57..騎士さんのお部屋
「お前は客じゃない、うちの宿の見習いだ
それがいやなら出ていけ」
そう、騎士さんが押しこまれた部屋
それは、私が、最初おばさんからどっちがいい?と聞かれた部屋の一つ
厨房横の半地下だ
「私は騎士だ、他からの命令は・・・ぐっ」
あーーっおじさん何してるんですか
麺棒で、騎士さんの喉を押さえつけて、壁に叩きつけちゃいました
「ここは俺とルーウェン、そしてアンの城だ
俺らのルールに従わないなら出ていけ
お前は客じゃない、うちの宿の見習いだ」
ごり、と騎士さんの頭が壁に押さえつけられ
麺棒がみしりと音を立てた
「わかったなら、足踏みしろ」
騎士さんは、少しだけ、ほんの少しだけ考えて
右足をとんとんと踏みならした
「ふんっ」
おじさんは、麺棒をはずし、歪みがないか見てる
「お前は俺の監視が付く」
そう言うとさっと厨房に消えていった
ずるずる・・・と床に座る騎士さん
「なんだ・・・あいつは・・・」
えーと、宿の親父さんですと空気読まずに言いたい気がするけど
かすかに震えてる騎士さんにそんなことは言えない
「追い打ちをかけるようなこと言いますね」
私はそっと囁くようにいう
フィルルンがふわんと騎士さんにやさしくくっつき
たぶんヒールを掛けてあげてる
フィルルンのヒールはあったかくて優しい気持ちになれるいいヒールだ
だから、きっと騎士さんにも届いてるだろう
「人と成りを見て判断しろ
無口は雄弁なる話し手ですよ」
「そう・・・だな」
激昂せずに騎士さんは聞いてくれた
「すまない、アン
少しだけでいい一人にさせてもらえないか」
「はい、フィルルン置いていきますので一緒にいてくださいね」
「ああ」
たぶんフィルルンが何かわかってないだろうけど
フィルルンが一緒にいたいって言ってるみたいだから
置いてってあげよう
半地下の部屋を出ると、皆が心配そうに視線を向けてきた
「一休みしてますのでほっといてあげてくださいね~」
私が明るくそう言うと、なんだよ、だらしねぇなーとか
明るい、いつもの笑い声が響く
もう今からギルドにいってクエスト受けてる暇もないし
久々に宿でゆっくりしようかな
おばさんと騎士さんどうするかも決めないとだしね
「アンちゃん」
とおばさんに呼ばれた
「はーい」
私はカウンターに入る
「大丈夫だったかぃ、あの人怒ってたねぇ」
久々だよ、とおばさんは言う
「でも、かっこよかっただろぉ~」
うふふと体をくねらせておばさんは嬉しそうだ
驚いたけど、たしかにカッコよかったかも
「ですねっびっくりしましたが
強くてかっこいいところはじめて見ました
さすがおばさんの旦那さんですねっ」
私がそう言うと、そうだろう、そうだろうと
照れたように私を叩く
「それであの子は?」
っておばさんにかかると騎士さんもあの子らしい
「ちょっと一人にしてほしいって」
「まぁそうだろうねぇー、騎士になれるぐらいだからそれなりには強いだろうけど
あの人の覇気浴びれば少しの間は動けないだろうさ」
おお、スキル『覇気』でしたか
類似スキルに『挑発』とか『喝』とかのあれですね
『覇気』は気配が中心で、相手をビビらし足どめする効果があるんだよね
うん、騎士さんが動けなくても仕方ない
「それでどうするんだい?」
「うーん、そうですねー
第一条件の、王都に行かないはかわらないので
この街を楽しんでもらって、私の使役獣のことは
見てもらうだけ見てもらうでいいんじゃないかなって思ってます」
「そうだねぇー、下手に隠しごとしてもあんたはばれるしねぇ」
うう、そうなんです、嘘の下手なアンです
「騎士さんが着られる服とかありませんか?」
「そうだねぇ、あれはないね」
うん、なんか真っ白なのはいいんだけど、ちょっとサイズあってないし
白だから、下着っぽくてステテコ親父?!とか聞きたくなる
夏のおじぃちゃんの格好だよ
ま、人が来たの察知したら、しゅっと浴衣きて何食わぬ顔してるのが
うちのおじぃちゃんだったけどね
「たぶん、直属になったのが最近なんだろうよ
それで装備に金が掛ってってやつだろうねぇ」
おばさんはおかしそうに笑う
うう、ちょっと前の私ですか
私ですかーっ
服だけはちゃんと確保してましたが
類友すぎて、共感しちゃったじゃないの
「忘れ物とか、置いていったものがあるから
そっからサイズみてもらって
宿の小僧に仕立てるとするかねー」
ふふふとおばさんは笑う
いやーっこきつかっちゃるっていう顔だよね
ううっご愁傷様
たまーーーに、ほんとにごくごくたまーーになんだけど
宿代が足りない人がいるんだよね
そんな時、薪割りーとか、荷運びーとか重労働が待ってます
いつもはプロムンたちがやっちゃうから
楽ちんなんだけどね
うちの宿、ほんと、スライムなしでは生きていけません
「んで、あのぼっちゃんの名前はなんて言うのかね」
「えっと・・・テッ・・・リート」
