芳妃
皇后が衛王に夢中になっていると、それを引き裂くような甲高い笑い声がした。芳妃が息子と娘を連れて散策にきていた。芳妃は髪を高く結い上げて金の簪を見せびらかすようにつけている。青色の衣が嫌みなほど似合っていた。
「あら、皇后さま。ご機嫌よう」
芳妃が今気づいたように皇后へと挨拶をした。皇后はその挨拶を軽く受け流して、茶菓子をかじった。
「さぁ、皇后さまにご挨拶を」
二人の公主は素直に皇后へ挨拶したが、庶長子の秦王・碩は挨拶をしようとはしなかった。
「秦王、なぜ母后に挨拶しないの?」
皇后が優しい口調で尋ねても秦王は口を堅くつぼんだままだった。
「秦王、皇后さまの御前で緊張しているの」
「母妃、なぜ私が挨拶しないといけないのです?」
その言葉に真っ先に反応したのは長公主だった。長公主は芳妃を睨み付けた。
「芳妃はどんなことを教えているのかしら?」
「私は母に挨拶しろ、長子は尊いと教えましたよ」
長子という言葉に皇后は子どものいない自分を芳妃は見下しているのがはっきりとわかる。長公主は芳妃の言葉に呆れるよりも怒りを覚えた。芳妃は宮女出身の側室だった。それでも貧しい士族の娘だったから、全くの庶民ではない。