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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
31/50

踏ん張りどころ

 第7グループのメンバーは雨音で聞き逃さないように、ドローンが再生する音声に耳を傾ける。

「・・・ワ、仙進学園、学園長の飛騨です。サバイバル訓練の3日目ももうすぐ終わりになりますね。さて、みなさん、食料の調達はどうなっているでしょうか?島に放った動物も、食べられる果実などもだいぶ少なくなってしまったと思います。」

「やっぱり動物って学園が用意してたんだ・・・。」

「・・・そこで、そんなみなさんに良い知らせがあります。実はこの島の北東の一番高い山。きっと島中のどこからも見えるくらいに高いその山の頂上に食料のプレゼントとして子牛が放ってあります。」

「牛!?」

 捕まえられれば最終日まで食料に困らないぞ!

「しかし学園の用意した牛は4頭しかいないので、当然早い者勝ちになりますね。ははは。それに実はもう1頭はすでに捕獲されてしまっています。なくならない内に皆さんで仲良く食べてくださいね。では、みなさんが一回り大きくなって帰ってくることを期待して学園で待っています。」

 音声は止まりドローンは浮上し始めた。

「どうする?」

「そりゃあ行くしかないでしょ。」

「そうやろな・・・でも確実に山では熾烈な争いになるで。」

「確かに。」

 皆険しい表情のまま沈黙が流れる。一番最初に口を開いたのは修司だった。

「でも行かなきゃ俺らの食料ももうヤバい。・・・覚悟を決めて行こう。」

 根津は修司の言葉に頷く。

「治世君がそう言うなら俺も賛成や。」

「じゃあ私も!」

「う、うん。」

「まあ、最悪は逃げればいいしね。」

「そうと決まればすぐに出発した方がええな!」

「そうだな、山が見えてるうちに出発しよう。」

「おー!」

 

 16時09分。気温22度、湿度87%、南の風5m/s。北東部の山の頂上。第8グループは揉めている。

「おい、本気で言ってるのか滝田。」

「ああ、本気だ。」

「いいよ、滝田君、ここにいても大丈夫だよ。」

 原は顔を真っ赤にしている。

「いいや、ここにもうすぐ色んなグループ来るんだろうから・・・。それに俺らは今ある分の肉持ってれば食うには困らねーよ。」

「でも、せっかくこんなに肉があって、水も確保できる場所を手放すのか・・・。」

 川元は解体された牛のブロック肉と、近くにいる3匹の子牛を指さし訴える。

「うん、もうしばらくいても大丈夫だって。」

「ダメだ、ここが戦場になった場合に原ちゃんが危険になる。」

「私は大丈夫だよ・・・。」

 原は昨日の昼から体調を崩し、発熱と頭痛があった。山に登ったせいか、島の生活がストレスになったのかは分からないが、今日はもう朝から歩くこともままならなかった。滝田は朝から下山をしようと提案していたが、原本人がまだ大丈夫だと主張し、山に居続けていた。

「なあ、お前らは本当に原ちゃんが大丈夫だと思ってんのか?」

「・・・。」

 皆、原の症状が重いことに目を背けていただけに、真っ直ぐな瞳で見つめる滝田に目も合わせられない。

「俺は・・・俺は自分のわがままのせいでメンバーがこんなことになっても申し訳なく思ってる。下りたらいくらでも責められていいし、お前らの言うことは何でも聞く。だから・・・だからこのわがままだけ聞いてくれ。」

