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コッテコテのお客様…

今回長いです。すいません…

僕が、水商売の世界に身を置いたのは丸5年と半年くらいでした。

5年半といっても途中何度か辞めていた時期があるので初めた時から完全に辞めるまでの期間は8年くらいでしょうか。

水商売の世界に入った年齢が大多数の人々は十代でしょうが、僕の場合は普通のサラリーマン→専門学校生→事業者と少し省いていますが、色々とあって20代半ばに差し掛かろうという時期に縁あって!?入った訳です。

5年半という年月の間に水商売と一括りにいっても色んな形態の店を渡り歩きました…

良い事ツラい事…まぁ半分以上ツラい事でしたが、生きてきた人生の中で一番充実していた事は間違いありません。

でも戻りたいか!?と聞かれれば答えはノーですけどっ(笑)

5年半もいると色々と面白い事にも遭遇したりする訳で、今回の話は僕がある街で軽いホストをしていた時の話です…


その頃、僕は一度足を洗った夜の世界に再び1年ぶりに舞い戻って間もない時でした。

1年間ブランクがあって果たして上手く接客出来るだろうかと最初の内はよく考え込んだりしていたのを覚えています。

しかし周りの先輩方が優しい人の良い方ばかりだったので、(全員ではありませんよっ)気持ち良く接客する事ができ幸先の良いスタートを切る事が出来ました。

その日も深夜からの開店準備をちゃっちゃと済ませて店の入口から少し入ったカウンターの中で、お客が来店するのを焼酎の水割りをチビチビ呑みながら待っていると小振りのバッグを持った30代半ばくらいの、見た目が昔いた太平シローだったか名前を忘れましたが、そんな風貌の男性が1人で入店してきました。

カウンターの中には僕と、お店では古株の先輩とその時は2人居て僕達は男性に対し、『安全なお店ですよぉ〜っ』という気持ちを込めて、

「いらっしゃいませっ」と軽い笑顔で迎えると、その男性は入口でバッと身構えるポーズを取り、

「なんや怪しい店やなぁっ身ぐるみ剥がされるんとちゃうかぁっ」といってカウンターの方にやって来ました。

「そんな事しませんよぉ〜っウチは安価で安全をモットーにやってますからっ」と適当な事を言ってカウンターの真ん中の椅子を勧めて座って頂きました。

どうやらサパーに来たのは初めてらしく、座ってもソワソワして落ち着きが有りません。

とりあえず先輩がシステムの説明をササっとして飲み物の注文を取ろうとすると、

「せやなぁっじゃ焼酎ミルク割りでっ」

先輩がポカァ〜ンとしているのですかさず僕が

「なんでやねんっ」と軽く突っ込むと男性はホッとしたような嬉しそうな顔で、

「おっ兄ちゃんいいノリやなぁっこっちの兄ちゃんダメやんっボォ〜っとしてたらっ」と急に饒舌になり始めました。

僕は以前、大阪出身の友人と一緒にいた事があったので、懐かしいノリでとてもやりやすいなと思ったのを覚えています。

対して先輩の方は、どちらかというと女性のお客様の方が話し易いらしくやりづらそうな感じで、アイコンタクトで『お前に任せた』と合図されたので僕がメインで男性を接客しました。

ボケと突っ込みを交えながら男性の話を聞いてみると、どうやら大阪の和食の料理屋で板前をしていたらしく30代の内に東京で勝負がしたくて上京してきたという話でした。

で東京に来てとりあえず飲みまぁキャバクラですがで女性と意気投合して、女のコのお店が終わってから会う約束をし、女のコが来るまでの間、時間を潰せる場所はないかと迷っていて僕の働いている店にたどり着いたという事でした。

「東京に勝負しに来ていきなりキャバクラでキャバ嬢にハマってんなよっ!!」

…とは僕は思いませんでした。

僕も仕事も住む場所も変わって人恋しい時、普段は自分から絶対に行かない同業の店にふと行ってしまう時があります。

僕の場合住む場所が変わるといっても、せいぜい都内とか東京に近い埼玉とかそんなモノですが、大阪から東京にたった独りでこっちに知人も居ないときたら、僕には想像出来ないくらい不安で心細かった筈です…

そんな時に街をアテも無くフラフラ歩いていたら光輝くネオンの明かりが、とても魅惑的に見えた事でしょう。

そして東京で仕事とはいえ、初めて優しくされたのであれば、そのキャバ嬢に惚れてしまったとしても誰が男性を責められるでしょう…

なんて、そこまでは思いませんが、まぁいいんじゃないでしょうかっ

僕に出来る事といえば、そんな男性の話を聞いてあげて少しでも楽しんでもらうだけでした。

「なぁなぁっどうなん!?こっちの女の子は!?やっぱり注意せなアカンか!?」

「僕には〇〇さんの知り合った女性が、どんな方か分かりませんが大阪も東京も変わらないと思いますよっ」

なんて会話を2時間程し、男性は上機嫌で焼酎の水割りをクィクィっと飲み続け、途中はしゃぎ過ぎて椅子から床に何度か転げ落ちていました。

そんなこんなで時間も深夜2時を回り、男性が携帯をチラチラ気にし始めたので、

「そろそろ待ち合わせのお時間ですか!?」と尋ねると、

「ああっもうすぐ時間やなぁっ名残惜しいけど、そろそろ勘定してくれるかぁ」

分かりましたと笑顔で答えながらササっと伝票を書き男性に渡します。

「なんやエラい安いなぁっコレで商売やっていけるんか!?」

「ウチは安価で安全がモットーですからっ」

笑顔でそう答えキャバ嬢との約束の場所に向かう男性を入口まで見送り、笑顔で手を振りながらエレベーターに消えていく後ろ姿に深く一礼して僕は先輩の居るカウンターの中へと戻りました。

やれやれといった感じで一服している先輩に、

「あのお客さん、女性と会えますかねぇ!?」と、僕もタバコに火を付けながら聞くと先輩は手元の水割りを飲みながら、

「どうだろうなぁ…約束の時間になっても連絡無かったみたいだしなぁ」と、少し遠くを見ながら返してきたので僕も少し不安になりました…

東京に来てこれから先、色んな苦難が待っている筈…今日くらいはとことん楽しい1日であってあげて欲しいなと、ふと思いました。

30分程経ち、お客が来ないなと入口を出て通路からビルの下の通りを先輩と覗いてみると、そこには先ほど上機嫌でキャバ嬢との待ち合わせに行った筈の男性が不安そうに待ち合わせ場所らしき所を行ったり来たりしていましたっ

僕は心の中で、『ああっ体よく遊ばれたかぁ…』と男性を不憫に思いつつも、これがこの世界の日常だからしょうがないかと考え、男性に気づかれない内に店の中に戻りました。

僕に見られてたと知ったら男性は恥ずかしいと思うと思い、あえて下に行って声を掛けるような真似はしませんでした。女のコに会えなかった分ウチの店で飲み直して気分を発散してもらいたいとも思いましたが、それはお客様が決める事…入らぬ親切になる事もありますからねっ

その後、その男性を見掛ける事は有りませんでした…

あれから6年…あの男性がこっちで成功していればいいなと、たまに思い出しては思ってしまいます。

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