西の森を抜けよう!1
簡潔に終わらせてみました。
チートじみたことは、モンスターではなく、プレイヤーにするのがいいと思います。
ピュロロロロローーー・・・・
何の鳥かは分からないがその鳴き声が夜の森に響く。
スッ......
右上段から無駄のない力加減で刀を振り下ろす、しかしながら振り下ろすと言ってもその過程が見えない上段の構えから振り終った態勢でピタッと止まる姿に移り変わったという認識でしか殆どの者は、捉えることができない。
振る時に出るであろう音も微風が吹いた程度のもの。
ライトは、また刀を振るう体勢になる。
自然の声を聴いているかのような穏やかさ、その静けさは、ライトの気配を掴めにくくする。
瞑想している僧の如く目を瞑りじっと刀を構えている。
突然、ファンタジー風に言うならば気が荒ぶるとかいう、そんな風に俊光の気迫がすさまじいものとなり、渾身一振りという名の通り力強い一撃が放たれる。
ぶおおおん!!
空気をすべて強引に押しのける轟音がなった。
周りの木々は、その風圧に震え、しなった。
剛一つと決め修行をし、その極地に辿り着くものは、木刀で岩を砕く。
柔一つと決め修行をし、その極地に辿り着くものは、水を飛び散らすことなく受け止め池に音を立てることなく戻せる。
ならば、両方を極めようとする者は?
一剣術は、その極地を目指すものだ。
然るに、未熟な剣士や意志無き者は、受け入れない。
一の習いは、礼儀を尊び強者なるのみ。
入門条件は、師範クラスの推薦か門徒の一人でも一太刀浴びせればよいというもの。
しかしながら、門徒全員、そこらへんの剣士とは一線を画する強さだ。
合格は、難しいといえる。
いわば、剣術家のエリートが集まる所だと思ってほしい。
そんな彼らであっても、両方を兼用するのは難しい。
ライトも、柔はまだしも剛の剣術がてんで未熟であると祖父に叱られることが、ままある位だ。
師範である祖父にしても、自ら精進が足りないと嘆いている(だが、普通にそこらへんの木の枝で、大木を伐採したり、斬撃も飛ばせたりすることができる、これは十分極地の領域なのでは、と若き門徒たちは思っている)。
しかし、そうであるからこそ、剣術の道は面白いとライトは思う。
神秘的にも感じえる刀の美しさに囚われて、剣術を習いだした時からずっと。
ライトは、また刀を振り下ろす。
神速無音の領域に入る。
振り下ろした刀の延長戦の近くの木々から落ちてきた葉っぱが、地面に着くと同時に綺麗に2つに分かれた。
まだまだ足りない。
ライトは、また違う構えをする。
それから、数十分後。
一通り気の向くまま、素振りしたライトは、待たせている相棒のところに踵を返した。
「貴公の剣は、相も変わらず見事だ。」
落ち着きのある声で感嘆を述べながらアーサーは、ライトを見た。
「それほどでもない。」
目を瞑ったままライトは、涼やかに答える、声からは謙遜のようなものを感じはさせないものがある、本心からの言葉なのだろう。
「それとこれは、剣ではなくて、刀と言ってほしい。」
ライトは、ムラマサを少し持ち上げながらアーサーに頼んだ。
唐突に珍妙なことを言われたアーサーは、何とも言えぬ顔になった。
「それは、なんとも予には理解できんが。」
「刀というのは本来、片刃の剣にほとんど多く属するものだが、私
にとって刀とは刀で、剣ではないのだ。すまないな、一種の哲学
のようなものと思ってくれ。」
「うむ、あいわかった。」
自分がめんどくさい性格なのは分かっているので、ライトはアーサーにすまなそうに言った。
二人は、今、西の森を抜けようとして、歩みを進めている。
途中、クリケット・インセクトという名のモンスターが現れたりした、クリケット・インセクトは、定まった形状、種類のモンスターではなく、様々な異形の虫の略称的名前のモンスター、蛾のようなモンスターのようなモンスターが毒々しい鱗粉を振りまいて来たり、蜘蛛のようなモンスターが粘着性の高い糸状のものを吐いたり、ムカデのようなモンスターが周りの木石をも溶かす液を口から出してきたりしてくる。
