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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
27/50

柊の弱点

 周囲を柊率いる第6グループに囲まれた第7グループ。奇襲を受ければ確保した食材が奪われる可能性が大きい。それを避けるために愛川、渡、雪野を先にキャンプに行かせ、修司と根津で時間を稼ぐ、そういう作戦だ。

「追手が来ても戦わないで逃げるんやで。」

 そう女子に言うと根津は振り返り、手を正面に突き出しマラヴィラを放つ。

「《フレインズ》。」

 十数個の5cmほどの火球が放射線状に飛び散る。火の球は藪の中や木の陰でぼふっと音を立てて何かにぶつかったことが分かる。それを合図に女子3人は後方に走り出す。同時に正面と脇から柊と細田、安堂、一色が出てくる。4人はすでにアームズをコンバートしている。見たところ先ほどの根津のマラヴィラを被弾しなかったのは柊だけのようだ。柊は修司の左斜め後ろの茂みに向かって言う。

「本郷、アンタは3人を追って。足止めしたらサイン!」

 茂みがゴソッと揺れると一つの人影が3人の走った方向に向かった。

「[ハイパーシーン]。」

 修司はハンマーをコンバートした。1m60cm。棘のついた頭の大きな金づちのようでもある。それを見て柊は不快感を露わにする。

「今度はハンマー?そんな動きの鈍い武器で戦えると思ってんの?」

「それを試すための戦闘だ。」

「ボッコボコにしてあげるわよ!」

 柊が向かってくる。後に続いて細田が走る。一色と安堂はまだ動かない。

「《フレア》。」

 先ほどより大きな火球が3つ、柊達に一直線に向かう。細田は斧のアームズで身を守ろうと足を止めたが3つの火球は柊の剣と盾に払われた。

「柊さん、俺もいるんやで~?」

「あんたまでイライラさせんな!《ハイドロ》!」

 水の柱が4本修司と根津の足元から突き出す。しかし2人ともこの技を知っているため回避に成功する。

「柊さん、2人は柊さんへの対策もあるんだろうから引いた方がいいよ!」

「うざい!アンタはホモダチと戦いたくないだけでしょ!」

 一色の発言を跳ね除ける柊。

「おい、ずいぶんだな。」

「うっさいのよアンタら、雑魚のくせに。」

 柊はだいぶ苛立っている。それを見て根津は修司に耳打ちする。

「このまま柊さん怒らしといたら時間稼げるんとちゃう?」

「アイツを怒らせるのは危なくないか?」

「いやもう怒ってるって。はは。」

「でもダメだ。みんなとの約束もあるし、無駄に怒らせないで、いなそう。」

「はいはい、りょうか~い。」

 根津は大げさに不服そうにしながら口角を下げた。

「《ハイドロ》!」

 根津と修司の間を割るように水柱が立つ。

「おしゃべりししてんじゃないわよ!」

「ほな、行こか!」

 根津は修司にアイコンタクトをしてマラヴィラを放つ。

「《フレインズ》!」

 小さな火の玉が飛び散るが柊は盾で守る。

「そんな攻撃。」

 柊が盾をから顔を出すと修司が3mほどの距離まで近づいていた。

 目隠しっ!でも・・・甘いのよ!

「《ブリリアン》。」

 柊の盾が強い光を放ち修司の目が眩む。修司がひるんだ隙に柊が修司を切りつける。

「5mバック!」

 根津の言葉で大きく後退する修司。一撃はかわす。しかし柊は攻撃をやめない。

「《フレア》。」

 追う柊に火球を飛ばすが柊は盾で防ぎ修司を切る。左腹を3cm切られる。柊は追撃をかけようとするが、咄嗟に身を引く。

「なんや、冷静やんけ。」

「アンタの作戦なんて分かりきってるのよ。」

 柊はあと数cmで根津の間合いであることを理解して引いた。

「治世君、目はどうや?」

「ああ、もう見える。助かった。」

「柊さんは光のマラヴィラが一番得意やの言い忘れてたわ、悪い。」

「謝るなって。」

 また柊が動き出したが、柊の前に細田が出てくる。

「楓ちゃん、任せて!」

「真尋!」

 細田は修司に1mほどの半月斧を振る。修司はハンマーをぶつけ対応する。重さのあるハンマーに細田の斧は弾かれ、その隙の修司は追撃かけようとするが、柊が水柱のマラヴィラで阻止する。

 中距離のマラヴィラも使えるから瞬間的に2対1の構図を作れるのか・・・だが。

「《フレア》。」

 根津の火のマラヴィラが細田の足と腹に当たる。

 こっちも同じや!