「ん、なんだって?」
ううう、ちゃんと覚えてない上舌噛みそう
テッラ
「テッラ、うぐっ」
う、噛んだし
「テッラフィリートだ」
と騎士さんが出てきた
「奥方、アン嬢、先程の無礼を謝罪する」
騎士さんは、直立から深々と頭を下げる
「いいってことよ、ただ、あんたも私らもね、お偉いさんのわがままに
振り回されてる同士だってことを忘れないこった
あたしらはなんも隠しごとしてないし
アンだってそうだよ
私らは、ここでみんなで一緒に居たいだけさ
それを邪魔するのがお偉いさんたちだけ
上手く立ち回ることだね
もちろん、相手を見てね」
おばさんは、私がする説明より丁寧に騎士さんに言う
「はい、ご指導ありがとうござさいます」
「それと、あんたのソレ」
と服ですね、指差すと、顔が赤くなった
「うちの宿の忘れもんだけど
体に合うの選びな」
「助かります」
うんうん、世は情けでもできてるんだよ
「俺、どれくらいここにいるんでしょうね」
服を選びながら騎士さんは聞く
「さぁね・・・」
と呟くおばさんの言葉には憐憫が含まれてた
そうなんだよね、おばさんの言う通り
お偉いさんのわがままで振り回され
今日の今日、いきなりの大抜擢
むしろ貧乏くじを引いた騎士さん
当然泊まる支度はできてないだろうし
お金も足りないだろう
「冒険者登録とかされてますか?」
私がそうきりだすと、二人がぽかーんとした
あっ・・・やらかした
頭の中でシュミレーションして、お金がない
一緒にギルドのクエストすればいいとか思っちゃったんだよね
どうせ付いてくるなら、それはそれでありかなーって
「す、すいません
暫くいるなら、ギルドの冒険者登録して
私とパーティ組みませんか?
一緒に行動するので、その方がお金も入りますし私のやってることもわかりますし
一石二鳥だと思うんですよ」
「あ、ああ、そういうことか
たしかにな」
と騎士さんはくすり、と笑った
それは、今まで張りつめた空気がぱりんと割られたような
素の笑顔で、おばさんも、あらぁと目を見開いた
うんうん、イケメンさんなんだから素敵笑顔がいいと思いますよ
じっと見てたら、ばれたみたいで
苦笑されちゃった
「すいません、貴方のせいではないのに
少し八つ当たりをしてしまったようです」
うん、そうみたいだね
「その気持ちわかりますから、これからしなかったら許します」
なんて、私も偉そうに言ってみちゃったり
私たち三人は、ふふっと笑う
「内ではいいんだ、外の特に、監視の目がある所だけ
監視してる振りすりゃぁいいんだ」
おじさんが厨房から顔をのぞかせてる
はいっと小気味良い返事をして頷く
「しかし、なんでこんなに・・・」
「信用するかってかぃ?」
おぼさんはにんまり笑う
騎士さんは頷く
「臆病なフィルルンだよ」
「スライムですか?」
「そう、その子は、治療回復が得意な子の一体でね
基本的に憶病なんだよ
だけど、その子が一体になってもあんたの元を離れない
ということはあんたは悪い人じゃないのさ」
「はぁ・・・」
と騎士さんは腑に落ちない顔をしてる
「スライム・・・ですよね」
そう言われて、スライム一家がぷよんぷよん抗議中
こちとら、スライムでぃ、なにが悪いんでぃっ
ですね
江戸っ子ですか、ラムムンたち・・・
「ヒールスライムだからっていうのもあると思いますが
やっぱり気配に敏感なんですよ」
私は援護するように言う
昔、攫われそうになったこともあるから
人の気配には敏感だし、かなり臆病になっちゃった
なので精霊籠の利用率は一番フィルルンたちが高い
瓶のマジックアイテムはあるけど、瓶だとどうしても触られるとられるという
意識がフィルルンたちにもあって
絶対防御な視覚的にも護られてる精霊籠が一番みたい
それに、病気の人ってどうしても体が無意識に
かばうらしい、そういう気配にも敏感で
フィルルンたちは、人気の治療師さんなのです
だから、フィルルンが一緒にいるだけで安心安全な人なのです
「そうか、お前すごいな」
つむりと突く、フィルルンのピンクの体が核の色のせいで
さらにピンクになる
「色が・・・」
「嬉しくて照れてるんです
ね、フィルルン」
ぷよりとつつくと、みよんと揺れた
「降参です」
騎士さんは両手をあげて降参のポーズ
「ここまで信用されたら、疑って、肩肘張ってるのが辛いです
テッラでいいですよ、呼びづらいみたいなので」
そういってすっと右手を差し出された
「すいません、どうも長い名前は苦手で・・・
テッラさんって呼ばせてもらいます
暫くよろしくお願いしますっ」
私はその手をきゅっと握る
フィルルンがぴたりっとくっついてきて
ずるいというように
ラムムンが手全体を包み込むようにぶよりとくるまってどやぁっとした
う゛ー・・・2時です、おやすみなさい・・・
感想返せなくてごめんなさい
明日書けないと、更新止まります