一体、一体とても厄介なモンスターではあるが、それに輪をかけて集団で来るため、まさに形も強さも最悪のモンスターといえるだろう。
ライトは、このモンスターたちが仕掛ける前に、先制し倒していたが、いかんせん数が多く無駄にでかいために、なかなかにてこずった。しかしそれは、アーサーのおかげで解消できた。
このモンスターらは、総じて火に弱い。
アーサーの上級炎魔術マルティ・サラマンダーというサラマンダーを模した火の化身が群れを成して現れ、クリケット・インセクトを一掃したのだ。
魔法発動後、中には火に耐性のあるものもいるようで、それらは辛うじて生き残ったが、それらのモンスターの弱っているところをライトが見逃すはずもなく、容赦なくライトは斬り殺した。
ある程度、モンスターを狩っていくとアトゥムの世界は、夕日が落ちてきた。
なので、いったん休憩するという話となり、各自に自由行動していて、冒頭に戻る。
闇が深くなり、それに合わせて徘徊するモンスターが今か今かと獲物を虎視眈々と狙っている。
人は、闇夜の中では襲い掛かる獣に注意し、恐れる。
一般的な人にとって、夜はそれだけ人の行動を制限させるからだ。
夜よりも静けさがあるのは、人が恐怖により敏感に森の音を感じているのか、人がいないのか。
おそらくは、人がいない。
西の森、ましてや夜。
どれだけ凄腕の者でも躊躇する。
今まさに、そのような時、場所で、ライトとアーサーは、数多のモンスターと戦っている。
コウモリのようなモンスター、名をバッドバッド。
爪の攻撃をくらえば麻痺状態になり、鳴き声を聞けば混乱状態に、かのモンスターの口の立派な牙の攻撃をくらうと毒状態になるいわばバッドステータスの代表格的モンスターだ。
キキキキキキッキ!!
ライトに向かい来る大勢のバッドバッドらは、人を混乱させる声を出しながら襲い掛かる。
混乱時においては、誰しもミスをしやすい、そこに付け込む狡猾なハンターたち。
そういう絵柄には、全く見えない。
フッ
風が吹き通るかのような軽やかな音。
月の光が反射されたのか、二つの光が煌めく。
ドサッ。
バッドバッドらが、空から落ちてきた。
地上にまで落ちてくると一様に皆、翼が両方とも切り落とされているのが分かる。
燕返し。
佐々木小次郎またの名を、巌龍が編み出したといわれる有名かつ神技の一つ。
鳥の羽を落ちて来るまでに両方落とすという例で有名だろう。
分かりやすい形でライトが実演してくれた。
正確無比、高い技量、観察力。
これらの能力あってこそのものだと祖父は言う。
小次郎という人物が、どれほどの侍であったかいうには及ばないだろう。
「ライトよ、このまま着き切ると、あるモンスターのテリトリーに入るのだが、
どうする?」
「突き斬る。」
「当然じゃな。」
アーサーは、そのまま突き抜けるか、横に避けるか言ってきたが、ライトは即答で戦うことを選択した。アーサーの方も、言ったのは形式だけで本心は同じだった。
二人は、自分たちの言動に少し可笑しさを感じニヤリとしながら、歩んだ。
「私の知覚に大きな存在が感じられる。」
ライトは、歩いて数十分したのち自分の知覚にハッキリと分かるほどの存在の姿を感じた。
「おそらくは、先程言っていたやつだろう。」
アーサーは特に焦ることもなく、ライトにどうするか求めるような表情を向けてきた。
「私一人でやってみたい、いいだろうか。」
言葉は、相手に頼んでいるかのようだが、口調は、確定しているのだがなと思わせる。
「次の相手は、予にやらせよ。」
アーサーは、別段それを止めるでもなく、許した。
「いいだろう。」
ライトもその交渉に肯定した。
「さて、どんな奴だろうか。」
好戦的にライトは呟いた。
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