61.アン観察録(騎士テッラ視点)
「じゃぁ、これギルドにお願いします」
そう言って、収獲したクエスト品を
透明な袋に小分けしたものと依頼書を渡された
透明な袋は精霊の紬糸だ
風の上位精霊のみが紡ぎ出せる魔法糸
しかし、こんな袋にするやつがいるとは・・・と
そんな気分だ
やはり、常識がない
帰る間際、精霊の森に寄ると
始め警戒した気配を送ってきた精霊たちだったが
アンが、一声
「あれーみんなーどうしたのー?」
とか声をかけて俺から離れると
わぁっと群がるように精霊が集まってきた
精霊術師でも、ここまで精霊に愛されることはないだろうという光景に
唖然とした
「えーと、これがこの前頼まれてたやつね
こっちがー」
と、彼女の第一使役獣であるラムムンから
希少鉱石や水や薬草などを取り出して
精霊たちに渡している
ちらちらとこちらを警戒するそぶりは見せるが
たまに、肩にのっているピンクスライムにちょんと挨拶して
ピンクスライムはぷるぷる震えて応えている
真黒なポイズンスライムたちと一匹の精霊が戯れてる
他の精霊はポイズンスライム故に近づかないのに
と見ているとアンは大量の精霊の粉や羽
糸などを手に山盛り積まれながら振り返った
「あ、その子、毒に犯されてたので治した子なんですよ」
「精霊が毒に?」
それは即座に死亡だろう
精霊は穢れに弱い、だから、対精霊戦では
地場を汚すことから始まる
俺たちが毒で受けるダメージよりはるかに強いダメージを受ける精霊たち
だから、彼らを狩るときは
風下から、矢に毒壺を括りつけ弱らせる
「女王さまからの依頼で
お預かりしたんですが、クロムンたちが正常状態まで
なんとか持っていって、治療していったんです
森に返らずすんで本当によかった」
ね、とその精霊に話かけてると
くるくると回り喜びを表す
「その後も、たくさん依頼がきます
なぜか毒を受けることが多いんですよね」
うーん、とアンは悩む
それは、人が毒を撒くからだとは彼女には言えなかった
事実精霊たちは俺に近づかない
精霊は知っている
俺が精霊を大量に殺し
毒を撒く人だと
アンはきっと一体すら精霊を殺したことがないのだろう
だから、精霊術師より愛される
純粋に仲間として、そして友として
こんな人間がいたのか、と愕然とした
精霊術師は精霊を操る
だから、死亡させないということはないだろう
本当に彼女は規格外だ
「早くクエストの完了してもらえるかな?
依頼人が待ってる」
そう冷たい声でいうのは、こびと族だ
アンが懇意にしているのだろう
他の窓口が空いているというのに彼のもとに一直線だった
「それは悪かったな、通常持っていくのは夕方ではないのか?」
そうアンから聞いた
そのあと、出来るクエスト、特に狩りとか得意みたいなので
ラムヤンと行ったらどうですか?とか言って
一体俺にぽよりと飛んできて、ピンクスライムと交代した
ぱっと羽の生えたスライムが各地に飛んでいく
「配達と伝言用の子たちなんですよ
またあとで全員の役割紹介しますね
フィルルンと仲良しだけどフィルルンは治療師さんなので
治療院行かないといけないんですー
じゃっいってきますっ」
と彼女も彼女のスライムと変わらず慌てて走って行った
「見ればわかる品物をぶら下げて往来に立つ
部外者がいるからな
依頼人がきたんだよ」
とこびと族はそう言って顎をしゃくる
騎士になんと無礼な仕草だと思うが
周りからの情報を得るため、ここは我慢しよう
それに、彼はきっと、アンといい仲なのだろう
そうでなければ、一直線に彼のもとにいくはずもない
「昨日とはうってかわった姿だねぇー」
いきなり声をかけられた
振りかえると、老人だ
「リフランレフラン の依頼者じゃよ
早くクエスト完了してくれ
私はそれで研究の続きをしたいのだよ」
俺はカウンターに品物と依頼書を置く
こびと族は、受け取り、品物を一つ一つ確認していく
「しかし、その方がいい
肩肘張って、金ぴかのこうるさい鎧では
