戦士イグンの苦悩①
今回は主人公視点ではありません。
戦士イグンは酒場の隅で独り、酒を飲んでいた。
「おい、イグン。毎日子供のお守りで大変だな」
「精霊姫様に失礼だろう」
「ははは、そうだったな」
勇者ドードーと共に森の警護をしている、兄弟戦士の軽口を真面目な口調で嗜めた。
兄弟はかつてイグンが零した愚痴を憶えていたのだ。
「何故、自分は勇者ドードーと共に戦うことが出来ないのだ」
精霊姫様を侮った発言ではない――勇者ドードーの息子である精霊姫様の警護は名誉な職務だ。
だが心のどこかで、何故、この自分が幼子の警護をしなければならないのだと言う気持ちは少なからずあった。
イグンは勇者ドードーの隣に立ちたいと常々思っていた。
だが、イグンには、その職務を拒否することはできなかった。
勇者ドードー直々に頼まれれば断ると言う選択肢はイグンにはない。
イグンの父親は、かつてこの村で十指に入る、強き戦士だった。
イグンは子供の頃からそんな父親に憧れ、いずれ自分も父のようになるべく腕を磨いてきた。
そんなある日、イグンの父親は、無残な姿でこの村に帰ってきた。
父は、あの白銀の悪魔の討伐に向かい、そして帰ってこなかった。
五体満足で帰ってきたのは精霊姫ミィ そして勇者ドードーだけであった。
最強と言われた戦士ガンでさえ、左足と右目足を失い生死の境を彷徨っていた。
最初イグンは勇者ドードーの言葉を信じることが出来なかった。
村最強の7人の戦士達が悪魔に殺されたなどと。
しかし、その戦いの地を目の当たりにしたイグンは、勇者ドードーの言葉を信じざるを得なかった。
そこに横たわる巨大な悪魔の姿と、暴風に拠って吹き飛ばされた木々と、見るも無残な姿に変わり果てた父の姿を見て。
父の死に顔は恐怖に歪んでいた。
だが、その恐怖をイグンは理解していた。
白銀の悪魔は死んでいると聞いていてなお、イグンには近寄ることさえ躊躇われたのだ。
再び瞼を開き、この場にいるみんなを殺すのではないのかと。
そんな恐怖の権化と対峙して、逃げ出さずにいられるだろうか?
そんなイグンや他の戦士達の様子を見て、勇者ドードーは高らかな声で宣言した。
「もう、この魔物は生き返りはしない。俺が止めを刺した」
そして、両手剣を白銀の魔物の喉に再び突き立てた。
「戦いの中で散った勇敢な戦士達の魂よ! 安心して俺達を見守っていてくれ!
これからは、村のみんなをお前達に代わり、このドードーが守り続けると誓おう!」
ドードーのその宣言に、戦士達が鬨の声を上げ始める。
「ドード! ドードー! ドードー! ドードー! ドードー! ドードー!」
「勇者ドードー! 俺達はお前についていく!」
「新たな最強戦士、勇者ドードー万歳!」
「ドード! ドードー! ドードー! ドードー! ドードー! ドードー!」
イグンも気が付けばドードーを称えていた。
自分達は今、伝説の中にいるのだと。目の前にいるものこそが最強の戦士なのだと。
そして勇者ドードーの指揮の下、戦士の亡骸が丁重に村の墓地へと運ばれ、白銀の魔物の解体が昼夜を通して行われたのだ。
その際に、イグンは勇者ドードーと精霊姫ミィ様から直接声を掛けてもらうという栄誉を得た。
「勇敢な戦士達と、そして精霊姫ミィ様の活躍で、この魔物を倒すことが出来たのだ。
君の父上は最期まで勇敢に戦われた……済まない、私には君の父上を助ける事が出来なかった」
「お父様の事は……申し訳ありませんでした」
ミィ様が仰るには、ミィ様は精霊の加護を戦士達に願ったのだそうだ。しかし、精霊の加護は何故かミィ様と戦士ガン、そして勇者ドードーにしか降りてこなかったのだという。
加護を得た3人は生き残り、加護を得られなかった7人は死んだ。
「私の力が足りないばかりに……お父様をお守りすることが出来ず……」
ミィ様はそういって頭を下げたが、イグンには思い当たる節があった。
父を始め、亡くなった7戦士達は精霊姫様や精霊を軽んじていたのだ。




