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68.御手紙到着(ノネメイド視点)

うふふ、待ちに待ったお手紙が届きましたわ

ノネ様がお待ちのエモーストの街のアン嬢からのお手紙


貴族でもない方だし、あの事件の当事者だから

わたくしたちメイドの中で

最初はアン嬢のことをきらいなものは多かった


お嬢さまが本宅に帰られることになった

使役獣を失う事件の後、お嬢さまは酷くお嘆きになっていたし

数ヶ月間、お部屋からお出にならず

いつもの美しさがしんと成りを顰めてしまって


わたしくたちはまさに太陽を失った心地でした


お嬢さまは本宅にお運びし

空になった止まり木が寂しそうにたたずんでいた

ノネ様はお起きになられてる時は

その止まり木か、窓の外をなにとなしに

ご覧になり、時が止まったようにいらっしゃった


その後、何通かお手紙を頂きお嬢さまにお渡ししてもお読みにならないので

失礼ながら読み聞かせいたしますと

お嬢さまは、はっとして、青白い頬にぽろりと涙を流されると

いつも使役獣様がいらっしゃった場所を見て静かに微笑まれた


そして、お嬢さまは、わたくしたちを捉え

「心配かけたわね」

と言って、お食事を召しあがってくださった


まだ、曇り空の中の太陽でしたが

わたくしたちには、その太陽を捉えることができ

不覚ながら、ノネ様のお世話を致しているときに

涙を浮かべてしまいました


ご友人の優しさ、苦悩

一介のメイドのわたくしがご友人様の気持ちを理解することは

できないかもしれませんがお嬢さまには、痛いほど理解でき

そして、道を示され、立ち上がっていくのに

わたくしたちは、涙を流してしまいました


辛くとも、道はあると

そう、締めくくられた手紙はわたくしのこころにも響き

ノネ様が立ち直れようとした今、まさにな心地でございました


渦中の方、アン嬢からは手紙は来ず

失礼な方だと思っておりましたが、来なくてよかったようです


ある日、お嬢さまはわたくしたちに言いました

アンさんに謝りたいわ、と

そう、お嬢さまに非があったようなのでございます


「だけど、まだその勇気がないの」

わたくしたちは頷きます

許しをこうことは、自己の為が強い

相手が許してくれなければ、もっとわたくしたちは罰と罪を受けてしまう

だから、勇気のいる行動だ


お嬢さまの体力と気力が回復し

お嬢さまは、またこの屋敷から出で子女学園へ入園された


そして、帰ってきた時には、お嬢さまは素敵な女性になっていらっしゃった

なにより、恋をされてらっしゃった


お相手様は、ディラック帝国の王子様

ああ、なんということかとわたくしたちは思いました

ディラック帝国と我れらが御家は敵同士

ご主人さまも、よい返事もできず置かれていた


週に一度帝国の王子から手紙と贈り物が届く

ノネ様も、せっせと返事を返す

恋鳥の鳴き交わしのように仲睦ましいご様子で

皆目じりをさげました


ご主人さまは、ノネ様にある提案をされました

彼が、王位継承をすれば、ノネを嫁がそうと

それまで、女男の姿があるようならばそれまでだと


ああ、この乙女の時期になんと酷い

夜な夜なパーティが開かれ、一夜の恋をたのしんでらっしゃる時期だというのに

お嬢さまは一人で枕を濡らせろと申しつけるなど

ご本人はあんなに楽しんで・・・んんっ失礼しました


しかし、ノネ様の御心は固く

「もう、そう誓い合ってますの」

とくすくすとご主人さまに笑われた

その時のご主人さまの顔ときたら、あの時期の男女がまさかで

めずらしく、わたくしたちにすらわかるほど表情をお替えになりましたわ

傑作でした


そう部屋に戻って笑うと

恥ずかしいから、人には言わないでちょうだい

と、頬をそめられておられました


そんなお嬢さまもあともう少しで嫁がれます

わたくしを連れて行ってくださると

嬉しいお願いもございました


一生お仕えいたしますからねっ


さぁ、お部屋につきましたわ

お嬢さまはきっとお喜びになるはず


「お嬢さま、ノネ様」

