56.協議の結果
「事実の確認、情報収集、審査留意の為
使役獣使アン、そなたに王国騎士兵テッラフィリートを配属する」
「はあ・・・」
私はそうとしか言えない
だってねー、事実の確認といっても嘘は言ってないから
これ以上どうしようもないし
審査の留意って言われても
早く諦めてっていうのが本音
騎士さんは無表情だけど、正直迷惑だろうねー
なんか昨日から学校のことにたとえてるけど
委員長が、先生に仕事押しつけられて、しかたないからやってるみたいな雰囲気
王都のほうがきっとやりがいもあるし
華やかだろうし、好きなんだろうけど
せっかくこの街に来たしいいところだなって思って欲しい
ほんとに暫く一緒にいるみたいだしね
最初は、騎士さん配属ではなかった
本気で今の今決まったことだから
無表情な彼の顔が、ますます無表情になってる
私なら、なんで私?とか、え、もう監視なんてしなくていいじゃないとか
頭の中ぐるぐるまわってるけど
さすが、王様直属の騎士さん
拝命致します、と静かに言ったきり微動だにしない
なんか世知辛いなぁと思うのは
私が、こういうカテゴリーの中に収まっておらず好き勝手させてもらってるからだろうなぁーと思う
つくづく先生がたそして、おばさん、おじさん、ギルドの人たちに感謝したい
ほんとに、最初の条件はひどかった
一日監視体制を魔法でするとかいって
本気でプライバシーゼロっになるところだったんだけど
その労力の使わなさ、一方的であること
まるで畜生扱いだとか、逆にこっちもあんたの行動監視して
防護壁はらさないぞ
と、脅しをかけると
お爺さんはぐっと詰まった
ほんとにもー、ですよ
人にやられていやなことはしないが基本ですよ
先生がたには実習の時使ってる監視システムはあるし
防護壁をはらさない、声を防ぐとか全部キャンセルできるだけの力はある
なおかつ、うちの街に防護壁があるらしく
王都から監視となれば、その防護壁を外さなきゃならないから
街の人たちの安全、街の安全がなくなる
それをわかっての言葉か?と
本気でいやみったらしく、ヒーメ・ロディ先生が言った
そのあと、にこりと、きっと王宮から派遣してくださるのよね?
街を護る部隊をとかマレアーヌ先生に言われちゃって
たじたじだった
もう、昨日なんの協議してたんですかって
私でもつっこみいれたくなったよ
それも、現在お昼を過ぎておやつの時間が近い時刻
いつもなら、学校行ったり、ギルドのクエストしてるのに
待機ってことで、全然できないし
学校も休校にさせられて、みんな暇を持て余してた
学園には外部の人は絶対に入らせないから
事実上の閉鎖で、生徒さんたちは外にあぶれて
クエスト三昧で、たまに私を見つけては
アン先生、今質問いいですかーとか言ってくれたから
時間を忘れられたけど
なんだかなーなんて、思っちゃった
人と待ち合わせしてるんだから
連絡をきっちりしてほしい
それも、一人じゃなく大人数なんで暇ではない人たちなんだから
先生がたは、数名いらいらされてたけど宿でみんなで楽しくしてたり
私と同じように生徒さんたちの相手してて、なんか学校と変わらない雰囲気になってきたら
楽しそうにやってた
ほんと、先生がたって先生業が好きで、みんなに教えたくてしかたない
天職なんだろうなぁーと思う
いつもは一堂に会することなどないから
先生がたがどんな風に生徒さんと対話してるのかも見てとれて勉強になった
おやつでも出しますかーとかおばさんと話してる時
やっと使者さんがきて、協議の結果が知らされることになった
みんなため息、だけど、これで終わるんだーと思っていくと
蓋をあければ全然協議出来てなくて