 その後5分ほどの戦闘は続くが、柊達は修司と根津を落としきれずにいた。根津が修司にささやく。

「修司君、そろそろ撤退しよか。もうエナも空や。」

「ああ、もう大丈夫だとは思うが・・・どうやって巻く?」

「そりゃあ・・・ダッシュやろな。」

「柊は早いぞ?」

「でもたぶん柊さんにも弱点がある。あのな・・・。」

「それでいこう!」

 根津が修司に作戦を伝えた瞬間に細田が根津に切りかかる。根津はいなし、細田はよろける。柊はマラヴィラで補助をするも根津はそれを避けない。

 何する気!

 柊は細田の元に駆け寄ろうとするが、それより早く修司と根津が細田を囲み、何かをする。細田がううっとうなり声を上げる。柊の間合いに入る。切られる直前に修司と根津は飛びのく。修司と根津が離れた跡にはコンバートされた網やらロープに絡まった細田がいた。

「これで有利になったつもり!」

 柊が吠える。

「いや、もう戦わんで。」

「は?」

「俺らは逃げるが、お前が追って来れば細田さんは置き去りになるぞ。」

 はっとする柊。

「そういうことや。じゃあな!」

 修司と根津は茂みの中に消えていった。柊は戦闘中も友人の細田を危険な目には合わせないように配慮していたことを見抜かれていた。そのことで柊とって弱点になりえるものは彼女自身にあるのではなく、彼女の外にあるものだと気付かれたのだ。

「アンタら追いかけなさい!」

 安堂は動こうとしたが一色が動かない様子を見て足を止める。

「それより細田さんを解いてここから離れた方がいいよ。このまま留まるのは危ないよ。」

「偉そうなこと言うんじゃないわよ!」

「それに本郷君からの合図がないってことは逃げられちゃったんだし、あの二人も残ったってことはきっと二人とも食料を持ってないんだよ。」

「黙れ!役立たず!」

 吠える柊だが一色は言葉続ける。ただ今度は苦しそうな顔をして。

「・・・あとあの感じからしてここら辺がキャンプならさっきのあれがきっと・・・。」

 それを聞いて柊の顔は緩む。

「あ~、あれがアイツらのキャンプだったなら・・・イイ様ね!」

 柊は機嫌を直して細田に絡むロープを切る。細田は申し訳なさそうに柊に謝る。

「ごめん楓ちゃん。私が出しゃばらなかったら楓ちゃん1人でも十分勝てたはずなのに・・・。」

「いいのよ。私のために頑張ってくれたでしょ?」

 柊は笑顔で答えた。一色は悲しそうな目で修司たちの消えた茂みを見つめている。

 

 15時39分。気温28度、湿度75%、北東の風2m。天気曇り。第5グループの3人は釣りを終えキャンプへの帰路にいた。第7グループに魚を盗られた後も釣りの成果はイマイチで小魚が7匹程度しか釣れていなかったが、一度帰ることにした。

「くっそ~、今度は7グループを襲って食べ物奪ってやるからなー。」

 迫間は悔しそうにそう言う。

「そうだね、帰ったら篠河さんにそれ相談してみようか。」

「ああ、篠河になんか作戦立ててもらおう。」

 そう言っている間にキャンプまで着いた。しかしそこは4時間前に出発した時のキャンプの様子とは全く異なっていた。ぐちゃぐちゃになったテントと荒らされた荷物、散かった薪の傍には篠河と枝が倒れている。3人はすぐに駆け寄り、意識を失った枝の肩を迫間が揺する。

「おい、枝!枝!」

 枝はうなりながら目を薄く開ける。

「枝!何があった!」

 枝はゆっくり震えながら唇を開ける。


 時は遡り、15時12分。修司と根津は第6グループとの戦闘から逃げた後も追われることを警戒し、遠回りをしながらキャンプへと向かった。目の前の木にある修司の付けた目印がもうキャンプが目前であることを示している。しかしキャンプに着くとそこには女子の姿はなく、テントは崩れ、薪も蹴り飛ばされたように散っている。

「なんやねんこれ・・・。」

 修司はすぐに辺りを見渡す。もしこれが本郷との戦闘の跡だと考えたらここを移動して4人がどこかに向かった形跡があるはずだからだ。その時、左斜め奥の茂みがごそごそと動く。

 まずい・・・今は根津のエナも切れてる。戦闘になったら・・・いや俺が時間を稼ぐ!

