッカー1・・・。まずいか?

 一度、20m先の迫間に合流しようとする修司だったが、正面に刀の男が立ちはだかる。修司はハンマーを振る、刀の男は簡単に退くが、そのうちにまた火のマラヴィラが飛んできている。避けるとまた刀の男が切りかかる。刀の男はあくまでヒット&アウェイで火のマラヴィラ使いとの連携しながら時間稼ぎをしているようだ。男の時間稼ぎは成功。もう片手用ハンマーと盾を持ったショートカットの女が駆けつけてしまった。

 2,5対1ってとこか?

 刀の男とショートカットの女は修司を挟む陣形を取りたいのだろうが、しゅうじは足でそれをさせない、動き回り、常に挟まれはしない。

「往生際が悪いよ、諦めなって!」

 刀の男が修司に言う。修司は返事をしない。

「ちょろちょろ・・・羽野、お願い!」

 ショートカットの女はうなずく。

「《トール》。」

 ショートカットの女が掲げたハンマーから細い電撃が修司に真っ直ぐ飛んで来る。電撃の速度は速かったが、修司が動くせいで狙いの甘い電撃は横の木に当たる。しかしそれに気を取られているとまた火のマラヴィラが飛んで来る。

「ほら!よそ見すんなよ!」

 刀の男はナイフをコンバートし投げつけた。修司はそれを容易にかわす。

「ちっ!」

 男はまたナイフをコンバートした。投げるモーションの途中で火のマラヴィラが飛ぶ。火のマラヴィラは油断しきった後頭部に当たり、衝撃で前によろける。その隙に追撃のハンマーが下がった顔面に迫る。

 あ、もう駄目だわ。

 一瞬で男はそう悟った。そう、火のマラヴィラを食らったのは修司ではなく、刀の男だったのだ。刀の男は修司のハンマーに顔面を殴り上げられ、30cm浮いてから地面に落ちた。ハンマーの衝撃でピクリとも動かない。脳を揺らされたようだ。

「間に合った!」

「ありがと、愛川さん!」

「治世君、遅くなってごめん!」

 病人を渡のところに置いて愛川、宮本、大久保が戻ってきたのだ。茂みの奥深くに隠れていた渡と合流するのに時間がかかってしまったようだ。


 [ジャベリン]を持った根津のもとには大久保が来ていた。愛川の指示で一番戦闘が得意であろう根津に戦闘の苦手な大久保が当てられたが、大久保は不安でいっぱいだった。この合宿でもまともに戦って誰かに勝ってはない。大久保が駆けつけたことで根津と根津と交戦していた茶髪の男、ダガーと盾の女、ピアスの男も大久保を見つめる。大久保は来てはみたものの、どう動けば良いのかが分からない。授業での1対1の闘技も頭が追いつかないのに、多数の相手にどのように仕掛けていいのかが全く分からない。大久保は右手のロングソードを握り締めたまま動けずにいる。すると根津は陽気に大久保に声をかける。

「良かった~、大久保さん助かったわ!」

 助かった?まだ何もしてないし!・・・それに私が来ても足でまといにしか・・・。

 大久保はまだ信じられずにいた。自分の力などは初めから期待もしていない、それよりも根津も修司も、他の全ての人間も、一時の共闘が終わったらいつ裏切るか分からない。どこも食料難で、この後にも奪い合いは確実に起きる。それなら、そんな奴らを今助けるよりも、この隙に逃げた方がいい。そう思えてならなかった。大久保が迷っている間にも根津はずっと3人を相手に立ち回る。3人は大久保が動ない様子を見ると大久保を無視して根津と戦闘する。動けない大久保の背後でボウっと音が鳴る。

「大久保さん!しゃがめ!」

「!?」

 根津の声に反応して大久保は訳も分からず頭を低くする。直後に大久保の頭上を火の球が通り過ぎた。火のマラヴィラ使いの一撃が飛んできたのだ。

 じ、自分が戦っているのに私のことまで?

