後宮
周太后は声を張り上げて激怒した。泰定帝が皇后のもとに通っていないと知ったからだ。しかも、通っている相手が女官で皇后も知っていて通わせていたという。呼び出された皇后、孫霓花は俯くだけであった。控えめな彼女は寵愛を巡る争いに巻き込まれたくなかったから、皇帝の手助けをしたのである。だが、それが太后からすれば面白くない。
皇帝には麗妃、芳妃、愨妃、宜妃の四人の妃がいた。その四人には子どもがあったが、正室である皇后には子どもがいなかったのである。嫡出の皇子を待ち望む太后は皇后の争わない姿勢に怒りを覚えたのである。
周太后は皇后に対して大きな期待を寄せていた。それだけに声は徐々に大きくなる。元肅皇后も生前は同じように太后から大目玉を食らった。しかし、それが原因で鬱ぎ込んでいつしか床に臥せるようになってしまったのである。何故、太后が嫡出にこだわるかというと、太后が側室上がりで皇帝が庶子だったからだ。太后は歌妓で皇太子であった先帝の目に留まり、後宮へ上がった。身分の低さから辛苦をなめてきた彼女は「嫡出」という言葉がどれだけの力を持つかを知ったのだ。それは孫皇后も知っている。しかし、皇后からすれば寵を競わず「譲る」というのが美徳であり、太后の怒りはお門違いなのである。