50.来襲 (他者視点)
「来たぞ」
ざわり、と揺れ、精霊がふわりと飛び、各地へと羽ばたいていく
王族騎士、それも王直下の親衛隊の騎士団の出で立ちは目立つ
平時なら、彼らに花を降らせ子供たちが羨望の眼差しで
彼らを見つめ、その列とともに走り手をふり歓迎を示すだろう
しかし、今はそうではない
街全体が、ぴりりと緊張をはらむ
王に歯向かう怖さを知らぬわけではない
しかし、アンを取られると困るのだ
この街で貴族が貴族でなくいるのは
すべてアンのおかげだと大人たちは思う
学園を一歩離れ、大人となれば、彼らは自分たちに
見向きもしないことを理解している
それが線引きということも
彼らには彼らの生き方がある
自分たちにあるように、貴族様がよぉ、と思わないでもない
しかし、学園でいる時は、皆同じように
繋がり、笑いあい、助けあった
それでいいじゃないですか、とアンは言う
職人さんが、冒険者にならないように
貴族が平民にならないみたいなものですよ
とアンは笑う
そんなものか、と皆が思う
階級がなんだ、職がなんだ
そう言いつつも、根底に差別があった
しかし、アンは、それでいいと語る
何処にも属さないはずの自由民として生きればいいと示す
彼女こそ、自由の象徴だと大人たちは彼らは思う
子供らとて、アンがいなくなると困るのだ
あのおねーちゃんは、甘いと知っている
しかしその甘さは優しさだと分かっている
弱みに付け込むようなことをすれば、親兄弟
友達が、そのものを叱る
あの事件後それが当然となった
彼女はありがとう、ごめんなさい、がんばるを
子供たちに教えた
職人の子、冒険者の子、貴族の子
すべてに変わらぬ態度をとり
悪いことをしたらごめんなさい
そしてしないようにしようと教えた
よいこと、嬉しいことをしてもらったら
ありがとう
そのありがとうを言われることを少しでもいいから行うと
みんなが素敵になるよと教える
みんなが少しずつ頑張れは変わる
今わからなくても、次できるようになる
まだまだみんなは子供だから、できることも
できないこともいっぱいある
そう少しずつ教える
転んで、怪我してたら、大丈夫といって
彼女のスライムが、治してくれる
治療院にいけば、いくらかはお金を取られる
だから秘密ね、と言ってしてくれる
仕事の服を着てる時は駄目
こっそりやってくれること
と皆が『秘密』を『護る』ことも覚えた
できることを探した
アンはそんな彼らに仕事を探してくる
ここで○○できる人探してるみたいなんだけど
やってみたい人いる?
住み込みだよ?と、言うのだ
やりなさいではない、希望者を募る
そういう風に少しずつ居場所を作ってくれた
金がはいる、寝床がある、居場所がある
仲間がいる
そのすべてが心に余裕を生んだ
夢が生まれた、そして、彼らは『人』となった
その『大事な人』を『王』は奪おうというのだ
だから、子供もそして大人も
街をあげて、対立しようとする
使役獣の学校は、現王の代になる前は王城であった
それを使役獣学園とし、さらなる護りを強くした
籠城可能な要塞王城である
複雑に入り組んだ道
要所要所にある門扉
それはすべて外敵に備えた作りだと理解できよう
地図とて、主要な道以外示されたことがない
そして、いつの間にか、道が変わるのだ
リーナの旦那の家が崩され新しい街並みができたり
1つ家をつぶし、道の流れを変えたりと
刻々と変わりゆく
それは意図的に、たまに訪れるものに
錯覚を覚えさす程度でしかない
宿の位置もギルドの位置も
そういう要所はかわらない、ただ、何かが違うという違和感
しかし、それが何かを示すことがない
そうやって、街を護ってきたのだから
現王は5代目だ、しかし、使役獣学園は場所を移しながら
長く長く続いている
この国の王に税を払い、王国の一部として存在はしている
しかし、隷属はしていない
この街は『自由街』なのだ
特別区画とでもいうのだろうか、領主の存在しない
まさに、冒険者と使役獣学校の街なのだ
だから、アンは、自由に動けた
王や領主に申請することがないだから、何をしてもいいのだ
そして、何をされても許される
その『自由』が示された街
それを傘に、なにかをするものは毎年現れる
しかし、ここは間違いなく『自由』を作っている
そして、その中にアンの『やさしさ』というものが生まれた
甘いのかやさしいのか、それは人によって受け取り方は違う
しかし、それを人が人を戒めるのだ
そうして、いつのまにか『安全』と『安らぎ』が街に生まれた
この街がこれからどうなるか見てみたい
そして、それを体現する『人』を
だからこそ、連れていかせない
そしてその手段は選ばないと全員が示した
そして渦中の人がきた
おはようございます、と皆に挨拶しつつ
緊張モードだ
「王様って、けっこうしつこいんですね」
ぽそり、と吐いた言葉に全員が笑った
いろいろ設定が出てきました、はーここまでくるのに時間がかかったー




