42.噂話の結果はいかに?
「困りましたねぇ~」
そうのんきな声をあげたのはクオンだ
「困ったのぉ」
と学長も同じように呟く
「困ったもんだな」とルイズ先生
ふふ、と不敵な笑みを浮かべるアーヴィン先生
マッチョ先生もぶすくれた顔というより、歯ぎしりな顔で
一点を睨みつける
先生がたが集まる円卓の中央に
やたら豪華な封書とその手紙が鎮座し
全員が思い思いの表情で『困った』と示していた
「意外と早かったと言うべきじゃないのかしら?」
と色っぽい女性の先生が言う
彼女は魔法学の先生だ
「生徒側から漏れたのは少なかろう
噂が後で聞かれたものはあるようだがな」
前髪で顔を覆い尽くした男が独り言のように言う
「沈黙のルールか・・・」
くすりと、笑うのは、その隣にいる赤毛の男だ
「我らより、学生がまず困るだろうからのぉ
アン先生をとられるとなぁ」
ふお、ふぉふぉふぉと笑う学長より年を召した老人が笑う
彼らの前に鎮座しているのは
王の召喚状
リーナがこれを見ることがあれば
あからさまにその美しい顔を顰めるだろう
拒否と、断るには相手が厄介すぎた
だからこそ、顔を突き合わせてため息と困ったと言葉を漏らす
かつ、もう一度再確認の意味を込めた収集だった
アンは非常勤の先生だ
アン派の生徒がいる故に、非常勤とはもう呼べないだろうが
雇用形態を変更していない上、彼女は多方面で職についている
どちらにせよ、学園付属人としての扱いだけにはさせることができないし
本人も望まないだろう
しかし本来、本人に届くはずの手紙がなぜここにあるか
それは、彼女の使役獣のおかげだ
それ故対策をとる時間が出来た
ハネムンと呼ばれる帽子と鞄を下げたスライムがふわりとクオン先生の元に来て
「緊急事態、いやです」
と二言アンの声を響かせぺっと王都召集の手紙を吐き出し彼の肩に乗った
そこから、午後の時間の長いこと
生徒を全員帰し、アンの友人である司書や恋仲と噂される喫茶のカールに事情を話し
足どめしてもらっている
会話という会話もなく、言葉は沈黙と変わる
打開策を発することもなく、ただ、困った、どうしよう
いやなものがあるなぁー
そんな雰囲気が机の中央に対し集まっていく
「埒があかんな」
ルイズ先生は言う
「そうじゃな、それでは、現状把握するとしようかね」
学長は総勢二十人全員の顔をみる
一学年四人の先生、五学年故に、二十人が
この学園の先生たちだ
そのすべてが集結している故に
生徒側はなんらかの気配を感じているだろう
それがわからないなら使役獣使にはなれないと
言っても過言ではない
「必要か、不要か、か」
マッチョ先生が笑う
それに全員が頷き、その簡潔すぎる選定方法は
相変わらずだと皆の雰囲気もほぐれる
脳筋バカと示したあの事件ではあったが
一学年の生徒の認識の甘さ、学校側の対策の甘さ
それが浮き彫りとなり、学園と使役獣使全体が引き締まった
二クラスもある故に篩い落としは当然だし
その厳しさを身をもって体験しただろう
もし、死者が出たら?
それについて、学園は責任を負うことはない
最初の入学契約時点で
使役獣の暴走、実習、授業で死亡した際
学園は一切責任を取らないとこが明確に示されている
だからこそ、あの時、月砂漠に行くと言われ
他人が助けてくれるとか
どこかで見てるから大丈夫だよね
ではなく、反対し、自己の命と使役獣を護らなくては
ならなかった
しかし、それはおおげさだと、考えてしまうのは
子供らしい甘さと
人を使うこと、傅かれることに慣れた、貴族階級者の甘えだ
アンもびっくりしていたが、自身の経験と合わせ
ギルドで受けたクエストの最中に死亡しても
ギルドが責任をとらないのと同じという風に考えたように
自分の命を自分で護るものにとって
ある種この世界の常識でもあった
あれから、アンとともにギルドに学生登録をし
一学年が、昔の三学年ぐらいの実力を身に付けるものも多くなった
知識はまだまだ不足しているが
徹底的な自己責任、自己管理を周りの大人たちに教え込まれた
学園で学べないことをギルドのとるに足らないと思っていた
冒険者たちに教えられた
それは、人や職業に対する認識を改め
なにより自分に対する評価を改めた
だから、彼らは言う、家でいる時より子供でいられると
素直に人から教わり、泣き、笑い
感情的に生きていけるのだ
その青春自体はよき糧となっていく
そうして、結果的には利を生む行動となった故にそう悪くない事件なのだ
だから今もなお、彼は、教師を続け
そして、生徒たちを煽り、焚きつける
強く、逞しくなるために
それが彼の役目であるというように
「それでは、皆」
と学長がもう一度周りを見渡す
全員が、机の上に右手を置く
「答えを」
どん、と学長が、自身の答えを示す
握りこぶしをつくり、机を叩く
そして、それはすべての席で同じ行動を生んだ
二択選択の判決方法だ
机を叩く必要はないが、彼らは行動で示した
『強く必要』だと
不要ならば、机の上から手を引いてしまう
ない、状態にするように
「さすがねぇ」
うふふ、と魔法学の先生が笑う
彼女もまたアンの、否、ラムムンのファンの一人だ
水の上位精霊を使役獣に持つ彼女に
ラムムンはある程度のマッサージとお風呂の方法を教える
吸収は出来なくとも、主人の喜ぶ気持ちのいい
お風呂を提供することが出来るようになった
アンもそうだが、その使役獣も教えることを拒まない
分け隔てなく情報を分け与える
情報料をとれば、アンは瞬く間に金持ちになっただろう
しかし、アンは分かって無料でしていると答えた
もし、有料にすると、その情報をもらえない人が出てくる
そうすると、情報の権利みたいなのが発生しますよね
そうなると、一部の人だけの利権となり
全体的に高価で手の出しにくいものになりますよね?
と言った
私のお風呂とか掃除って
毎日のことじゃないですか?
当たり前なことは、広めて
魔法など特殊なことは、情報や指導でお金を取ればいいと思います
と学生時代から言っていた
当たり前ではないんだがなぁと思う先生たちだったが
アンの世界、アンの中ではあたりまえで
線引きをしているならば、これ以上の指導は必要なかった
それにアンは言った
感謝してるなら、それをまた何かで返してください
したい、と思えば、してください
感謝ってそういうものでしょう?
と、不思議な魅力を持ち、考えを持つ異世界人
さもすれば埋没してしまう人物なのに
周りに影響を与えていく
挨拶、感謝、謝罪、貴族階級の多い学園で
今は、当たり前のように行われている
本当に、世界を変えてしまったな、と学園に
長くいるものたちは思う
それはいつしか、国を率いていくものにまで
影響を与えていくだろう
そうしていつしか国は良くなるだろうと
学長は思う
だからこそ、今、彼らに持っていかれては困るのだ
「さぁ、アンを呼ぼうかね」
ふわりと学長の使役獣が宙を舞う
まかせて、というように
皆それを見送り
また目線を中央に戻す
しかし、先生がたの視線は強かった
学園側の対応と自身の意見は確定したのだから
マッチョ先生のあれについて、やっと読み手さんに説明がきました
あー、これも長かったね
そしてアンケか感想で、こうなるのでは、と想像してくれた方
おめでとう、正解です、どういう風になるかは続きをお楽しみっ