アンちゃんとともにあるのはふさわしくないじゃろて」
くくくと、老人は笑う
「ええ、私もそう思い着替えました
彼女はそう危ないクエストも受けてませんしね」
「そう思うのは早計じゃ」
ぴしゃりと口を挟まれ
そして長い眉毛から覗く、真っ青な目がじっと俺を捉える
「安全と思うのは、アンちゃんの使役獣がいる故にだ
そうでなければ、リフランレフランなど
刈り尽くされてしまうわ」
たしかに、無造作に生えていた
そしてラムムンも彼女のそばを離れない
そういう理由だったのか
俺を警戒していたのかと思えば・・・
「そこらの分布図だよ」
ぽいと窓口から地図が投げ出された
ぱしっと受け取り広げると、思わずのけぞった
王都に一匹でもいたら見つけ殺すまで安心して眠れないと言われる
死の異名をもつグローズをはじめ
毒と冠する魔物たちが集結しているではないか
「これは・・・危ない」
「そ、金ぴかの鎧なんてまったく役に立たないどころか
標的にしかならない」
と会計が終わったと言わんばかりに机を叩く
しかし、俺が動く前に老人が割り込む
そして依頼品を受け取り
うっとりとするように結晶を摘み見つめる
「純度の高い結晶じゃ
相変わらずいい仕事をしおる」
そういうと、わき目もふらずギルドを出ていった
「話をしても?」
俺はこびと族に問う
「アンちゃんと違って情報が有料なのは知っているよな?」
にこりと笑うこびと族
頷き別室に入る
「お人よしで、やさしいアンちゃんに免じて
一つだけ君にアドバイスをしてあげよう」
そう、こびと族は椅子に座りながらそう言った
「なにかな?」
こびと族からのアドバイス
夜のことか?
アンちゃんに誘われても調教済みだから犯すなとでも言いたいのか
「噂だけで人となりを判断すると痛い目を見るのは
現状でよくよくわかってるはずだよね?
なのに、また、するのかぃ?」
そうこびと族は笑う
そういうと、後ろにいた大柄な男がぶはっと噴き出した
「ティエリそう言ってやるなよ」
と言いつつ、さもおかしいと言わんばかりにまた笑う
「こびと族であるから・・・なんて視線は
浴びてるものでね
それも、ひさびさ、すぎて忘れかけていたよ」
は?と俺は目を見開いた
こびと族が視線を浴びない?だと?
彼らは少数民族だ、きょじん族と同じく容姿がまず異質だ
そして、彼らは特殊魔法持ちだ
こびと族は、その身体の魅力を、籠絡しやすい性に重きを置いた
性別関係なく彼らは人をとりこにする
きょじん族とつがい、でこぼこコンビで世界を旅したことを
記した本は今もベストセラーだ
そのこびと族が・・・まさか?
「そのまさかだ」
後ろにいる男は、にかっと笑って彼の肩に手を置く
「こいつは本気になったからなぁー
だから手すら出してない」
「はぁっ?」
こびと族が・・か?
「初めての子なんだから、それくらいは我慢するよ」
「初めて・・・って?」
まさか・・・バージン?
「そう、そのまさかだよ」
「彼女は精神的におかしいのか
それとも肉体的に不具があっ・・・」
ぎりとこびと族からにらまれた
スキルが発動され、まさに蛇ににらまれた蛙だ
「どちらもないよ
彼女は清いだけ、異世界人だから少しだけ変わってるだけだよ
わかったね」
俺は頷く
こびと族に狙われたら、生きてはいけない
彼らは身体能力を生かし闇夜にまじり暗殺をする
ぽぴゅっ
とへんな音がすぐそばで聞こえる
「だめですっ」
アンの声だ
「はいはい、わかったよ、ラムヤン」
とふっと気配がゆるむ
「彼女と敵対する気はない
ただ、王都に連れていくかいかないかは別だ」
腹を割って話そう
そう視線を向けると
ギルドの二人はおやと言う顔をした
「王都の騎士も捨てたもんじゃないかもな」
そう言ってどかりと椅子についた
やっと話し合いの場が設けられたってことか・・・
まったくこの街は本当に異質だ
やっとパート2 毒の精霊ちゃん出てきました
ティエリは暗躍してますよ・笑




