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79.そのとき(ルイズ視点)2

その日の内に、ノネと王子は、出立した


神聖魔法を主とする王子の国に、ノネは初めて他国から嫁ぐ

彼女が使役獣使でないことも幸いだっただろう

あの国に、使役獣使はいない


魔法こそ至高、神の使徒として存在し

王子もまたその枠組みにある

そして神聖魔法特有の『浸食』は彼らは身体的に特徴を刻む

王子の目が一番の特徴だろう


神に選ばれた子、神が選んだ王

閉鎖的なこの王子が、なぜ他国に来たか

それは、王と協定を結ぶためだ


しかし、神聖王国の国王は国の礎

決して外には出られないと伝わっている

だから、王子が来た


我が国を挟んでの戦争が始まりますよ

被害が出たら、申し訳ないね

もしそうならないようにしたいなら、敵国を通らせない方がいいだろう


その凶悪な使役獣を使って監視し、殺せばいいさ


要約するとそう言いに来た王子たち

当然国を戦地にさせたくもない


国王も黙って聞いていたわけではない

過去の所業を忘れたか

使役獣使の学園はこちらにあり、我が国には多くの使役獣使が仕えておるぞ

魔法などで、吹き飛ばそうが、こちらも魔法と使役獣、人を使い

再び焦土とするか?と問う


神聖王国は、一度滅びかけた

五代前の王に同じように伝えたところ

喧嘩早く力のある王故に、即座に殺しにかかった

領地を奪い取り、神聖樹を焼き払い

要所をつぶしてもまだ、しかけてきた彼らを全員焼き払った


彼は『炎王』火を用いた戦と仕掛けが好きで

当時からそう呼ばれていた


しかし、王子は違った

彼らを許した

そして許す為に、使役獣に、種や成長する石『フォーン』を護らせた

ひそかに運び出した


炎王は、戦で傷付き、自らが戦に立てないと知るや

獣に自分を食わし代を終えた

もともと、政治はせん、戦のみをする

お前がやれ、と次王となる王子にすべてを任せていた

王子といっても、彼の子ではない

彼に王妃も妾もない

ただ、ただ、戦いの中、命を燃やしてある人だった


王子は年の近い弟だ、それを息子とした

そして、後を継がせた

唯一、寄せた人ともいえよう


喪に服し、神聖国の人々の気力が戻るころ

王となった『和王』は、神聖国に種とフォーンを戻した

どちらも少しずつ成長していた


小さな木、それでもそれは確かなる波動を彼らに示す

怨むべき相手に救われ、複雑な心地だっただろう


しかし、目の前にある神の力は絶大だった


決して、境界を武力と血によって跨がぬこと

そう永久契約が結ばれていたはずだったのだ


しかし、今回の、それは、契約違反ではない

そうなることがありますから、気をつけてくださいね

と言っただけだ

今王『遊王』は恩を忘れた彼らを戒めただけである


それに恥じたのは、王子ではある

そして、少しずつ心を開いた所にノネが現れ

その心を見事に攫った


そして、あの日を迎えた


しかし、面白くないのは、敵対する王国だ

彼らはドラゴンの血を引く末裔

高き山、毒沼に住み力とし、精製し国力を増す

神聖国が強くなれば、そのまばゆい光は、彼らにとって毒だ

領地も縮小してしまう

だから、彼らの力が小さくあってもらいたいという気持ちはわかる


強靭な肉体と、身体能力

魔素を食い、魔石を作る

だから、国としてはいい取引先なのだ

我が国で、その力の流れを防ぎ人々の交流もなかった


しかし、神聖国が大きくなりすぎた

彼らは、北に国力を広げた

我が国からさらに上、それ故にあちらに近くなってしまった


どちらの国も地上にあるのが稀だ


ドラゴニア帝国は、通常は深い深い崖に住まう

片や神聖王国は、天空にだ

フォーンと、神聖樹が成長すれば彼らはそこに住まう


その国を両方配下に納められるほどぼろぼろに叩きつけた『炎王』も『炎王』だ

すべては『和王』の為なのは

歴史をみても明らかであり、彼の通り名の通り

平和な御世を作る枠組みが出来上がっていた


それには『炎王』自身が、障害になる