 うつむいて下唇を噛んで話を聞いていた川元が口を開く。

「俺らは結局滝田の言うとおりに今まで来て、戦闘をせずに済んでる。飯にも困ってない。」

「川元君・・・。」

「・・・根拠もなくここにいれば安全だと思ったり、残りの牛を他に渡したくないとかくだらない欲のせいで原ちゃんに無理させてたんだって気付いたよ。ほんとごめん。」

 原は小さく首を振る。頑張って笑顔も作る。

「山を下りよう。」

「・・・うん、そうしよう。」

「無理させてごめんね、原ちゃん。」

「ううん・・・ううん・・・。」

 原は今まで辛さに耐えていたのだろう。緊張の糸が切れ、涙を流している。

「サンキュな。・・・よし、山の南側は他のグループと会っちまうかもしんねーから、北側から下りよう。」

「でも北側はだいぶ足場が悪いぞ?原ちゃんはいけるか?」

「安心しろ、俺が原ちゃんを背負う。川元は残りの肉を、夏目は原ちゃんのリュックを、栗田は俺の横で敵襲に備えてくれ。」

 滝田の指示のもと第8グループは静かに下山を開始した。


 17時56分。第5グループはもうすぐ山の麓に着く。雨雲のせいで早々に闇に覆われた、ぬかるむ森の中を、敵襲を警戒しながら、歩いて来たので余計に時間がかかっている。

「そろそろ山に着くけど、もうほとんど先が見えないぞ。ライトを使うか?」

「いえ、もう少し光は使わずに進みましょう。登り始めるまではできるだけ目立ちたくはないので。」

「了解。」

「でもさ、篠河さんの読みだと他のグループが襲ってこない可能性も高いんだよね?」

「はい、他のグループにとっても戦闘で時間と体力を浪費するよりも一刻も早く山に登り、限られた食料を調達する方が良いと判断するグループも多いと思われますから。」

「じゃあそんなに警戒しなくてもいいんじゃない?」

「問題はそのような判断をしないような好戦的なグループに襲われることです。第4グループのように食料調達よりも戦闘を優先するグループにとって今は絶好の狩りのチャンスです。」

 第4グループに直接襲われた篠河は警戒を怠らない。20分ほどして山の麓のやや開けた場所に来た。山を見上げると所々に光が見える。

「足場が不安定な山道はライトを使いましょう。ただし、1列に並んで先頭と最後尾の方だけで。」

「おう、じゃあ、俺が先頭に立つ、最後尾は誰がやる?」

「宮本君にお願いしてもよいでしょうか?」

「僕?僕?いいけどどうして?」

「はい。宮本君は動物的な勘が鋭いので、後方からの襲撃にも対応できるかと。」

「おお、じゃあ、先頭も篠河決めてくれよ。」

「先頭は私も迫間君にお願いしようと思っていました。この中で単純な瞬発力が一番高いのが迫間君なので、迫間君が適任ですよ。その後ろに迫間君の支援で私、大久保さん、枝君、最後に宮本君と続きましょう。」

「よっし了解、じゃあ行こうぜ!」

 第5グループは登山を始める。


 19時06分。気温20度、湿度92%、南南東の風4m/s。第7グループは山の2合目にいた。雨はだいぶ弱まり、霧雨が舞っているような景色が広がる。簡易的な屋根をコンバートし、雨に濡れないようにしながら火を焚いた。おにぎりとともに冷えた体を温めるために昨日第5グループから奪った魚、の骨から出汁をとり、塩を加えたスープを作った。食べられそうな草も入れてみたが、どうも苦味が出てしまった。

「味はあれやけど、体はあったまるな。」

「ああ、ショウガみたいな葉があったのかもしれないな。」

「これであとどのくらい食料ある?」

「おにぎりが2個、スティックシュガーが2本、小さな木の実が7個やね。あ、それと水は1,5Lくらいはあるかな。」

「だいぶ少ないね・・・。」

「やっぱり寝ないで登った方がいいよね?」

「う~ん・・・多分このペースだと日の出までには登り切れるかもしれないけど・・・それはそれで危険だよな。」

「うん、眠気と疲労の中で戦闘になったら厳しいもんね・・・。」

「そうなるとどこまで登るかが問題やな。とりあえず10時まで登ってみて決めよか?」

「うん、とりあえずそれに賛成。」

「そうだな、そのくらいまでは登ってみるか。」

 40分ほどの休憩の後、第7グループは登山を再開する。この山は7合目までは木々が多く、視界も遮られてしまっているので襲撃には十分に注意した。時折開けた場所から下を見ると遠くにいくつかの光を確認できた。やはり多くのグループがこの山に集まってきている。修司は気を引き締め直したが結局10時になるまで襲撃はなかった。6合目の中ほどは樫やコナラがいくつか生えている程度に木の数は減っている。屋根をコンバートした下で5人は休憩を取りながら、根津は体調を確認する。