入室許可を頂き、呼びかけとすると

お嬢さまは楽しそうにくすくす笑い

「何かしら?」

と振りかえられた


ああ、お美しい


「アレーラ」

「あらっ失礼しました」

お嬢さまの美しさに目がくらんでおりましたわ


「お待ちかねの、お手紙でございますよ」

そ、と配盆を捧げると

お嬢さまは、まぁと目を輝かしそっと手紙を取られた


手紙にしては、少々不格好なものだったけれど

お嬢さまが封を切るとその理由がわかった


香水瓶がはいってある

わたくしが検査をと言う前にお嬢さまは配盆にそれを乗せる


お嬢さまから少しはなれ、蓋をあけると

ふわりと香るのは極上の香り


「まぁ・・・」

「なにかしら?」

「お嬢さま、これは・・・」

首を傾げられるお嬢様、ああなんて愛らしいのでしょう


「アレーラ」

「あらっ・・・ララリンクルですわ」

「えっ」

お嬢さまははっとしたような声をあげた

ララリンクルは、こちらに入荷が乏しい商品


「ララリンクルですって・・・」

すくりと立ち上がりわたくしに近づいてくる


五歩前ぐらいでしょう、その馥郁たる香りはお嬢さまに届き

ああ、とうっとりするように目を閉じた


「すばらしい香りね、アレーラ」

「はい」


わたくしはお嬢さまに近づき、香水瓶を手渡す

美しいガラス細工の瓶が光を受けてきらきらと輝き

本体の色かと見間違えるほどララリンクルがたっぷりといれてある

アン嬢は、いったい何者かと私は目を見張ってしまう


わたくしの知るアン嬢は、使役獣使で

エモースト街にお住まいになってることぐらい

彼女の使役獣が『万能スライム』ということ以外は知らない

ララリンクルを買える方だとは理解していない


「作ったそうよ」

「え?お嬢さま?いま何とおっしゃいました?」

「ララリンクルの香水を作ったそうよ

 これは、前祝いのプレゼントとのことよ」

前祝いにララリンクルの香水を送るとは・・・

アン嬢・・・


「ララリンクルは作れるものなんですか?」

「花を見つけることさえできたらできるわ

 ただし、あの花は鮮度が命

 十分もしない内に蜜が涸れ、三十分もすれば花が萎れるわ」

「はぁ・・・それは大変な植物ですね 

 あっアン嬢は栽培に成功されたのでしょうか?」

「いいえ、あの植物は、栽培に成功してないわ」

「そ、そうでございますか・・・」

「アンの使役獣がスライムなのが功を奏してるわね」

「スライムが、でございますか?」

わたくしは疑問を投げかけてしまった


「そうよ、スライムだから、その場で作ったんでしょうね

 だから、こんなに匂いが良い」

すぅ、と匂いを嗅ぐノネ様

ああ、その御姿の神々しいこと、匂いとともにわたくしはくらくらしそうでございます


「式で使わせていただきましょう」

「はいっ」

わたくしは、大きく頷く

たっぷりとあるララリンクル


「不足なら必要分おくるって・・・アン、貴方ね

 石鹸もリネン水もあるって・・・もぅ」

久々にお嬢さまの拗ねたような呆れたような御姿

昔はよくなさって、この愛らしさにわたくしたちはめろめろでございました


「早目に確保しておきますか?」

「少しはね・・・」

お嬢さまも、ララリンクルには目がないですものね


「もう、ほんと、あなた何してるのよ・・・」

お嬢さまは少しばかりため息をつき、手紙を読み進める


「あら、エスコート役いないんですって」

少しうれしそうなのは、お嬢さまと同じくご結婚なさってない

唯一のお友達だからでしょうか


「お嬢さま、いないとは?」

「恋仲な人はいるようだけど、時間がとれないみたいね」

「そうでございますか

 こちらでご用意いたしますか?」

「ええ、そうするわ」

「どなた様をおよびしましょうか?」

「どちらもわたくしの屋敷にいるわ」

「はぃ?」

わたくしは首をかしげる

どなた様のことでしょうか・・・

ノネさんとメイドさーーーんっ

お久しぶりだけど、なんか、久々じゃない気分なのはめいっこちゃんのせい?

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