槍
30分ほどして痺れが治まると修司はまた槍をコンバートしてみる。迫間は一色とマラヴィラの練習をしている。
迫間のマラヴィラは仮に剣で受けたらまだ対応できたかもしれない。つまりは俺の槍の扱いは甘くて、まだ使いこなせていないってことだよな・・・。それに双剣は一撃が重くないことがデメリット。それは槍と同じだ。けどそれを補うように手数の多さがある。・・・じゃあ槍は・・・やっぱりリーチを活かして間合いを取るしかないよな。俺の間合いの取り方が下手なだけか?・・・ああ、ダメだ、もう一回迫間に戦ってもらおう。
修司は迫間と一色に声をかける。
「悪い!一色、迫間を借りていいか?」
「ああうん。また試合やるの?」
「うん、もう少しやらないと・・・行き詰ってて。」
「おう、俺はいいぜ。また刻んでやるけどな。ははは。」
迫間はアームズをコンバートする。その時急に一色が止める
「待って。」
「ど、どうした一色?」
「やっぱりさ一回僕ともやらない?」
「おいおい一色俺がご指名されただろ。」
「いいじゃんか、僕も修司の役に立ちたいしさ。お願い!」
「ま、まあ俺は相手してくれるならありがたいけど・・・。」
「分かったよ。・・・どうせ俺はいつでも勝てるからな~。へへ。」
「ありがと紅仁。じゅあ、よろしくね!」
迫間から少し離れた所で二人は立ち合う。
「[ペインター]。」
一色の剣は以前と名前は一緒だが少しずつ形を変えて今ではグレートソード型の大きな両手剣で、しかし重さは抑えた造りになっている。
「いくよっ!《グリザイユ》。」
いきなり巨大な炎の壁のマラヴィラを放つ一色。修司はそれを避けようとはしない。このマラヴィラは何度か見たことがあり、薄い壁のような形状になっていることを知っている。そのため火の壁に対して槍の先端でかき混ぜるように動かす、すると火の壁に穴が開き、さらに槍を動かすことで穴は人が通れるほどの大きさになった。穴を抜けると一色が火の壁に隠れるように近づいていた。距離は2mほどだ。
もうそんなところにっ!
「やっぱりこれは修司にはダメだね。《テラコッタ》。」
修司の右足に泥が這い登る。修司はすぐに右足を蹴るように上げるが、こびり付いた泥は妙に重い。
この泥土系のマラヴィラ、ただの土じゃなさそうだ。
その隙の一色は切りかかって来る。しかし修司は槍のリーチを活かして薙ぎ払い、これを退ける。一色は簡単に退く。それは自身がアームズでのファイター的な戦闘が得意でないことの自覚とマラヴィラでの中距離攻撃が可能であることの余裕からでもある。
一色は空中に赤、黄、青のユニークエナを浮かべる。形も大きさをバラバラだが量が尋常ではない。一色はそのまま腕を一振りするとマラヴィラを唱える。
「《コラージュ》。」
同時に宙に漂っていた色の塊は一斉に修司に向かって飛んでくる。いくつかを避け、いくつかを槍で防ぐが数が多すぎて防ぎきれない。一色のユニークエナである色のエナは修司の肩や足にぶつかるとペンキのように弾ける。弾けると色ごとに熱かったりびりびりしたり冷たかったりと感覚は異なるが、じわじわとほんの少しずつだが痺れてくる。
このまま攻撃を受け続けたら動けなくなるぞ。
修司は大きく勢いをつけて右に転がる。一色はそれに合わせてマラヴィラの方向を変える。
一回腕を振る毎の十数個の色のエナが飛ぶ。おそらく風のマラヴィラで色のエナを飛ばしてるんだろう・・・。
修司は被弾覚悟で突っ込む。正面から向かってくるエナを槍で弾くがいくつかは肩や足に当たる。それでも動けなくなる程でもなく、一色を槍の間合いに捉える。
「《テラコッタ》。」
また修司の右足に泥が付く。しかし修司が走っていたこともあってか先ほどよりも泥の付きは悪い。修司は構わず槍を一色の右肩目がけて突く。剣で防ぐ一色。金属のぶつかる音が響く。また一色がマラヴィラを使う。
「《バチック》!」
修司の胸元でボンッとソフトボールほどの火の玉が爆発する。修司は一瞬ひるんだがすぐに反撃をする。今の間合いのまま攻撃を仕掛けないと距離を取られ、また遠距離攻撃と動きを鈍らす泥のコンボをやられると知っていたからだ。修司の槍は一色の左のふとももを刺す。5センチは刃が入った。一色は右から剣を振り修司の左半身を狙う。素早くは後ろに回避する修司。剣が通り過ぎるとまた前進し一色の腹を刺す。腹を刺されたまま一色は爆発系のマラヴィラを使う。