さすがに温厚な先生方もあきれ、一部青筋が・・・
そして、一方的なのは駄目だって昨日でわかったんだから
臨機応変にしてほしいよね
喧々囂々な再協議の結果
騎士さんが一人、私の護衛兼監視で残り
宿の外で活動中のみ一緒に行動することになった
だけど、無茶ぶりはまだまだ続く
宿は私の所でって言うんだけど、あの・・・空きがないんですが
というと、それはそちらで調整しろ
って言って、時間だからって帰って行きました
うーん・・・
時間が押したのは私たちのせいじゃないのに
ちょっと責任転嫁過ぎて好きになれない
先生がたの心証は激悪で
アーヴィン先生の顔から笑顔が消えたの初めて見ましたよ
「何かあれば、すぐさま連絡をするように」
って、低音で笑顔もなく言われました
うん、ごめんなさい
いつものきらきらっの笑顔でお願いしますっ
もう二度と文句言わないんでっ
「ハネムン、頼んだよ」
ラムムンの中にいるけど、話しかけると
ハネムンたちがぷわんっと出てきてぱたぱた飛んで
まかせてどやぁーっしてたから誤報だけはしないようにしないと
なんか、騎士さんの命が危ない気がするよ
「じゃぁ、帰りましょうか」
私は騎士さんを誘う
騎士さんは無言だ
うーん、やり辛いなぁ
私たちは無言で歩く、道ながらおしゃべりとかっていう雰囲気もなく
街の人たちも、カシャンコションとうるさくなる騎士さんの鎧のせいだろう
私に声もかけることなく宿についてしまった
「ただいまー」
私はそう言って扉をあける
騎士さんが入るように扉を開けて待ってるのに、外で立ってる
ええっなんなの?
「どうしたんだぃ?」
風が入るから、心配してかおばさんが出てきてくれたけど
ぴかぴかの騎士さんを見て、上から下まで見て
「あんたが泊まる場所はないよ
さっさと宿を決めてくるんだね」
と冷たく言った
おばさんが酔っ払いとか悪漢を追い出す時にたまーに聞くけど
初対面でこれはない
だけど、噂はもう周りに回ってて
未婚の女性に監視をつけるとはとか
礼儀しらずとか
それが王立騎士のやり方かと
支援罵声が大量で場が騒然とする
しかし騎士さんはどこ吹く風
扉を閉めようとすると抵抗された
「監視ができません」
「だったら入ってもらえませんか?」
入口に立ってられるのも困るし、それも目立つ人だからなおさら
うちのお客さんが、誰だ、なんだと
入り辛そうじゃないですか
まぁ別の入り口から入ってくれてるみたいだけど
遠回りになるので入ってほしい
「従業員の入り口から入るわけにはいかない」
・・・あ、おじさんが真っ赤になった
怒り爆発数秒前
「あっあのー、ここが宿の入口です」
私は慌てて言う
それもメインの入り口なんだけどな・・・
「えっ」
騎士さんがかしゃんという音とともに揺れた
後ろで蒸気を出しそうなぐらい怒り心頭のおじさんを目に移して
「失礼いたしましたっ」
と敬礼をした
うん、それがいいと思う
「とりあえず、中に入ってください
あと、申し訳ないんですが、鎧脱いで頂いてもいいですか?」
「すぐに脱げ、宿が痛む」
おじさんがぴしゃりと言う
床は木だからね
せっかくぷろむんたちが、私の部屋と同じぐらい
つやっつやにしてくれたのに、がこがこ歩かれると
痛んじゃうよね
プロムンたちも心配そうに集まってきてるし
こらこら、お仕事しなさいってば
「泊まらない泊まるは、宿が空き次第ということにして
中の案内などしますから脱いでもらっていいですか?」
「あ、ああ・・・
しかし、私はここで待機させてもらう
空きがあろうが有るまいと関係ない」
「でも、本当にないんですよ」
6人部屋の1ベットとかなら空きがあるはずだけど
カウンターの後ろの空き室状況のパネルは
