41.噂話は空を駆ける
「これってアンのことかしら?」
ふわりしたとピンクの髪を活かすようにまとめ上げた女性が
隣にいた女性に手紙を渡す
その膝には同じようなふわふわのピンクの髪が揺れる子供が
母親である女性にぴったりとくっついていた
「ふふっそうかもね」
ピンクの髪の彼女よりは落ちついた声の長いまっすぐな茶色の髪を
背にたらして、軽く頷いた途端さらりと前に流れた
それを整えるように後ろに流しなおしたあと
手持無沙汰なように指を擦り合わせた
「懐かしいと、ちょっとうらやましいわね」
ふぅ、と茶色の髪の女性はいう
「そぉね
でも、私にはちょっと無理だったもの」
くすり、と甘い砂糖菓子のように笑い言葉をこぼす
「確かに、最初から覚悟があれば通え
子女学園とは違うぞ、とか脅された理由は分かったし
使役獣使たちが、いつもいかつい顔してるのも理解できたものね」
それだけでも、十分という言い方に
ピンクの子はくすくすと笑う
それにつられたように、腕の中の子供も嬉しそうに笑う
「子女学園にいったらわからないこと
学んだわね
あちらも楽しそうだったけど
わたくし、後悔はしてないの
だって、私の理想と現実ををちゃんと見ることができたんですもの」
甘い声で、似合わないほど利発なことをいった
しかし、それは彼女の武器となった
侮らせるのがたやすい
そして、甘えあやつるのも
自分で行う使役獣使には向いていなかったけど
貴族としての戦い方を見極められた、と彼女は言う
茶色い髪の子ではそうはいかないだろう
警戒させない、噂話の中にぽろりと混じる本音を聞き出すなら
ピンクの子は適切だろう
そして、茶色い子が切り出す
彼女たちは使役獣の学校で知り合い
お近づきになり今の今まで友情を結んできた
縁のない貴族同士だったが
今では奥さま同士が仲のいいと言われるほど浸透している
そうして噂話を広げ有益や害となる情報は
するりと旦那に漏らす
彼女たちは戦い方を上手に身につけた
さて、その旦那はだれなのだろうか
「やってるな、奥さまたち」
黒い衣装に身にまとった二人の男が
緑の花咲く庭の白い東屋に立ち入る
「あら、おかえりなさい、エゼー」
「ただいま、リズ」
そう頬に茶色い子に口付ける
「なんの話をしていたんだ?」
そう笑いかけピンクの子供を抱き上げる巨躯の持ち主
「貴方達にはちょっと聞きたくない名前かもね」
「ん?」
子供をあやしながら茶色い子を見て自分の奥さまを見て
困ったように笑う
「怒らないから言ってごらん」
エゼーと呼ばれた男が笑ってそう言う
「そう?アンのことよ」
そう言うと男二人が苦笑した
たしかに、聞きたくない名前だと
しかし、彼女が悪いのではない
自分たちの最大の汚点だから聞きたくないのだ
「たしかにな、しかし、彼女がどうした?
また何か面白いことをしでかしてるのか?」
くすくすとエゼーは笑う
そう、彼は、一学年の時、禁止された人への使役獣の行使をし
学園追放された少年だった
リズと呼ばれた茶色髪の子とは生まれた時から婚約をしており
だから、リズが使役獣に対し興味をもったとも言える
結果として二人とも、いやここにいる四人全員が
使役獣使にはなれなかったが得た物も多かった
一つだけの未来を目指していたエゼーとダルデ
今のように奥方に耳を傾け、ともにお茶をしたかといえば
絶対になかっただろう
使用人のように奥方を扱ったかもしれない
ダルデの場合は少し違うかもしれないが
箱にいれて可愛がるように、自由にさせなかっただろう
彼はピンクのふわふわのコーティが愛らしすぎて
たまらなかったから、即座に親に働きかけ婚約を結んだ
しかし、直後彼らの婚約は破棄されかかった
コーティとダルデの場合はコーディ側から
リズとエゼーはエゼー側から
使役獣使としての未来に駆けたコーティの実家の思惑
エゼーの失脚と敗退と本人の希望による破棄
だけど、コーティは自分にはない魅力と
まだ気力と愛情失っていないダルデをかばい
そして、父母に働きかけ認められないなら
わたくし出ていきますとまで言われ泣いて、一人娘可愛さに父母が折れた
だからコーティ家の方に婿入りした形とはなり円満となった
リズとエゼーの場合は、リズが破棄をするなら
一日時間をくださる?と自暴自棄になったエゼーを
文字通り蹴り飛ばし、何するんだと暴れた彼に
自分が言う通り、カスなら蹴飛ばされても文句はないでしょう?
それが嫌だというなら、違う方法で這いあがりなさい
といって目を覚まさせた
二人がそのまま寝室から出てこなかった上
彼女が学園を自主退学したのは割愛させていただこう
そうして二組のカップルはめでたく婚姻を続け
新しい道を切り開き
王族騎士とその奥方として貴族の一員として暮らしていた
「スライムの街か、確かにアンだろうな」
くすりと、エゼーが笑う
まず間違いないと、手紙を読み進めればそれは確信に変わり
その上、笑いまでこみあげてきた
いったい何をしでかしたんだと
それをダルデにも渡す
彼も似たような反応を示し
奥方たちはくすくすと笑う
学園を去って十年足らずで彼女はあの学校をそして街をこんなにも変えてしまった
「もう一度行ってみたくなるわね」
「わたくしはお逢いしたいわ」
リズとコーティが言う
「そうだな」と旦那様二人は頷く
あの不思議でおかしな異世界人に会いたいとまた思う
そして、今なら謝れるだろうと思いながら
お待たせしました、前作の登場人物やっと名前がでてきました
遅いよ、自分
いつもだよ、自分・笑




