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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
18/50

成果

 刀の訓練は2週間続いた。このころの平日の訓練内容は2時間ほどモグラを追いかけた後に1時間半は影武者と戦闘、1時間はマラヴィラの基本属性の鍛練。マラヴィラの鍛錬も単純に限界までエナを溜めて放出の繰り返しだったが、最初の訓練で修司の得意とする水属性のマラヴィラは最大出力で2回出せることが分かった。3回目からは威力が半減し、4回目からはほとんど水をコンバートすることはできない。全はまず3回目のマラヴィラのコンバートできる量を増やすことを目標として提示した。

 肝心の刀の腕前とスタイルの確立については、全の助言を基に修正を繰り返し、突きを軸にした戦法を練習していた。ここ数日は影武者に対してもよい勝負をするようになり、不意に一撃を食らわすことも可能なことがあったが、未だに勝ってはいない。しかし修司は自分の成長を感じていた。先日【闘技】の授業で滝田と対戦した際に、以前より明らかにその差は縮まっているように感じていた。滝田にも「治世との試合は気が抜けない。」と言われるほどに。また刀という武器の造りや、太刀・大太刀の区別など幅広く全は教えてくれた。

 そしてついに今日、修司は影武者を倒すことができた。影武者は一太刀の威力はあったが、連撃に対する反応が鈍く、隙が生まれやすかった。しかしついに追撃が影武者の胸を貫いたのである。その瞬間に影は溶け、修司は勝利を掴んだ。全は自分の訓練の手を止め修司に話す。

「ようやく筋肉が刀を扱うことに耐えられる最低限のレベルにはなったな。」

 そうか、自分の型を使う体ができたのか・・・。

「成果を俺に見せて見ろ。[立刀・倭]。」

 久しぶりに全と剣を交える。全は優雅な刀捌きで翻弄し、修司はついていくので精いっぱいである。右から流れてくる閃光を受けたと思ったらもう突きに移行している。それを避けるために2歩下がって距離を取った、つもりだったが全く同じタイミングでつい全が2歩進み、全は常に同距離に居座り続ける。さながら2人のダンサーが常にぴったりと動きを合わせているかのように。

 俺のどんな動きも予測できる観察力と、ずっと着いてくる体力、脚力・・・。

 そしてなお全はまだ手心を加えていることが修司には分かっていた。その歯がゆさから、ついに磨き続けた突きを放つ。修司の後退に合わせて前進する全の胸に目がけ。先ほど影武者を倒した一撃だ。

 ここだ!

 ・・・剣は先端5cmが全の胸に消えている。手ごたえとともに強い達成感を得た修司であった。

 ・・・何かおかしい。

 違和感が拭えず全の顔を見る。笑っている。初めて全を見た人には絶対に分からない程度、ほんのわずかに口角に緩みがある。と修司は思った。そして修司がゆっくりと自分のアームズを引く。そこには本来あったはずの刃先がなくきれいに切断されていた。あたりを見回すと右横3m先に黒い輝きが見える。

 切ったのか・・・!?この一瞬に。そしてわざと俺に刺されたように見せたんだ。

 修司はあの全の笑みのようなものが至らぬ弟子への嘲笑に感じられてならなかった。全は刀をリリースすると胸のあたりを払ってからこう言った。

「とりあえず刀はこれで良しだ。」

「・・・え?俺、全然・・・。」

「相手の行動パターンを読み、正確にお前の磨いた技を見せた。それが成果でないならなんだ?」

「・・・成果・・・だと思います!」

「次からは斧を扱う。また真剣にアームズを考えて来い。」

「あ、はい!」

 修司は湧き上がる喜びを感じていた。初めて全に認められたような気がして、それが心の底から強烈な満足感を与えていた。高揚した修司はその日のマラヴィラの訓練はいつもより熱を入れて行った。


 翌日は全との訓練の休息日だったため、一色と迫間と共同訓練場に来ていた。梅雨に入り昨日の午前まで雨が降っていたせいで少し地面は湿っていたので、歩道沿いのコンクリートの階段に座った。

