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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
24/50

サバイバル合宿開始

 木曜の朝、7時に高等部校舎前に集合になった。3台のバスが並び、真ん中のバスのフロントには【1年2組様】と書かれている。バスに入ると出席番号と思われる数字の書いた紙が各席の背もたれに張られている。

 20人の生徒にこんなでっかいバスが用意されてる理由はこれか。

 バスの後ろ半分には袋やトランクに入った荷物が積まれており、サバイバル中に支給される食料や救急セットなどだと思われる。

「あ、修司おはよ~。」

「おはよう。」

 眠そうな一色が挨拶する。意外に一色は朝が弱いらしい。

 その後もぞろぞろと生徒がバスに乗り込み、点呼を取った後、出発した。バスが首都高に入る頃に桐山がマイクを使い指示を出す。

「みなさんおはようございます。」

「オハヨーございまーす。」

「これから5日間のサバイバル合宿が始まりますが、サバイバル会場までの移動の間に具合が悪くなったりトイレに行きたくなったりしたら速やかに知らせてください。・・・では早速なのですが、これから配る紙をよく読んでください。」

 桐山はプリントの束を後ろの席の生徒に回す。プリントは

「・・・はい、全員に配られましたね。サバイバル中はこのリストにあるように4つのグループに分かれて活動してもらいます。詳しいルールは着いてからまた説明しますが着いたらバスの前にこのグループ毎に並んでもらいますので、自分のグループの番号とメンバーを確認しておいてください。」

 治世、治世・・・。第7グループか。7?・・・あ、学年全体でのグループ番号か?2組は5から8までだからな。でメンバーは・・・お、根津と一緒か、他は、愛川、雪野、渡・・・女子の方が多いのか。


 途中のサービスエリアでトイレ休憩を一回挟んだ。バスはしばらく走ると海岸に着く。

「おー!海だっ!」

 修司の前の席の滝田が立ち上がり声を出す。みなつられて窓から海を見る。バスは砂浜へと降りていく。

「ここ?」

「もう着いたの?」

 バスの中がざわめきだす。

「窓は閉めといてくださいね。」

 担任の桐山はそう指示を出すとまた座った。いったん停止したバスはまだエンジンを切っていないようでブルブルと振動が伝わる。目の前の1組用のバスを見るとマフラーの先端が上を向き、プロペラのような物が出てきている。

「お、おいまさか。」

 迫間がそう言った瞬間、バスはゆっくり再出発する。バスの中では生徒のざわめきが大きくなる。担任の桐山は何も言わない。ついにバスは窓の高さギリギリまで海に入った。そこで急にバスの揺れがエンジンの震えとは異なるものになった。海に浮かびプカプカと揺れていることが分かる。

「水陸両用バスかよ!カッケ―!」

 滝田が言ったのが聞こえる。水陸両用のバスは都内や観光地にいくつもあるが乗ったことがない生徒も多いようだ。バスはゆっくり進む。後ろに続く3組用のバスでも生徒がはしゃいでいる様子がフロントガラス越しにも分かった。2組用のバスでもみな窓に張り付くようにして外を見る。50分ほど海を進むと遠くに小さく島が見えてきた。平たい山のような形状で近づくと砂浜が広がっているのが分かった。バスは砂浜にのっそりと登る。陸にタイヤが上る感覚が伝わる。安定した地面に接している安心感がある。