「な、なんで!」

 大久保は思わず声に出してしまった。すぐに手を口元に持っていく。根津は敵の攻撃をかわしながら困ったような顔で大久保を見る。

「なんでって聞かれても・・・今お互い困ってるやんか。」

「でも・・・でも、今は一緒でもこの後食料の奪い合いになるかもしれないのよ!?」

 茶髪の男がぷっと噴き出す。

「そうそう、どうせこの後裏切られるんだから君は逃げちゃいなよ!」

 茶髪の男はそう言いながら根津に刀を振り下ろす。根津は槍の先でそれを弾く。より渋い顔で根津は大久保を見る。

「めんどいな~。」

「め、めんどい!?」

「そんなごちゃごちゃ考えも仕方ないやん!友達なんやから今助ける、それでええやろ!」

「そ、そんなことだけで・・・。」

「それで十分や!」

「・・・。」

「あと、そろそろこっちも集中せないかんから、しばらく話の続きはこれが終わってからや!」

「え、何?お前勝てると思ってんの!?」

 茶髪の男が根津に切りかかる。避けた根津の左足にダガーの女の電気のマラヴィラが当たる。その隙にピアスの男が槍を突き出す。動きの鈍った根津はわずかに右肩をかする。大きく後退し距離を取る根津。息が上がってきている。

「どうした、動きが鈍いぞ!」

 茶髪の男がまた根津に切りかかる。大久保は動かない。

 どうして・・・友達だからって・・・そんなの、そんなの・・・。

 根津は守りで精いっぱいだ。相手の3人の連携のクオリティーは高く、根津も気を抜けない。それに今は手負いな上にエナ切れでそもそも意識が飛びそうなくらい疲れている。どうにか一人でも削れればと思うが、相手にそこまで大きな隙もなく、うかつには手を出せない。またダガーの女の電撃が来る。避けた先で槍と刀が左右から迫る。根津は左後方に半身を引きながら回転し、攻撃をかわしながら茶髪の男の腹に槍で切りつけることに成功する。しかし、すぐに反撃が来る。今度は電撃と刀、槍。三方向だ。

 左手捨てるしかないな。

 根津は電撃が向かってくる方向に左側を向けながら進み、刀と槍をかわしながらも電撃を左手には受ける覚悟でいた。

「《睡蓮》」

 突如直径40cmほどの水でできたの花が根津と電撃の間に表れ、電撃はその花にぶつかり消える。根津は大久保を見る。

「もし裏切ったら許さないから!」

「ああ!ホンマ助かった!」

「邪魔しないでっ!《ポップパップ》!」

 ダガーの女は牽制として大久保に向けて電撃のマラヴィラを放つ。しかしマラヴィラの

威力は強くはないので大久保はこれを盾で防ぐ。真ん丸の盾の中央に電撃があたるとバチッと音を立てる。

「根津君!私攻撃のマラヴィラが―――。」

「分かってる!・・・だから守りは任せた!」

 根津はこれまでの【闘技】の授業の中で大久保が水のマラヴィラが得意なことも、でもそのマラヴィラを動かし攻撃に使うことができないことも知っていた。しかしさっきの防御のマラヴィラを見て決して操作が下手ではないことも分かった。そして反撃に出る。根津はピアスの男を狙う。ピアスの男の槍は和槍のようなシンプルな矛型。長さも根津の[ジャベリン]よりも短い。根津が突くとピアスの男は槍の柄で守る。

 甘いな。

 根津は柄に噛むようにぶつかった槍の先を柄を伝いながら槍を握るピアスの男の手まで滑らす。手元まで刃物が近づいたピアスの男は思わず右手を離してしまう。槍の握りが不安定になった隙に素早く[ジャベリン]を引き、突き出す。後ろに下がり避けたピアスの男だが、右胸上部に5cmは刃が刺さる。根津がピアスの男を刺す瞬間に刀が根津の後頭部に振り落とされ始めていた。しかし根津の頭に届く150cm前で水の花にぶつかる。水のマラヴィラは人体や他の物体に当たれば大抵は普通の水のように弾けるが、高密度のエナの塊であるアームズに触れると粘土でも切っているかのようにアームズに抵抗する。茶髪の男の刀も水のマラヴィラを切り抜けることができない。3秒後に水のマラヴィラが持続時間の限界を迎え弾けて消える頃には、もう根津は刀の攻撃範囲から外れている。茶髪の男がいくら刀を振ってもことごとく大久保のマラヴィラに防がれる。

 わ、私が・・・戦えてる!

