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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
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信頼と心配

 11時59分、島の北岸、バスの到着地と自身のキャンプ地の中間地点に第5グループの枝、迫間、篠河がいる。蒸し暑い森の中で木の実を集めてはコンバートした籠の中に入れていく。

「この周辺はもうずいぶん木の実がなくなってしまいましたね。」

「もしかしたら他のグループの行動範囲に被ってるのかもな。ここって結構最初の解散場所に近いしさ。」

 周囲を見ると木の実が取られた跡の他に足跡、切った跡など、誰かがいたことが分かる。

 迫間がふと上を見上げると空にポツポツと黒い影がいくつか浮かんでいることに気付いた。

「な、なあ!枝!篠河!あれ!」

「あ、あれって!」

「もうそんな時間でしたね。」

 空に浮かんでいた物は次第に降下して、それが食料支給用のドローンであることが分かる。ドローンは3人の元で吊るしてあった袋を落とす。ドローンは上昇し、また粒のようになって消えた。一番近かった迫間が袋を拾い、開けると中にはおにぎりが6個、水の入ったペットボトルが4本、板チョコが2枚入っていた。

「また少ないことで・・・。」

「しかもおにぎりの数がいやらしいな。いっそのこと人数分ピッタリにしてほしいよ。」

「でもこのチョコはどういうことでしょう?」

「各グループに毎回異なったスペシャル食材が支給されるんだって俺聞いたことあるわ。まあ嗜好品ってことであたりではあるかもな。」

「栄養バランスとしてはタンパク質を補給できるものがよかったですが・・・。」

「じゃあ、午後は魚でも釣ってみようか?」

「それいいね!」

「では一度テントに戻って番をしていただいてるお二人にこのことを報告しながら昼食にしませんか?」

「賛成。俺もずっと。腹減ってたんだわ~」

 3人はキャンプに向い、森の中に消える。


 12時08分。第8グループは山の5合目に来ていた。ちょうど届いた食料を食べている。

「やっぱ腹減ってるとただのおにぎりでもうめぇわ~。」

 滝田はおにぎりを頬張る。支給品の中には大豆が400g入っていたがそれは非常食として取っておくことに全員で決めた。

「てかさっきの滝田君すごかったね。他のグループをあっという間に動けなくしてさ。」

「いやいや、あいつらは連携できてなかったからってのがデケーぞ。」

 口いっぱいにおにぎりを頬張る滝田が答える。

「それでもすごかったよ、あの嫌な感じのロン毛男なんて滝田君強すぎてめっちゃ驚いてたじゃん。ははは。」

「そうそう、おかげでイノシシの肉ももらえたし、大活躍だったじゃん。」

 焚火のでは串に刺された肉が焼かれていた。肉は脂を滴らせ、香ばしい匂いがあたりに漂う。

「ああ、滝田すごかったな・・・でもどうせなら全部もらってよかったんじゃないか?勝ったのに半分だけだなんて・・・。」

「いや、それだとアイツらが困るじゃん。」

 滝田は当然のことのようにそう言う。

「まあ、この山にもこういううまい肉の動物がいることを祈ろうぜ。はは。」

 滝田は山の麓で襲いかかって来た第12グループのメンバーをすべて行動不能にした上で食料を奪い取るのではなくあくまで交渉という立場を変えなかった。当然第12グループは滝田の申し出を飲み、肉1kgとおにぎり1個、水800mLを渡した。

 第8グループは食後、山頂を目指す。今登っている山はこの島で一番大きな山だが、あと5時間ほどあれば山頂に着く。当初は山頂まで登る予定はなかったが、今の滝田が登りたいと言うのであれば強く反対する者はいなかった。


 13時47分。気温32度、湿度77%、南西の風3m/s。第5グループの迫間、宮本、大久保が北の海岸で釣りをしている所を森の中から第7グループの5人が見つける。第7グループのメンバーは海水を取ることが目的だった。午前に小さなバケツ一杯分の海水を火にかけたが、それでできた塩は昼食で使うと半分ほどになってしまったため、今度はもっと多く作ろうと決めていたのだ。しかしいざ海岸に来てみると迫間や宮本が釣りをしていたという具合だ。第7グループは茂みに隠れながら小声で会議を始める。