「《バチック》。」
今度は修司の眼前に火球が現れた。修司は爆発の直前に身を屈め直撃を回避する。頭部に熱を感じる。そのまままた一色の右足のふくらはぎを刺す。一色は思わず声を出す。屈む修司に向けて剣を振り下ろす一色。修司はそれを左に転がり避ける。とどめと言わんばかりに一色の腹に槍を差し込む。・・・一色は膝を着いた。
「はぁはぁ、ま、参りました。」
修司は槍をリリースする。
「休憩しよう。」
休憩中も迫間は電気のマラヴィラを練習しながら話す。
「はははっ、いや~でもさ、やっぱり傍から見るとすごい画だよな。」
「なにが?」
「はは、だってさ高校生が相手の腹に槍突き刺したり、顔面に爆発起こそうとしたり・・・世紀末かよって感じじゃね?」
「まあ、冷静に考えればそうだな。」
「まあそんなに痛いわけじゃないし、ボクシングとかプロレスみたいなもんだと思えばそれまでなんだけどさ。100年とか前の人はこんなのしなかったわけだろ?」
「そうだね、昔の人が見たら警察に通報するだろうね。へへへ。」
確かにこんなに仲良く話してる友達を平気で切ったりするのはイカレた風景だ。
「あ、修司は何か掴めた?」
「ああ、二人とやっての感想だけど。やっぱり超接近されたり逆に遠距離からじわじわやられるのは痛いよな。」
「槍は接近され過ぎると動かしにくいしね。」
「本来はどっちもマラヴィラで対応できるんだろうけど、俺の場合はそういう訓練を全さんとはしてないし、結局は槍の操作を向上させるしかないんだけどさ。」
「いいんじゃね?マラヴィラ使っても。」
「え?」
「だってさ、全さんって人も結局マラヴィラの練習を別にやらせてるんだから、使っても問題ないように思うけどな。」
「・・・う~ん、それはそうなんだろうけどさ。」
「だろ?」
「でも、やっぱりまずはアームズに技術を上げないとどうしようもないと思うんだ。それこそマラヴィラでの対応なんて誰でも思いついて、お互いにそういう戦い方したらアームズでの戦力の差が出で来ると思うしさ。」
「ふ~ん・・・真面目だね~。」
迫間は少し納得いかないようだが、深くは言わない。休憩の後は迫間と一色と交互に軽く相手になってもらいながら槍の形や長さ、戦い方を練っていった。
月曜日、今朝のニュースでは今週までは梅雨が続くそうだ。もう7月の第2週ということもあり、来週に迫った期末テストに向けて勉強する空気を放っている人がちらほら見られた。午後の【精製】の授業の最後に木崎はクラスにこう告げる。
「じゃあね、来週末はテストだけど、【精製】では実技がメインになります。任意の属性のマラヴィラを2つ見せてもらうから、得意なものの内で何をやるか考えておいてくださいね。あ、別に【闘技】じゃないから威力とかそんなのじゃなくて量とか維持時間を見てるのから、そこは気にしないでね。じゃあ授業終わります。号令!」
マラヴィラの実技か・・・俺は水と風でも見せればいいかな。
滝田が唐突に振り返り一色に話しかける。
「な、なあ!一色、俺にちょっとマラヴィラのコツ教えてくれよ!」
滝田は闘技は得意だが、未だにエナの操作は苦手だった。唯一土のマラヴィラは安定して使えたが、それも微力でいつも戦闘には使わない。特に一定量のエナを放出し続けるのが苦手で、電気や火を出し続けることができない。滝田本人は一般の授業の科目の事で頭がいっぱいだったようでマラヴィラの練習は授業の時くらいしかしていなかった。一色はそんな滝田の申し出に快諾し、滝田の部活が休みの土曜日に教えると約束していた。
帰りのホームルームで担任の桐山が話す。修司は外の雨が弱くなっていることに気を取られながら聞いていた。
「・・・と、なっていますので、来週のテストに向けてしっかりと勉強しておいてきださい。それとですが、テストが終わった次の週の木曜日からは5日間のサバイバル合宿があります。後日また詳しい情報はプリントで配布しますが、体調管理はしっかりしておいてください。以上です。」