だから彼は死んだ、唯一興味をもった『和王』の為に


そうしたものが崩れ去りそうになっているのが「今」なのだが

お前がやったことで、水面上は問題はなしだ


「え?」

と、またいつものように素っ頓狂な顔をして俺を見る


「ほれ、聞け」

とん、と響石を響かす


「アン、ありがとう

 貴方に最大の愛と感謝を」

響石から涙で震える声が響く

「いつか、君を国賓として招きたい

 もちろん非公式のね」

そう王子が続ける


アンがこの国ですら出仕する気がないこと

仰々しいものが嫌いで、市井に近い存在であることを伝えると

彼らは、そう保存し響かせる


響石は、魔法契約に近い

消すことは、契約破棄と同じ

魔法文字を破り捨てるのと同じ意味合いを持つ

だから、臨終の時や、王の宣言

貴族同士の契約などに多く使われる


アンのように、警告に使うという方法は初の試みだ

誰が考え付いたのやら


アンは、響石を握り締め、涙を浮かべて笑う

よかった、と呟きながら


使役獣使が国賓として使役獣とともに入国する初の事例になることは

この際黙っておくが、それも少しずつ変わりそうだなと

一人ほくそ笑む

まったく、こいつは、規格外すぎるな



「お待たせ、ほら、大活躍のお嬢ちゃんしっかりお食べ」

とんっとスープにパンを浸して煮込んだ

病気の時に食べる料理が出てくる


あー、と周りは顔を見合す


正直まずい

アンが一口たべて、うーんな表情

こいつは、グルメだからなぁー


「病人食だからねー、おいしくなくても我慢しな」

女将はからから笑う、まずいと分かってるものを客に出すなと言いたいが

これは伝統の味であり、これを食う事態になるような状態

病人になるなということだ


水に塩をいれただけのスープにパンが実態だから

まずいのも当然だ


「いえ、おいしくないんじゃなくて足りないんです」

と、ラムムンを引き寄せ、ぱらぱらと何かを振りかける


「なんだそれは?」

皆が興味津津だ


「え、ドーズ(玉ねぎ)の粉ですが?」

「は?」

「あと、チーズをかけてっと」

「まかせろっ」

とラムムンが、器に飛び乗り離れる

こんがりと表面が焼けたなんともいいにおいのするものになっている


おもむろにスプーンですくう


「ああっ山先生ひどいっ」

お、すまんすまん

山先生?アンの中でのあだ名か・・・そうか山か

つい、にまりと笑ってしまう

戦地で、壁とか、護りと呼ばれたことは多いが

山か・・・


「うまい」

と俺が言うと、うんとアンは頷くが、複雑そうな顔だ

「え?」

と全員がスプーンを持って近付く

もちろん女将もだ

がすっと、スプーンが目にもとまらぬ速さで差し込まれ掬い取られていく


「あーーーーっ」

アンは、動けない、カールは笑っている

ティエリもだ

お前らが動かないのは、また後で作ってもらえると確信してるからだな


「まぁまぁ、なんて素敵な味」

「ううう、食べてないです、酷い、一口もないなんて」

アンは、がっくりとうなだれる


「元気だったら厨房にはいってもらうんだけどねぇ」

「鍋持ってきてください」

アンはがっくりしていても、言うことは言うんだな

こいつは・・・


皆が笑う


「だって、もう一人前つくっても、みんな食べる気でしょーっ」

アンは吠える

「もちろんっ」

なんて全員が応えてやろう


ああ、やはり、これだこれ

アンは、市井にあり、距離が近いのが一番だ


そんなにぎやかな食事も終わり

再度、ベットに押し込めて話を再開する


これからのことを考えなくてはならないからな

王都にいる、そして、隠ぺいされてはあるが

爆発音と巨大なドームが突如現れ消える


何かあったに違いないという噂だけは広まった

ただ、ノネを始め貴族たちはいつも通りの様子を見せ

嫁いでいったから、何かのパフォーマンスだったのかもしれない

家をつぶしただけじゃないのかなどで燻っている


しかし、王側はそうはいかない

さすがに、現実を知った


裏切り者と言われそうだが、テッラがいたことが災いであり幸いである