「では、前の人から順番に降りてください。降りた人は途中で言ったようにバスの近くでグループ毎に並んでおいてください。」

 修司が降りると他のクラスもバスから降りて並んでいる。他のクラスとの合同の授業のなかったせいで名前も知らない人ばかりである。

「治世君、こっちやで。」

 先に降りていた根津が修司を呼ぶ。グループの他のメンバーももういた。

「いや~、治世君と一緒でよかったわ。とりあえずよろしくな。」

「ああ、よろしく。」

「それに女子のみなさんもよろしくお願いします。」

「うん、よろしく。」

「よろしくね。」

 グループのメンバーは優しそうで修司は安心した。一方第6グループは柊と取り巻きの一人の細田二人だけが楽しそうに話している。第6グループの男子は一色、安堂、本郷だ。

 一色、あの女子とはやり辛いだろうな・・・。

 迫間は第5グループ、滝田は第8グループとなった。他のクラスも全員が並んだところで1組の担任兼【闘技】の教科担任兼学年主任の国谷が話を始めた。

「お前たちはこれからサバイバル合宿を行うわけだが、サバイバル合宿についてここで確認する。よく覚えておけ。」

 何人かの生徒がメモを取る準備をした。

「まず1つめ。このサバイバル合宿は今、つまり木曜日の12時から来週の月曜の16時までの5日間で行われる。その間この島の中でサバイバルを行うが、具合が悪くなったらこれから各グループに配る携帯電話に登録されている番号に電話をすれば教員の誰かが助けに行く。ただ途中で脱落した者とそのグループは後日その分の補習を20日間受けてもらうから夏休みはないと思え。」

 桐山と3組の担任兼【精製】の教科担任の木崎が各班の先頭にいる生徒に1つずつ見るからにレンタル会社の携帯電話を配った。

「2つめ。このサバイバル中の食料だが、今日の分はこの後配るが一定量は毎日12時に各グループのもとにドローンで運ばれる。だがそれでも足りない場合は他のグループの物を奪うのでもいいし、この島の物を調達するのでもよしとする。なお食料を奪う際は過剰な攻撃を行わず、相手が降参した場合は速やかに攻撃を止め、また降参した側も速やかに食料を渡すこと。あくまで授業であることを忘れるな。【闘技】の時間と同じように正々堂々と戦え。ただトラップなどを仕掛けるのはいいからな。それにあくまでサバイバルをする訓練なので戦争の真似事などとは思わないように。」

 奪うという言葉で場に少し緊張が走った。

「3つめ。これが最後だが、今から第1グループ、第5グループ、第9グループから順番に各クラスの担任の先生から今日の食料をもらってから出発する。その際に財布や携帯といった貴重品は手前の大きな袋に入れて預けておくように。これは毎年預けずに行ってなくす者が出るから、なくしたくない者は預けて行け。いいか、持って行くと絶対なくすからな。」

 国谷が口を酸っぱくして注意をした後、それぞれの班が出発した。最初の3グループが出発してから5分後に次の3グループが出発した。それぞれ海岸沿いを歩いて行ったり、森に向かって走って行ったりと消えていく。第7グループも貴重品を預け、食料を受け取るとすぐに海沿いを歩いて行った。出発の時間になる前に根津が森の中で待ち伏せされると怖いから少し海沿いを移動してから森に入ろうと提案したからだ。歩きはじめてしばらくすると森の方から多くの鳥が飛び立つ音がした。