 緊張が走るなか、茂みから出てきたのは髪に葉っぱを付けた雪野だった。雪野は茂みから顔を出す瞬間にぷはっと息を吐いた。愛川と渡も続いて出て来る。修司と根津は小走りで近寄る。

「大丈夫だったのか?」

「うん。」

「何があった?」

「それが私たちにも分からなくて・・・。」

「本郷と戦闘になったんじゃないのか?」

「ううん、本郷君は一瞬追いつかれたけど、雪野さんのマラヴィラで上手く巻けて。でも20分前くらいに着いたらこんなことになってて・・・。それで片づけをしてたら人の気配がしたからとりあえず隠れたら二人だったってわけ。」

「誰がこんなことを・・・。」

「もしかして柊さんたちなのかな・・・。」

 渡がポツリとそう言った。4人の視線が渡に注がれる。

「あ!別に確証があるわけじゃないんだよ。でもさ第6グループの居た方向ってちょうどこのキャンプの帰り道だし、もしこのキャンプを壊した後に待ち伏せしてたって考えたら・・・。」

「筋は通るな。」

「楓ちゃんの性格からしてあるかもね・・・。」

 5人は神妙な面持ちで考える。

「でも、とりあえずテントを作り直そうよ。塩も作らないといけないし、手分けしよっか!」

 明るく愛川が切り替えようとする。

「いや、ちょっと待ってな。」

「どうしたの根津君。」

「・・・キャンプはここやない方がええんやない?」

「どうして?」

「犯人が誰であれここにキャンプがあることがこんなことする誰かにバレてるやん。」

「確かに・・・。」

「ちょっと手間やけど、少し移動した方がええやろ。それにここら辺の木の実やらも少なくなってるし。」

「・・・そうだね。うん、それがいいね!」

 愛川が賛同し、雪野と渡も頷く。

「よし、そうなれば日が暮れる前の移動しよう。」

「うん、引っ越し開始だ~!」

 幸いにも食料や荷物は持って歩いていたため被害はないが、後味の悪い引っ越しになった。


 15時40分。第7グループから何も奪うことができなかった第6グループは本郷と合流後すぐに別の獲物を見つけて戦闘になっていた。相手は第1グループ。2組のグループ以外は柊と初めて戦うと大抵その強さに面を食らう。今回も先陣を切る柊に女だと油断していたせいか、先ほどの戦闘で柊に苛立ちの募っていたせいか、だいぶ第1グループが劣勢だ。追い詰められた第1グループは一人の合図の元バラバラに逃げ出す。

「コイツら虫の息よ!追って!」

 第6グループのメンバーも一人一人追う。柊は一番体格の良い男を相手にしている。男は大剣をブンブンと振るが柊はひらりとかわし、左胸から腰まで袈裟切りにする。体を引く男に追撃をかけ、左の太ももに片手剣[クライシス]を突き刺す。太ももを刺された男の最後の力を振り絞り振り降ろした剣も柊の盾[セイブ]にあっけなく防がれ、引き抜いた片手剣で右足も突き刺される。膝を付く男の両方の肩、肘、手首、膝を順番に切って動きを封じる。

「く、くそっ・・・。」

 無念さを表す男を横目に荷物を漁る。

「なんもないじゃない。」

「あいにく俺は戦闘要員だからな。食料は他だ。無駄足ご苦労。ははは―――うっ!」

 男の腹を無言で踏みつける柊。

「きゃー!」

 突如悲鳴が聞こえ、曇り空に紺色の鳥が逃げるように飛び去る。

「真尋!?」

 柊は悲鳴の方向に走り出す。

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