「どう?みんな元気?」

「俺は大丈夫。」

「私もまだ。」

「私も・・・。」

「うん、いけるよ。」

 根津は雪野の顔を覗き込む。

「雪野さん・・・ほんま?」

 雪野は顔をうつむけながら返事をする。

「ほ、ほんとだよ、大丈夫!」

「ふ~ん・・・。よし、じゃあ今日はここまでやな。」

「え?進まないの?」

「いやだって俺疲れたし、他のトコも休んどるやろ。見張り一人決めて今日はここまでにしよ。」

 根津はリュックを置く。

「まあ、無理しても危険だしな。」

「オッケー。」

 一時間半交代での見張りも決め、コンバートした屋根で木から伝う滴を避け、地面の湿りは敷物をコンバートしてしのいだ。霧の中でも肌寒かったが修司は疲れですぐに寝てしまった。


 サバイバル合宿3日目終了。


 4時02分。気温18度、湿度97%、南西の風1m/s。修司は見張りの交代のために渡に起こされる。

「治世君。交代だよ。」

「・・・ふああ・・・りょうかい・・・。」

 ・・・雨は止んでるけど・・・ずいぶん寒いな・・・。

 湿気と気温の低下で肌寒い朝だった。ローテーションとしては修司が最後で、5時30分にはまた山を登り始める予定だ。渡は修司に見張りを変わるとすぐに寝てしまった。コンバートされた低い屋根の下の雪野は呼吸も浅く、寝苦しそうにしているのが修司にも分かった。20分ほどすると修司も眠気が覚め、体も覚醒してきた。時間になるのをただ待っているのも暇だったので、[ハイパーシーン]をコンバートして振っていた。

 昨日の戦闘でもっと大きくても扱えることは分かった・・・問題は俺が強い一撃を与える機会をいかに作るかだ・・・。もしくは玉砕覚悟で相手の体勢を崩していくか?いや、それは無謀だな。むしろ相手のアームズを壊しにかかるのもありか?・・・お、それもいいんじゃないか?そうなればわざとぶつけていく方向も視野に入れて・・・。

 修司は相手の動きを想定しながら型を作る。今回は相手が迫間のようなスピードと手数を売りにしているイメージで。スピードは単純に柊が最速だろうが、柊の底が見えない以上迫間をイメージする。

 こうか?いや、迫間なら避けて右半身を切りに来るな・・・こうか、ああ、これならどっちに動かれても対応はできるな。そんでここで防御される前提の攻撃!・・・お!これを受けたら次に大きな振りを使ってもいいな・・・。

 自分の型を作る修司は生き生きとしていた。全の知らない、全を驚かせるような動きを作り出す作業が楽しくてしょうがないのだ。時を忘れ時刻は間もなく5時。日が差し始めている。夢中でハンマーを振る修司はかすかな音を捉える。静寂の森に自分の動く音だけが響いていたのに雑音が混ざっている。目をつぶり耳を澄ませる。

 ・・・葉を踏む音?枝が折れてる?・・・人!誰かが近くにいる!・・・しかもこれって!

 修司は急いで寝ているメンバーの元に向かう。

「おい!みんな起きろ!近くで戦闘してるぞ!ここから離れるんだ!」

 飛び起きたのは愛川。眠りは浅かったようだ。

「何?敵襲!?」

「違う、でも離れた方がいい。おい。根津!」

 根津と渡もゆっくりと動き出す。しかし雪野はなかなか目を開けない。戦闘の音は近づいてくる。マラヴィラを使う声がわずかに聞こえるほどに。

「雪野さん!雪野さん!・・・ごめん!」

 雪野は明らかにおかしい、そう思った修司は雪野の額に手を当てる。

「!?」

「なんや?どうした。」

「熱がある・・・雪野さん具合悪いんだ。」

「くっそ、やっぱりそうやったのか!」

「でもここから離れなくちゃ。俺が雪野さんを背負う。すぐに移動しよう。」

 雪野を背負い、雪野のリュックは根津が半覚醒状態で持つ。戦闘の音はかなり近くになった。男が何かを叫んでいるのが分かる。第7グループは固まって走りだす。木々の間を縫うように。走る足には朝露が当たり少しずつ靴を濡らす。修司は日々の訓練で走っているとは言え、一人背負っていては他のメンバーよりも速度は落ちる。メンバーはアームズをコンバートして構えながら走っているが、寝ぼけているせいもあるのか渡と根津のスピードも遅い。進むにつれて木は減り、第7グループの姿を隠すものがなくなっていく。振り返った修司はこちらに向けて走る人影を確認した。それを見て慌てて正面を向きなおし速度を上げるが、音からしてどんどん距離は近づき、相当な人数がいることも分かる。しかしその中で叫ぶ一人の男の声には聴き覚えがあった。