「修司は本格的に始められてよかったね!」

「ああ、やっと剣を振ることが増えてきたんだ。」

「確かに治世は強くなったよな。この前も滝田と互角くらいにはなってたんじゃないか?」

「いやいやあれでもまだ滝田は本気じゃなかったと思う。」

「でも滝田君に『気が抜けない』って言われたんだから相当強くなったって。」

「そうそう、俺も誰かに指導してもらいてーよ。」

 迫間は両手を伸ばし、後ろに倒れる。

「キャッ!」

 倒れこんだ迫間の後ろを通っていた女の子が咄嗟にスカートを抑えながら悲鳴をあげた。迫間は跳び起きて謝る。

「ゴメンなさい!・・・あ、同じクラスの雪野じゃんか。」

 雪野は顔を真っ赤にしながら恨めしそうな顔で迫間を見る。

「まあまあ、別に見えてないから安心しろって。ははは。」

「・・・ほんとですか?」

「ホントホント!」

 迫間のリアクションは嘘くさいが、雪野はホットした表情を見せた。

「雪野さんは何してたの?」

「あ、あのここで・・・みぃちゃんたちを遊ばせようと思って・・・。」

 雪野はか細い声で言う。

「みぃちゃん?犬かなんかか?」

「い、いえ、私のマラヴィラの・・・。」

「マラヴィラにそんなペットみたいな名前つけてんのか?変な・・・うごっ!」

 一色が迫間の口元に水をコンバートした。もがく迫間。

「迫間君、静かに。」

「でもマラヴィラって遊ばせたりしないといけないものなの?」

「はい!たまに外で遊ばせないとみぃちゃんたちがなんとなく具合悪そうにしちゃって・・・。」

「雪野さんの動物のコンバートは一応ユニークエナではないんだよね?」

「うん、長く訓練すれば近いものをコンバートできるようになるし、何年かに1度はいるみたいだからユニークではないんだって。一色君と治世君はユニークなんだよね?」

「うん、でも俺のよりかは雪野さんの方がよっぽどユニークっぽいよ。」

「僕のもそんなに汎用性はないしね。」

「そんなすごいものでもないですよ。すぐエナ切れになるからあんまり戦闘には向かない能力だし・・・。」

「やっぱり消費は大きいんだね。あ、やることあるんだよね。ごめんなさい、どうぞ。」

 一色は雪野を共同訓練場の中へと促した。雪野は促されるままに奥へと進み、ロッドをコンバートして構える。治世たちはまじまじと見つめている。しかし動きはない。しばらくして雪野は頬を染めながらこちらに走ってくる。そして申し訳なさそうにもじもじしながら言った。

「あ、あの見られてると、その緊張するので、何か他のことやっててください!」

 修司たちはわたわたと武器をコンバートしたりマラヴィラの練習をしたりなどして見せた。雪野は離れた所に小走りで向かい、治世たちをチラチラ見ながらもコンバートを始めた。修司たちも手を止めて見つめる。

「《水猿・黄火猿・岩猿》。《猫かぶり》。《風見鶏》。」

 水の猿、火の猿、土の猿。砂の猫の頭部。風を纏った深緑色の鶏が現れる。猿は森林エリアの方に走りだし、猫は昼寝、鶏はふらふらと歩きまわっている。雪野はその場にゆっくりとしゃがむ。その様子を見て修司がつぶやく。

「疲れてるみたいだな。」

「あれだけ出せば疲れるんだろうね。僕たちもあんな量のエナを放出したら動けなくなるって。」

「ああ・・・水色だった。」

 そう迫間がそう言った数秒後、迫間の顔面を火の玉が覆う。

「一色、ナイス。」

 雪野はしばらくすると帰っていった。


 迫間と一色は練習試合をしている横で、修司はその日の残りはずっと斧の形状について考えた。朝に図書館から借りた『世界の武器』という本の中を見ると、まさかり、バトルアックス、フランキスカ、トマホーク・・・いくつかの斧の形を見つけた。大きさにもよるが斧は殴ると断つを得意とした武器であることが分かる。

 刀と違い片側に刃をつけるか両側に刃をつけるかでスタイルをも変わりそうだ。でももし斧を使うとするなら刀とは違う利点を活かせる形にしないと・・・。殴る・断つを活かした、あとはリーチが短いままでいくのか、それとも柄を長くして使うか。そもそも柄を長くしてリーチを出すなら初めから槍でも刀でも持てばいいんだろ?そうなら2m級の大斧を持てばいいのか?

 迫間と一色の試合はいつもながら迫間が優勢なようだ。一色のユニークが接近系の迫間とは相性が悪いのか、いつも一色が色のエナを配置する前に迫間が距離を詰めて自分のペースに持ち込んでしまう。しかし今日の一色はいつもとは違うようだ。迫間の間合いになった瞬間にマラヴィラを使うようにシフトしだした。

「《スパッタリング》。」

 一色の剣先から水しぶきが勢いよく飛び出る。迫間は双剣で防ぐ。

「《テラコッタ》。」

 迫間の左足、くるぶしほどの高さまで重い土がまとわりつく。一度後退し、距離を取る迫間。

 なんだこの泥、変に重いぞ。

 左足を振り、泥飛ばそうとする迫間。ここで一色は追撃をする。

「《グリザイユ》。」

 一色の放つ炎は幅が5mほどもあり、これまでに見たことのないほど広範囲だが、速度はやや遅い。

 なんでこんなにデカい火を出せてんだよ、一色のエナの量もさすがにそんなにはないだろ!