「どうする?他の所に行くか?」

「でもこっちの方が数が多いから戦って食料取っちゃった方がいいんじゃない?」

「確かに、一理あるな。あっちは確実に魚持ってるようやし・・・勝てなくても魚くらいは奪えるかもな。」

「た、戦うんですか?」

 第7グループはここまで戦闘はない。昨日木の実を探しているときに一度他のグループを遠くに見つけたが、数的不利があったため根津が回避することを選んだ。

「そうやな、どう思う治世君。」

「う~ん・・・。」

 ハンマーを試したいが・・・なんかあの和気藹々と釣りをしてる迫間たちを見ると奇襲をかけるのは気が引けるな・・・でもただ引き下がるってのも・・・。

「あ。」

「しっ!」

「ごめんごめん。」

「どうしたの?」

「いや、あくまで一案なんだけど・・・。」


 迫間と宮本、大久保は今日8匹目の魚を釣り上げていた。

「ん~、どうも大物は釣れないな。もっと沖の方じゃないとこのくらいの大きさが限界なのか?」

「でもこの魚なんて結構大きくない?」

「まあ、20cmはあるだろうからマシだけど、そのサイズがあと10匹くらいほしくないか?念のために。」

 23cmの魚が1匹いる他はみな10数cmほどの小魚だった。

「そうだね、そうだね!篠河さんもできるだけいっぱい釣ってきてって言ってたもんね。」

「ああ、燻製にするとか言ってたぞ。」

「すごいわ~、さすが篠河さん。調味料も持って来てたし女子力高いわよね。」

「女子力なのか?・・・まあさすが優等生って感じだよな。」

「ははは、確かに確かに。」

 楽しくと話す3人の後方で砂が不自然な動きをする。20cmほどボコッと盛り上がった砂の山が少しずつ3人に近づく。その小さな奇妙は遂に3人との距離を1mほどに詰める。ふと後ろを見た迫間は驚くべき光景を目にした。突如表れた砂の山の中からずずっと小さな手が出てきて、傍にあった魚を入れた網を掴もうとしていたのだ。その奇妙を見た迫間は声も出せず、考えるより先に手が動き、持っていた竿を砂から伸びる手に勢いよく振り降ろす。 竿が砂の山に触れる瞬間に砂の山の中から影が飛び出す。影は手に網を持ち、森の方に走っていく。後姿から雪野の《岩猿》だと迫間は分かった。

「やられた・・・。」

「追いかけようよ!」

「ダメだ。」

「なんで!」

「今森に入れば待ち伏せされてる可能性があるし、それに雪野がいるのは第7。治世と根津のコンビは頭が切れるから危険だ・・・。」

「確かに確かに、迫間君の言う通りだね。」

「え~じゃあ・・・。」

「・・・仕方ないさ、警戒しながら釣りなおそう・・・。」

 3人は意気消沈で竿を垂らす。


「・・・追ってこないみたいだね。」

「ふぅ・・・よかった。」

 1分ほど走り、迫間たちが追ってこないことを確認すると第7グループのメンバーは足を止めた。

「よ!策士治世君!」

「雪野さんのエナが優秀だからだよ。」

「わ、私にはあんな使い方思いつかないからやっぱり治世君すごいよ!」

「うん、治世もめぐちゃんもどっちもナイスってことだね。」

 愛川はそういうと目を閉じながらうなずき、一人で納得している。

「よし、あとは海水とって帰ろうか。」


 14時11分。島の北側の森の中。第10グループのボロボロのテントとグチャグチャのキャンプ、わざと踏み荒らしたような足跡。第6グループの柊が散らばる燃えカスを蹴って悪態をつく。

「チッ!ここもスカ!どうなってんのよ!」

「ど、どうしてここまで・・・。」

 一色は青ざめた顔をしている。

「黙ってなさい!ウザいのよ!」

「ぼ、僕は―――。」

 柊は森に視線を送ると何かを見つけた。

「誰か来る!撤退よ!」

 森の奥からは第10グループのメンバーと思われる人影が迫っている。柊の指示に従いみな森に入る。一色は荒らされたキャンプを再度見ると居たたまれない表情で森に消えた。

 