 ・・・まさか・・・。

「なあ!治世君、このままじゃあ追いつかれる!もう俺らのことも後ろは見えてるぞ!」

「やばい!どうしよ!」

 愛川は軽くパニックになっている。修司は覚悟を決める。さっきの声が聴き間違いであった場合はグループ全員をピンチに陥れるが、このままでも雪野にとって相当に危険である。深呼吸して渡に言う。

「渡さん!雪野さんとみんなの荷物を持って少し進んだ先に隠れててくれ!」

「え!?え!?」

 渡はよく分からないまま修司に雪野と荷物預けられる。

「ここは俺らで何とかする!もし襲われたらすぐに食料全部捨てて、逃げていいから!」「ちょ!治世君正気か!?向かってくるの10人以上はいるんやぞ!」

「みんなで逃げようよ!」

「いや遅かれ早かれもう追いつかれる!俺を信じてくれ!」

 何か言おうとした根津は一度それを飲み込んでから口を開いた。

「・・・分かった。信じていいんやな。」

「頼む。」

「ああ!もう!分かったよ!」

 根津と愛川も荷物を渡に渡す。渡は不安そうな顔をしながらも走り出し、遠くに見える茂みを目指した。振り返り来た道を戻り出す。修司それに続く愛川と根津。

「治世君、どんな作戦なんや!」

「あれを見てくれ!」

 いつも細い目をより細めてこちらに迫る集団を見つめる根津。根津ははっとする。

「・・・あ、あれって・・・。」

「ああ、だが賭けだ。もしかしたら俺らはこのままやられるかもしれない。」

「え?なんなの?なんなの?」

 愛川は二人が何を言ってるのが分からない。愛川が迫り来る集団を見ると、どうも1つの集団が先頭で、こちらに向かっている・・・いや表情がおかしい。先頭の集団の後を追う10名ほどは喜々としてとしていたり、何かを怒鳴っていたり、マラヴィラを飛ばしていたりするのに、先頭の3人は必死な表情だ。一人は怯えきってさえいる。・・・そう先頭を走っているのは3人だ。5人グループのうち2人は他のメンバーに背負われているのだ。先ほどの雪野のように。

「え、あ、あれって。」

 そしてその中でもやや後方で敵のマラヴィラが仲間に当たらないように防いでいるのは迫間だった。もう50mもないほどの距離だ。修司と迫間は走りながら真っ直ぐ互いを見つめる、あと30m。修司と迫間は同時に叫んだ。

「迫間!」「治世!」

「一緒に戦おう!」「一緒に戦うぞ!」

 二人の言葉はシンクロした。根津が前に出る。

「熱いやんけ!《フレインズ》!」

 いつもより格段に多い火球が走ってくる集団に飛ぶ。火球はきれいに迫間と篠河を背負う大久保、枝を背負う宮本を避け、後ろの10名に真っ直ぐ向かう。火球は第5グループを追う第9グループと第11グループの連合チームの足を止める。根津がマラヴィラで足止めをしている内に8人は合流する。

「宮本、大久保さん、少し先の茂みに渡さんが雪野さんと隠れてる。愛川さんが案内するから、そこにその二人を置いて戻ってきてくれないか!」

「え!・・・う、うん、分かった分かった!」

 宮本は修司の指さす方向に走ろうとしたが大久保が叫ぶ。

「待って!ホントに信じるの!?」

「大久保さん!時間がないんだ!」

「でも!怪しいよ!このサバイバルでそんなの絶対怪しいよ!」

 拒否する大久保の肩を掴み迫間が言う。

「俺を信じろ!」

 大久保は涙目だ。

「コイツらを信じる俺を信じろ!!!」

 大久保は泣きながら愛川に着いて走る。このサバイバル合宿中、幾度も戦闘を経験し、今日も寝込みを襲われた。15歳の少女である彼女の精神がもう弱り切ってしまっていても仕方がない。

「治世、助かった。」

「まだ早いって。」

「せやな。もうあちらさんも来るで!覚悟決めや!」

「ああ!お前こそ覚悟できてんだろな?」

「当たり前やろ!」

「よし、ここが踏ん張りどこだ!」

 3人はアームズを前の構え迎え討つ。 

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