ホームルーム後に修司は一色に今の桐山の話について聞いた。
「一色、さっき先生サバイバル合宿って言ってたか?」
「ああ、うん言ってたね。僕すごく楽しみだよ~。」
「この学園そんなこともやってるのか?」
「知らなかったの?毎年やってるらしいよ。なんでも非常事態でも生き延びる訓練としてやってるって聞いたよ。」
・・・サバイバルって・・・軍隊かよ・・・。
修司が個人訓練場に着く頃には雨は止み、うっすらと日が差していた。森に入ると先ほどまでの湿ったアスファルトの香りから湿気を含んだ木の香りに変わった。訓練場には全が先にいて、地面は不思議と乾いていた。全がずっと屋根をコンバートしていたのか、火や風のマラヴィラで乾かしたのかは分からないが、とりあえず全の仕業だろう。モグラは修司を見つけると張り切ってズンズンと前に出てきて地面に潜った。2時間ほどの基礎訓練もといモグラとの鬼ごっこを終えた修司に全が問う。
「課題の槍はどうなった。」
「できた・・・とは思います。」
「《人偏・影武者》。」
今日の影武者はなんと修司が昨日持っていたようなハルバート型の槍を持っている。修司のものよりもやや長い。全に促されて修司も槍をコンバートした。
「[コーラル]。」
「お前もハルバートか。まあいい、始めろ。」
修司の槍はハルバート型で長さは2m20cm。柄は太めでニードルは15cm、ピックはトライデントの鉾先を縮めたような形になっている。開始と同時に修司は自分から仕掛けていく。槍の間合いが相手の方が長いということは距離を取っても自分の不利にしかならない。いつものようにまずは回り込みを狙う。反時計回りに動く。槍を持った影武者は身軽に方向転換をする。切っ先は常に修司に向けている。修司は思い切って距離を詰める。先に仕掛けてきたのは影武者だった。修司の顔目がけて突きを放つ。修司は体制を低くし避ける。カウンターで影武者の右太ももを突き返すが体を半分ひねることで回避し、むしろ槍を振りハルバートのピックで修司は肩を引っ掻かれた。1度距離を取る。
開幕初撃、アイツが無傷でこっちがかすり傷・・・これはどう判断するべきだ・・・。
また仕掛ける修司。今度は踏み込むと同時に影武者の槍の先端を[コーラル]で弾く。イメージは昨日の迫間。その隙に深く相手の懐に潜り込む。しかし影武者は弾かれた反動のまま槍を器用に動かし、柄の部分が自分の背中に沿うようにクルリと回し、ちょうど矛先が後ろを向いた形で、柄の刃の付いてない方が飛び込んでいく修司の胸に当たる。一瞬息の止まる修司だったがこのままの間合いで戦うために堪える。あらかじめ短く持っておいた槍を影武者の胸に向けて放つ。しかし影武者は槍の刃の方が修司に向くように、今度は縦に半回転させながら修司の槍を弾く。続けて修司の足を突く。修司は後方に跳んで避ける影武者が追撃する。今度は修司が槍で弾く。しかし影武者は突きを止めない。修司が防ぐことは難しくなかったが、足元を狙われるとピックの部分が何度は引っかかり小さく傷つけられる。
斧の時とは違ってじわじわ削るスタイルか?
修司はもう一度距離を取り冷静に考える。
コイツの戦い方の基本は俺の考えてた戦法に近い。けど俺が考えたよりもずっと小さなダメージをコツコツと積み上げていく方法だし、それに槍の扱いが俺よりずっとうまい。根津よりもずっと滑らか槍を扱う・・・俺は何で勝負するべきだ・・・。
影武者はじわじわと接近してくる。
20分後、修司は自分の腕が上がらなくなったことに気付いた。影武者は動きを止め全が目の前に出てくる。
「お前がこの槍を選んだ理由はなんだ?」
「リーチの有利と、ピックやニードルで小さくとも広範囲にダメージを残せると・・・。」
「ではなぜそれをしない。」
「そ、それは影武者の方がリーチも技術も!・・・」
「もう一度聞く、なぜ長所を捨てた。なぜ自ら土俵から降りた。」
「!?」
「明日までに改善して来い。」
モグラが心配そうに2人を見つめる。
※今後投稿間隔を3日おきに変更いたします。詳しい内容は活動報告をご覧ください。