 14時21分。第7グループのメンバーは海水をバケツ2杯分と魚8匹、フジツボのような貝30個を持ってキャンプへと戻る。少し先にある1本のブナの木の3mほどの高さのところに数字が彫ってある。

 13番・・・そろそろキャンプに付くはずだ。

 修司はキャンプの周囲やこれまで歩いたところに目印を刻んでいた。これがあることで迷うことを避けようと考えたのだ。

 まあ、雪野の鶏が帰り道を教えてくれるから必要なさそうなんだがな・・・。

「今日の夕飯は貝のスープに焼き魚か・・・結構腹に溜まりそうだね!」

 渡が嬉しそうに全員に語り掛ける。

「うん!楽しみだね!」

「あ~夕飯までの時間にまた豚探しにいこか。雪野さんのマラヴィラあれば余裕なんやない?」

「あ、え?ど、どうだろ・・・。」

「猿とかでパパッと探したらいけるんちゃうん?」

「え、えっと、それがあんまり遠くに行かれるということ聞いてくれなくなって・・・。」

「え?そうなの?めっちゃ面白いね、それ!」

「ほえ~そんなんあるんやな~。」

 ホント雪野のマラヴィラは変わってるな。

 ふいに先頭の根津が立ち止まる。

「ど、どうしたの根津君?」

 ゆっくりと振り返る根津。その顔は真剣そのものだった。

「やばい、待ち伏せされとる。」

「えっ!」

 雪野は自分の口を押えて声を殺す。

「なんで分かるんだ?」

「治世君から見て2時の方向の木につけてある印、柊さんがよう使うマークや。」

 修司が2時の方向の木それとなく見ると1本にアスタリスクのような印が木に刻まれている。

「それに足元見て、2m先。トラップや。」

 根津の正面の少し先には低い草に隠れて細い弦のようなモノがわずかに光を反射していた。

「今ももう勘付かれたことに気付いていつ来るかわからん・・・だから、これ持ってみんなはキャンプ行っててや。」

 根津はバケツを愛川と渡に、おにぎりの入った袋を修司に渡す。バケツの上には走ってもこぼれないように蓋がコンバートされている。

「俺が足止めしてる間にキャンプにダッシュや。」

「待て、それなら俺も残る。」

 修司は持っていた魚と貝の入った袋と預けられた食料を雪野に渡す。

「私も!」

「みんなで戦おうよ!」

「ダメや。治世君もや!」

「なんで!」

 愛川が噛みつく。

「柊さん相手にこの食料守りながらは分が悪い。それなら食料だけでも非難してもらう方が損失は少なくてええ。」

 根津の言葉に誰も反論できない。

「根津。お前の理屈は正しい。」

「じゃあ―――」

 根津は振り返ろうとする、しかしその根津の肩を掴み修司は続ける。

「でも・・・でもお前だけを置いていけない。」

「・・・信頼してや。」

「信頼はしてる。だけど心配もしてる。だから俺と根津で協力して時間を稼ぐ。それならしばらくはリスクも少なく時間を稼げるだろ?みんなそれでどうだ?」

 一瞬の沈黙の後、雪野が声を発する。

「わ、私はそれでいいと思う。」

「んな、雪野さん、でも―――」

「でも、根津君は治世君を守って、治世君は根津君を守ってね。私たちも・・・私たちも食料を守るから。」

 雪野は顔を赤くしながら、勇気をだして賛成したようだ。

「治世君、根津君任せた。私たちも絶対奪われないからさ。」

「うん、ごめんね、私も頑張る!」

「よし、意見はまとまったな時間もないぞ根津。」

「・・・分かったわ、もう強情すぎや・・・。」

 根津は遂に諦めて、そして大きくため息をついた。そして大きく息を吸うと。

「俺のマラヴィラを合図に後ろに走り出して、しばらくしたら雪野さんのマラヴィラでキャンプに行くとええ。」

 女子3人がうなずく。気づくと空はだいぶ雲が広がっていた。



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