王のスパイも紛れ込んでいた

だから、テッラも真実を語るしかなかった


だが、それでいい

真実を語ればいい、お前は騎士だ

王に命と剣をささげたな


お前はお前の使命を俺たちは俺たちのな

と、アンと笑う


「お前の意志はかわらんな?」

もう一度問う

「変わりません、早く帰りたいです

 皆に会いたいし、部屋で寝たいです」

いつもの環境が一番だと平凡なことを言う


なるたけ似た環境の宿に泊まった

だから、アンは落ち着いているように見えたが

やはり勝手が違うようだ


「なんか客室に寝てるのって申し訳ない気分」

ああ、そういうことかと皆がどっと笑う

彼女の部屋は従業員室の屋根裏部屋

天井がまっすぐなのが違和感ですと呟き

みながまた笑う


王はスライムと聞いて一瞬失った興味を

今回の事件で取り戻した

ちっと舌うちをしたくなるのはテッラだ

上手くいけば、このまま円満に解決できただろう

噂とは案外あてにならん、やはり自分で動かないとな

なんて王に言われ、お伴いたしますなんて

上手く取りいっていたというのに

まぁあの王のことだから、その計画もやめることはないだろう


椅子を温め続けて五年

そろそろ冒険者の血が騒ぎ始め、尻がういてることだろうから


「その噂は聞きました

 王様って気さくな人だーって、なんか皆さんに結構好かれててびっくりしました」

そうアンが言う

だから、テッラが鎧に身を包まず、王の前に参上し、奏上したことは功を奏した


昔みたいに、と示され

王は、満面の笑みで応えたようだ

ま、その計画は、カールがしたようだがな


今回の毒の種類についてだが

ドラゴンの物だった

それが、今回の要だな


アンは、あっ当たったと言いつつ、首を傾げた

ドラゴンの毒ということまでは思い当っていたということか

だから、空中に風をもってあげたということを理解し

解呪が必要なことも

まぁグナータッドが早々に解呪したから精霊が風を留めることもなくなり

街には柔らかな風が吹き抜けている


「それが、どうして要なんですか?」

「そりゃぁ、王が捨てていったドラゴンを使ったからさ」

「え?」


かつて王は、ドラゴン狩りに興じた

全種類の角・牙・鱗・目を欲したのが討伐理由だったが

市井、民の安全の確保と

鉱山の確保の理由もあった

王関係者の中では、一番の理由は欲しかっただけだが

少なくとも、大義名分は、民の安全を獲得し

豊かな資源を、だ


そういう意味で王はかしこい


しかし、人となれば別だ

王都出仕はほとんどのものの夢だ

一環千金を狙い、名誉を得る

その枠組みを作ってからは貴族だからといって安寧ではいられない

切磋琢磨しろと、実力はものを言うと示される

しかし、貴族たちも黙ってはいない

むしろその実力あるものを抱え育てる

そして、出仕させ、心に刻ませる

お前の出身地はどこだ、仕えるものは誰だ、尊敬するものはと

そして、王が理想とする形が出来上がっている


だから、アンが出仕を拒むのは、周りの邪魔だと思い

本人を獲得し、腹をわって話せばわかる

と気楽に考えていた


むしろ臆病な娘さんに手を差し伸べる親切な人の心地であったことだろう

アンがその通りの娘であり

王本人が来ていたら話はちがったかもしれない


王という立場でありながら、アンと王の思考は少しどころか似ている

おもしろいことが好きで便利なことが好きで

自分がいいようにやっていくこと

周りを巻き込むところも良く似ている


なんていうと

アンは、そんなことないと思うんですが・・・と小さくなった


しかし、事実街は、変わった

アンが思い描いたものかどうかは不明だが、アン自身が住み心地のいい街へと

そういう意味で

エモーストの街は、アンを領主としてるみたいなものじゃないか


「それにしては貧乏な領主さんですよね」

そう言われて全員が笑う

確かになと・・・

アンちゃんはやっぱりアンちゃんでしたー

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