月のお散歩
ここがどこだかはわからない。ただ何もない草原に僕はポツンと立っている。大きな満月が僕のことを照らしていた。とにかく家に帰ろう、どこにいるかもわからないのに歩き出すと、一頭の象に出会った。象の鼻からは月に向かって一本のヒモが延びている。なんだろう。そう思ったのが表情にでたのか象は口を開いた。
「月を散歩させているんですよ」
月を散歩?なんで?またまた僕の頭の中を見透かしたかのように象はニコッとほほ笑んで口を開こうとした。
またこの夢か。別に嫌な夢ってわけじゃないけどなんだか気になるこの夢を僕はときどきみる。でも今まで一度も月を散歩させている理由を象から聞けたことはない。時計を見ると午前10時。今日は日曜日。うん、悪くない。この夢を見たときの目覚めはいつもこうだ。
美大に通う友達が大学の展覧会に作品を出品したらしい。自信作だから観にきてくれよとしつこいくらいに誘われたから、観に行ってみよう。まったく僕も良いやつだな。ぐいっとベッドの上で伸びをしてから出かける準備を始めた。
電車に揺られ、駅からすぐの会場に着くと日曜日だからか結構にぎわっていた。あたりを見回すと早々に友達の作品を見つけた。正直よくわからない。印象派ってやつ?まあ自信作っていってるんだからそうなんだろう。実際こうやって展示されているわけだし。せっかくだから他の作品も見ていこう。そう思って足を進めていると会場の中盤でひとつの作品に目を奪われた。
夜の草原に象が一頭。大きな満月が象のことを照らしている。その象の鼻からは一本のヒモが。衝撃だった。これは、、、これは僕が見る夢そのものだ。タイトルを確認すると「月のお散歩」その作品から僕は目が離せなかった。どのくらいの間観ていたのだろう。一人の女の子が声をかけてきた。
「その絵をずっと観てますよね。気に入っていただけましたか?実は私が描いたんです」
「あ、うん、とても素敵な作品だと思う。ところで、なんで象は月を散歩させているの?」
「理由なんかないですよ。ただキレイだったから」
そう言って微笑んだ彼女の横顔はとても美しかった。
「ちょっと私の話し聞いてるの?式場とかドレスとか決めなきゃいけないことたくさんあるんだからね」
「ごめんごめん、ちょっと君と出会ったときのことを思い出しちゃってさ」