「邪魔すんな!」

 茶髪の男は痺れを切らし大久保の方に向かう。大久保までの距離は30m、3秒後にはもう大久保を刀の射程に捉える。茶髪の男の一振りを盾で防ぐ大久保。しかし左側から蹴りを食らい体制を崩す。また男の刀が迫る。今度は右手のロングソードで防ぐ。男の蹴りは盾で防ごうとするも、茶髪の男は盾の上から足で押すように蹴ったため、尻餅をつく大久保。弾みで盾が手元から離れた。振り下ろされる刀。

「《睡蓮》!」

 刀が空中の咲いた花型の液体に動きを阻まれる。男は一度刀をリリースし、両手に1本ずつ刀をコンバートした。

「これでも守り切れるか!?」

 男は地面に腰を着いたままの大久保を蹴る。大久保は左肩を蹴られ、地面に倒れる。そして右の刀の刀が振り上げられた。ドスッという鈍い音が朝の森に響く。目を開けた大久保は腹を貫かれた茶髪の男が目に入る。木々の間からオレンジ色の日の光が差し、根津の上半身に着いた水滴に反射してまぶしい。

「ね、根津君・・・。」

 根津は槍を抜き、男の膝裏を刃先で深く切る。男はうなって倒れる。

「マジ蹴りはあかんて・・・女の子やぞ。」

「・・・離れて20秒も経ってねーぞ。」

「戦いなんて一瞬のもんやろ。」

 根津は一応茶髪の男の太ももをもう一度刺してから、倒れる大久保に手を差し出す。

「いける?」

「う、うん。」

「じゃあ、残りもサクッと行きますか!」

 大久保は根津の手を取り立ち上がる。ダガーの女は泣き出しそうな顔でうろたえる。


 迫間と宮本はアタッカー2人とファイターの女に手を焼いていた。大剣を使う女もそれなりの技術だが、問題はピンクのパーカの女と修司たちの戦闘へのサポートからこちらへの参戦に切り替えた火のマラヴィラを使う男の遠距離のマラヴィラが厄介だ。火のマラヴィラを使う男がこちらに専念する前に一人は倒したが、その男がこちらに本格的に参戦してからは防戦一方である。地面からは水のマラヴィラ、空中から火のマラヴィラ、そして大剣への対応。しかもこの大剣の女はあくまで迫間と宮本をアタッカーの元に行かせないことを目的に戦っている。

「そろそろ諦めて。《シュレイムル》。」

 パーカの女は無機質な口調でそう言いながらマラヴィラを使う。地面から飛び出る水の三角錐を迫間と宮本は分かれて避ける。宮本の方に火のマラヴィラが飛ぶが、これを斧を使い防ぎ、火のマラヴィラ使いの方に宮本が走る。

「行かせないよっ!」

 大剣の女が宮本の行く手を阻む。宮本と女が鍔迫り合いをしていると、地面から水のマラヴィラが生え、宮本は片足が浮く。体勢が崩れた宮本の右足が大剣で深く切られる。迫間が助太刀に入ると大剣の女は大きく2歩下がり距離を取る。

「大丈夫か?」

「まずい・・・まずいかも。」

 宮本の右足はふくらはぎの方を切られてしまったために痺れが動きに大きく影響してしまう。

「機動力半減・・・ってとこかい?」

 大剣の女がにやつく。木の葉に溜まった朝露の粒がぴちょんと迫間の肩に落ちた。

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