 迫間は混乱していた。実はこの火は一部は火をコンバートしたものだが、他は一色のユニークエナである色のエナを使ったものである。色のエナの部分は脆く、威力も弱い、かつよく見ればコンバートした火と色も違う。一色の色のエナは赤色のバリエーションが一つしかないために識別することができる。だが初見の迫間にそのような分析ができるわけもなく・・・。

 結果として一色が最後まで迫間を翻弄し、迫間の行動を不能にすることができた。体が痺れよく動けない迫間が一色に言う。

「一色・・・やるじゃんか。」

「はあはあ、でしょ?へへへ。」

 一色もかなりエナを消費したようだ。剣を杖のように使い体を支えている。迫間が動けるようになってから二人は修司の横に戻ってきた。

「何かいいアームズは思いついた?」

「うーん、方向性は決まっているけどさ・・・。」

「なんか俺よりもアームズを真剣に考えてるよな。前はそんなに興味ない感じだったけど。・・・俺も別の双剣考えてみるかな~。」

「あ、それなら僕ももう少し今のアームズを変えてみるよ。」

「いっそのこと一色はアームズいらないんじゃないか?あんなにマラヴィラ使えたらさ。はは。」

「そうやって、僕はホントはファイターやりたいくらいなんだからアームズは手放せないよ!」

 一色はむっとした顔で頬を膨らました。

 

 夕方になるまで納得する斧はできなかったが、前回と同じようにとりあえずはできたものをコンバートして振ってみる。しかしどうにもうまくいかない。斧の振り方の基本は知っているが、全が重要視するような「なぜこう振るのか。」ということが頭に浮かばない。

 まだ振り足りないのか?

 黙々と斧を振る修司を見ていた迫間が試合を申し出る。

「なぁ治世、さっきから振っては首かしげるけど、それなら俺と一回手合わせしてみようぜ?」

「・・・それもいいかもな。頼む。」

「じゃあ俺も今考えた双剣でいくぜ。[タウロス]。」

 迫間の新しいアームズはまるで牛の角のようなうねりのある円錐状で、長さは40cmほどである。迫間は勢いよく迫る。

 形状からして突き重視だろうな。

 修司の読みの通りに迫間は突きを多用してきた。修司は斧の腹を使い防ぐ。刀よりも面積が広いこともあり防ぎやすい。しかし迫間の連撃に中々反撃の機会を見つけられない。

 ・・・くそ、こうやって守り出すと、攻撃に転じるために持ち直さないといけない。でもこの連撃じゃそんな暇ないぞ。一度距離を取らないと。

 修司は大きく下がる。しかしは迫間は付いてくる。使い慣れない大斧を持ちながら動く修司の動きは鈍い。

 このままじゃ埒が明かないぞ、違うことをやらないと!

 大きく一歩下がる修司、すぐに追おうと踏みだした迫間だったが、次の瞬間に目の前に星が飛んだ。修司は迫間の動きに合わせて斧の腹で顔面を押し殴ったのだ。そのまま持ち変えて大きくスイング。右の剣で防ごうとするが勢いに負けて飛ばされる。

 今のはイイ感じだ!

 続けて迫る修司。迫間は体制を立て直しまた下がる。まだダメージが残っているようだ。修司も攻め続けるがどうしても大ぶりな攻撃多くなってしまうために読まれてしまう。迫間は幾分か回復したようだ。また攻めてくる。今度は間合いに注意を払っている。そしてある瞬間に迫間の右剣が修司の斧に触れると迫間はつぶやいた。

「《アルデバラン》。」

 すると[タウロス]の先端から電気が放たれる!

・・・微弱な電気が修司の左ひじに当たる。ダメージはさほどない。修司は大きく斧を振り迫間はまた飛んだ。今度は右肩に深く刺さったようだ。反撃してくる様子がない。この試合は修司の勝ちだと言える。しかし修司は大きなショックを受けていた。

 もし今のが一色やそれ以上の人のマラヴィラだったら・・・。もっと修正していかないと・・・。

ルーザーストラテジー用語

炎のマラヴィラ=俗に燃焼系と爆発系に分けられる。爆発系は高威力で遠距離からコンバートしやすいが、コンバートする空間を定める際の操作は難しく、また爆発は継続時間が極端に短い。

土のマラヴィラ=俗に砂岩系と泥土系に分けられる。泥土系はそのコンバートに水のマラヴィラの要素が含まれるため、〈変形〉する場合があるが、その操作は困難である。また泥土系のマラヴィラは粘りがあるためにコンバートが完了するまで時間がかかりやすい。

電気のマラヴィラ=俗に放電系と帯電系に分けられる。帯電系はアームズや地面に電気を留めておくために多くのエナを消費する。放電系と帯電系で威力に差はないが帯電系の方がエナを浪費してしまうことが多いため、放電系を使う者のほうが多いが、帯電系を体に纏うと・・・かっこいい。

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