29.お礼に行こう
「じゃぁ、行ってきます」
いつも通りの朝の仕事を終えてギルドへ向かう
道ながら知ってる人に、挨拶を交わしたり合流したり
大変だったな、と慰めたり、信用と用心は一緒にしろとか
いろいろ教わって
ああ、みんな知ってるんだなぁって思うと恥ずかしくもあり
情報通だなぁって思う
「おはようございます、ティエリさん」
軽くクエストを取り、挨拶するとティエリがえっという顔をして
椅子から落ちそうになった
こっちからは手が伸ばせないので同僚さんが笑いながら助けてた
「もう、いいのか?」
「いい、とは言えないけですけど、くよくよしてる方が良くない気がして
だけど、治療院に貸し出しはお休みです」
そう言うと、もう一人のおじさんも、そうだな、と笑ってくれた
まぁ禁止令が出てるしね
今日行く予定の治療院は昨日行った場所じゃないのが幸いしてる
ティエリさんの言うこと聞いといてよかったなぁって思う
「昨日はありがとうござました」
「うん、勝手なことしたけど、そう言ってもらえて嬉しいよ」
いつもの調子を取り戻したティエリはそういう
いつもの優しくてしっかりしたギルドのお兄さんだ
「アンちゃんはいつも、いい関係をいろんなところで築いてるから
大丈夫かなって思うの半分
危ないかなって思うの半分だったんだ」
私は頷く、いい関係は築いてきたと思う
だけど、素敵なフィルルンの前で箍は外れ、狂ってしまった
「私とラムムンがいての関係だったんですよね」
そういうと、お兄さんは驚き、頷いた
「だけど、まだ駄目だよ」
ティエリさんはそういう、私の甘さにつけ込ませないと
どうしても、と頼まれて断れないのを見たからだろう
あの時もちょっとショックだったもんね
あれは、学生の時で、ちょっとレアな薬草採取のクエストの帰りだった
あの時もう羽スライムになれてたから
私は飛んで連れて行ってもらって、時間的も体力的にも楽させてもらった
マジックサーチのスキルも成長させ中だったから
がんがん使って、今回のに必要ないものまで持って帰って
ラムムンは今日の食べたいご飯を伝えてきて
探して食べたりとか、収穫満点な日だった
鼻歌交じりにギルドに入ろうとしたら
男の子に、このクエストであと一種類足りないんです、融通してもらえませんか
って声をかけられた
どうしても、頼みますと、お金はクエスト完了後払います
今日できないと、宿を追い出されるんですとか
いっぱい言われて、払ってくれるなら、まぁいいかなって思った
手書きのメモ、貴重な鉱石だけど
私はちょうど二つ持っていた
だから、一つならいいかなって思った
「これのことですよね?」
と私が出したら、ばしりと手を叩かれて二つとも落とされ
ぐるになった人と、その人にもって行かれて逃げられた
ラムムンもびっくりしすぎて、それに、私を守る方が先になって
二人でびっくりした
だけど、正直、また採取すればいいか、今回は関係ないし
関係ある分じゃなくてよかったねーてギルドの中に入ったら
みんなに取り囲まれた
「詐欺師だ」
ときっぱりと周りの冒険者たちが言う
え、と私は耳を疑った
だけど、ギルドの人も出てきて
「あと一歩でもギルドに入ってたら、止められた」と悔しそうに言われた
だから、今度から声をかけられたら絶対にお話は中でしましょうって
言ってね、と皆さんから念押しされた
私がぽかんとしてて、かつ、失敗したってことはすぐさま理解できて
真っ青になってたから、最初は怒鳴る感じだったのが
どんどん慰めに変わっていった
たしかに、冒険者の風上にもおけない人に『餌付け』してしまった
私は馬鹿で、みんなからしたら腹立つことこの上なしだっただろう
だから、次の日、私は犯罪者リストを見せてもらった
あの人のグループも当然載っていてだから、みんな知ってたんだと
自分の甘さを認識した
あれ以来そんな事件は起こってないけど
治療院でもう少しだけ手伝ってくださいとか言われるのを
断るの苦手だったもんね・・・・
「もう少し落ち着いてからね」
ティエリさんは、そういう
お兄さんみたいにしっかり者になるには何年かかるんだろうか
経験の差なのかな・・・
日本人はお人好しが多いですし、アンちゃんは躾のたまもので優しいんですが、厳しくはないんですよね、つけ込まれないように注意ですよ