いつの間にか一部の空きもなく埋まっている
おきゃくさーんと思うのと同時に
ティエリさーんと思う
なんか、おにーさんのにこやかな顔が浮かんだよ
絶対、空きなんてなくしてやるっていう顔が・・・
騎士さんは、ヘルメットというのだろうか
頭のを外す
はい、と渡されたので受け取ったら
みんなからブーイング
「鎧立てでも用意してもらえるんですかね?」
騎士さんも負けてない
鎧立てとかあるんだ
でも、たぶん皆が怒ってるのはそれだけじゃない
「騎士さん、そういうことだけじゃないと思いますよ
私に渡したいなら、持っててとか、お願いしますって言わないと
私は騎士さんのお手伝いさんでも部下でも
彼女さんでもお母さんでもないんですから」
そう言うと、お母さんという言葉の所で少しだけ赤くなった
「頼む」
「はい」
私は、籠手を受け取る
うん、みんなは一応静か
というか手伝い始めた、へぇーって感じだ
フルアーマーは一人で着脱できるものじゃないらしい
被ってたんだ、とか、そこ紐だったんだとか
いろいろ見てて面白い
べちょりとプロムンが騎士さんにくっつく
びくっとなったが、スライムだったせいかなんだと視線を向ける
むわんとした汗のにおいがちょっと私もいやですから
プロムンとしてもいやだったのかも
今さらだけど、スライムの嗅覚ってどうなんだろうね
「お風呂入りますか?初回なんでサービスしておきますよ」
「風呂?」
「あれ、聞いてないんですか?」
「何をだ」
うーん、本格的に不思議だ、私の何を調べてお呼び出しされたんだろう
「私の使役獣のスライムの得意なことの一つですよ?」
「風呂が、か?」
「はい、まぁ実際に見てもらってから体験しますか?
誰かサービス受けたい人いますかー」
というと、外からはいはーいと声が上がる
なるべくばばっちい人を選ばせてもらった
せっかくなので、とスライム全員分55匹分なので
全員となっちゃいましたけど
うっ私の儲けが・・・っ
でもこれはあれですよね
宣伝費、広告費、次回からは有料できっと入りに来てくれるに違いないっ
「ほぉ・・・」
騎士さんはびっくりしながら、その様子を見ている
見た目は、色違いのスライムが一人ずつにとりついて
全員をもごもごぷよぷよしてるだけだもんね
ただ、気持ちよさそうなのと、だんだん綺麗になっているのが
スライム越しでもわかる
するりと外れると、ぴかーですよ
まぁ人間なんで光らないけど、一皮も二皮もむけて綺麗だよね
「頼む」
そう言いながら、声に喜色が滲んでる
ラムムンがどろりと動く
あ、珍しい
他人がいる時は、あんまりラムムンがすることってないのよね
おいていこうとしたら怒るしね
「これは、いいな、うぐっ」
口を開けたついでにラムムンが口の中にゴーっ
満足というようにでろりと離れ
定位置に戻ってきた
「これは、すごいな」
うん、すごいんです、だけど珍しくラムムンがどやぁしない
むしろふふーんしてる
可愛くない態度だなぁ
「この香りは・・・まさか?」
「ララリンクルですよ、うちの宿は在庫の限りずっとシーツも石鹸もララリンクルですよ」
「・・・」
信じられないと固まった
「それは是が非でも泊まらねばならないな」
だから部屋はないってば・・・
「ねぇよ」
おじさんがけっと言う
「どうしてもっつーならあるぞ」
あれ?あったっけ・・・
ま、まさかっあの部屋ですかっ
しかし騎士さんはにんまりと笑う
「やはり隠してましたね」
と、知りませんよぉぉぉ、そんなこと言ってっ
ちょっと長めだね・・・
あかん、在庫がまじで・・・そして気分が・・・
人権侵害も甚だしい感じになってきましたが
なんとか防止、しきれてないけど・・・
寝ます、沈没します