「これってどこかで戦い始めてるってこと?」

「かもね。」

「やっぱり待ち伏せにあったのかな?」

 不安そうに雪野が言う。それを聞いて愛川真実(まなみ)は感心したように言った。

「根津君すごいね、よく待ち伏せされるかもって分かったよ~。」

「それ!私も思った!根津君サバイバルとかできるの?」

「いやいや、こういうのって映画とかでもあるやん?なあ治世君?」

「ま、まあ見たことはあるかな。でも俺も思いつかなかったし、すごいよ根津は。」

「いや治世君までやめてって。」

 根津は照れをかくしながら言う。

「あ、そういえば渡された食料ってどのくらいあるの?」

 渡まるみは根津が持っている袋を指さして聞いた。根津は袋の口を開けて中を見る。

「うわっ、全然ないやん。」

 袋の中身はおにぎりが8個と水の入った500mLペットボトルが4つ入っていた。

「8個って・・・これじゃあ一人1個でも今日の夜には足りなくなるじゃん!」

「食料調達が必須やな・・・。」

「一度みんなの持ち物を確認した方がいかもな。特に水とか。」

「お、さすが治世君。そうやね、俺は500の水が3本と服、タオル、ライター、歯磨き粉とかとナイフやね。」

「俺も500の水が3本でそれ以外も根津と一緒だな。雪野さんは?」

 突然名指しされて驚く雪野あわあわしながら答える。

「わ、私はお茶が2本と服とタオルと替えの靴です。」

「ちょっ、みんな水結構あるんだね。私1本の半分くらい、それと服にタオルとシャンプーとか。」

「あ、私もそんな感じ。一応折りたたみの傘あるかな。」

「水は途中で汲めればいいが・・・どうする?食料はとりあえずおにぎりを1つずつ配っておくか?」

「そうやね、とりあえず渡しておくわ・・・はい、はい・・・で、残ったのは誰が持つ?奪われる危険とかもあるけど・・・。」

「・・・私は根津君でいいと思うよ?」

「うん、俺もだ。」

「私も。」

「根津君勝手に食べないでね?ふふ。」

「わ~、信頼が重くのしかかるな~。はは。頑張るわ!」

 根津は食料の入った袋をリュックにしまった。

「よし、じゃあどうする?まずは小高いとこで拠点にできるとこでも探す?」

「そうだな。どっかに決めておけば食料の捜索した後も集まれるしな。」

「うん、分かった。」

「じゃあ、この先の開けたとこから森に入って探そうか!」

「了解!」

 第7グループ。12時27分現在問題なし。


 バスの着いた海岸から北西に約3キロの地点。

「篠河さん、こんな感じでいい?」

「ええ、いい感じですね。大久保さん。」

「葉っぱもこんなもんでいいか?」

「そうですね宮本君、もう少し大きいのを1、2枚持って来てもらってもいいですか?」

「お、結構形になってるな、篠河さんこんなこともできるんだね。」

「本で読んだことある程度の知識ですが、学級委員としてグループの方が快適なサバイバルを送れるようにいたします!」

 第5グループは篠河の指導でテントを作っていた。最初の出発だったのでいち早く見晴らしの良い丘を陣取ることができた。テントは大きな枝を骨組みにして葉を被せ、粘土質な土をコンバートし補強している。またテントは地面のくぼんだ部分をさらに掘っているので若干の涼しさが保たれるように設計される予定だ。テントの脇には川が流れているので水の確保はできている。第5グループ、13時19分現在、順調。


「食料はもらっていくわ。真尋、そっちは真尋が持ってていいよ。」

「ありがと楓ちゃん!」

 第6グループは待ち伏せを仕掛け第2グループから早速食料を奪った。第6グループでリーダーシップを取るのはもちろん、柊は相手から奪い取った食料は奪い取った人の物だとし、分け合うことを拒否した。相手のグループは一人が1つずつおにぎりを持っていたようで、倒れる2人の生徒から柊は自分の分と細田の分のおにぎりと水を取ると他のメンバーに指示を出す。

「撤退よ。」

「え!まだ倒せてないぞ!」

「遅い奴は知らないわよ!ここで残って袋叩きにされたいの!?」

 第6グループの男子メンバーは相手を倒しきれなかったようで収穫はない。しかし柊の指示に従い森の中に消えていく。3分ほど走って、追手がいないことを確認してから柊が止まる。

「おい!柊、俺らの分はどうなんだよ。」

「うちは自分の分は自分で調達って決めたでしょ。足りないなら木の実でも探しなさいよ。」

「でも。」

「アンタらがチンタラしてんのが悪いんでしょ。」

「・・・。」

 柊のキツイ目と口調に本郷は何も言い返せなかった。第6グループ、12時46分現在、険悪。


「滝田、ほんとにこっちでいいのか?」

「ああ、たぶんな。」

「たぶんって・・・さっきから全然山に近づいてる感じしないぞ。」

「まあ何とかなるって。はは。」

 第8グループは滝田が山に登れば敵に襲われないと主張し山に向かってズンズン進んでいた。奇跡的に待ち伏せの奇襲は受けていないが、それもこれも滝田が山とは見当違いの方向に進んでいるおかげであることは誰も知らない。

「ねえ、ほんとに滝田君で大丈夫かな?」

「ね。滝田君って闘技は強いけど、頭は・・・じゃん。」

「どうする?」

「でもとりあえずは滝田君で様子見てダメだったら川元君に仕切ってもらおう?」

「賛成。」

 滝田と川元の少し後ろに続く女子たちはひそひそと会議をしていた。第8グループ13時06分現在、滝田以外は不安いっぱい。

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