44.君の望むままに(学長視点)
異世界のお菓子に魅了され
つい、本来の目的を忘れてしまったが
アンの、堪え切れない笑い声は
瞬く間に広がりアイスクリームを褒め称え
喫茶の方と話を煮詰めるということだが
教師全員が、冷静になってくると
また、頭の痛い、と思ってしまったのは仕方がないことといえるだろう
このお菓子は、王族が権利と名誉を欲しがるだろう、と
喫茶の料理長が権利を保護するだろうから
その点については、また「煮詰め」しなくてはならないだろう
「さて、本題にはいろうかね」
アンを含め、全員が頷く
「まずは、その書状に目を通してほしい」
羽の生えたスライムが、もぐりとそれを吸収しぱさりと
アンの元へと運ぶ
人の意思をすばらく理解した使役獣だ
「ありがとう、ハネムン」
もふり、と手のひらで混ぜるように撫でる
ぱらりとそれをめくり
読み進めると、アンの表情が硬くなり曇っていく
「出仕命令ですか?」
「そうだ」
と、私が口をはさむ前に、ルイズが答えた
「嫌なんですけど」
とアンは、彼女にしては珍しいほど
顔を歪ませてきっぱりと言った
「そうでしょうね~」
といつもの声で、だが、強かにクオンは言う
「私はこの街で骨をうずめるんです
だから、嫌です」
「はっはは、そういうのは好いた奴に言え」
ガーラドが多少赤い顔をして言う
アンは首を傾げた
「お前・・・」
「はい?」
「意味を分かって言ってるのか?」
「はい・・・死ぬまでここにいる宣言ですよね?」
そういうと、身体学マレアーヌがくすくすと笑って、アンに踊るように近づく
「だめよぉ」
両手でアンの頬を挟んでにこりと、笑う
「そんなプロポーズの台詞
あなたのために、ここで生きます、なんて言っちゃぁ」
甘く歌うように、囁く
「えっ、まれあ・・・先生っ
どういうことですか?」
「うふふふぅ~」
「えっちょっと」
アンは目に見えて動揺し、そしてマレアーヌは踊るように席へ戻る
「せんせぇ~」
アンは縋るように呼ぶ
ふふふ、若いものは楽しい
「異世界では、違う意味なのか?
私は構わないよ?アンならね」
にこり、とアーヴィンは女性を魅了するように笑う
こらこら、半分本気のからかいはそれまでにしてあげなさい
「えっあっいやっちょっとまって」
もう、だめ、という風に机に沈むと
その上にどろりと彼女の第一使役獣 ラムムンがのり
ぷよりぷよりと揺れる
しばらくすると
「わ・・・忘れてください」
とがばりと起き上がった
「まぁ一旦はね、あとでからかってあげよう」
にやにやと、ヒーメ・ロディが笑う
「やめてください、忘れてください
本気でっ
ううう、私かなりしょっちゅう言ってたんですけど
誰も何も言わなかったですよー」
「それを本気にしていい人だったからじゃないの?」
うっ、と彼女は止まった
そうか、彼女の好きな人に言うたらしい
「まぁよいよい、わしら全員も同じ意見じゃ
アン、そなたはこの学園、そして街で偉大なる功績を残し
かつ今なお発展に努めておる
そして、その知識と労力をおしみなく学園で発揮してくれることに
最大の感謝をさせていただこう」
アンに頭をさげると、全員が同じ動作を取った
「はい、ありがとうございます
でも、そんなに大したことはしてないんですよ?
本当に」
アンはいつもそう言う
ほっこりと心が温かくなる
もしも、大したことでないとしても、それだけ継続して続ければ
大したことないものでも、偉大なる功績になるのではないだろうか
「それには、最初に私を拾って
救ってくれたのは、学長先生で、学園でこの街です
それに感謝してるのは私の方です
だから、がんばれること、私にできることはしたいんですよ」
「そうじゃったな」
そう、学園の先生になる時も言った
アンの使役獣との付き合い方は独特である
他者の使役獣にすら影響を与える力
主人ともいえようが、今までの傾向を見ると
使役獣の方がアンから学ぶ方が早いように思える
「そうじゃな、お主の意思は宣言通り変わっておらぬことに
私はうれしく思う
さて、本人の意思、そして学園の意思は固まった
まずは、王に返事を書くとしようかね」
「はい」
アンは、いそいそと、魔法文字を書く支度をする
「その前に一ついいかね?」
「はい?」
アンは小首をかしげる
「君は、この街、学園に恩義を感じてまさに
骨を埋めるほど好きだというのはわかった」
そう言うと、意味がわかった今、アンは面白いほどぽんっと赤くなった
しかし、真面目で堅物なクッドゥルが相手だ
アンも、羞恥に身悶えながら拝聴していた
「王都出仕は名誉のあるものだ
そして、お前のその能力を遺憾なく発揮でき
高い評価も得られると思うぞ?」
私は、一人ほくそ笑んだ
自己評価がすこしばかり低いアンだから
王都で、自信をつけながら、戦うのもまた楽しいだろう
新しい道は確かに開けるだろう
それに、あそこには、たくさんのアンの生徒たちもいる故に
そう悪くはならないだろう
「そうでしょうか?」
アンは、ただ、そう言った
「そうとは?」
クッドゥルは、喰い下がる
「たぶん、私は潰れます
能力を発揮できるとは思えません
フィルルンの時、貴族の生徒さんたちに
対応をいろいろ教えてもらったんですが
正直、私には無理だなぁって思いましたし
それをみんなは楽しんでるといいました
私は、その争いのようなものを楽しめません」
「そうか」
「それにですね、宿のおばさんや、おじさん
ギルドの人、学園の人たちが
面白そうだな、いいな、とか、やってみようとか
言って許してくれるのが一番大きいんです
私の中で当たり前なのが、こちらでは当たり前ではないこと
私にはその常識が未だに甘いと思うんです」
そう言うと、全員が、思い思いの表情で頷いた
「だから、私にとってここは、丁度いい場所なんです
ああ、また異世界人のアンが、何かやってる
どれどれって見てくれて
それは、面白い、それは、危ないって
みんなが、好き放題、口出してくれるんです
私はそれが楽しいんです
王都で、そんなことしてくれる人いるんでしょうか?」
アンは、笑いながら聞いた
答えは『ない』と知っていると
「だから、私はここがいいんです」
「そうか、よくわかった」
クッドゥルは満足したようだ
彼は討論が好きだから、私のところに来ては
数時間話し込んで帰らぬこともある
たまに、アンを呼びとめては、矢継ぎ早に質問し
彼女特有の返事をもらって
また考え込む
せんせー、私いそがしいんですーっと
悲鳴をあげているのを良く見る
しかし律儀に相手をするからこそ、クッドゥルはアンに話しかけておるのを
まだ気付いておらぬのが
若さ故なのか、また彼女も律儀な性格だからなのか
くすり、と笑いが落ちる
よき異世界人が、わたしのところに来たものだと
アンちゃん、危ないよ、異世界の常識は非常識・笑
それは言葉もであった・笑
先生方がたくさん登場して私がわからなくなってきてます・こらっ




