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Fragrance2

作者: 羽崎さやり

「雨がふるよ」


わたしがそう言うと、ある程度親しい人間はみんな、特に聞き返してきたりすることもなく、ただ、黙って傘の用意をするか、屋根の下に入るかする。

たいてい30分以内にはほんとうに雨が降ると、経験で知っているからだ。

猫みたいだね、と言われたこともあるが、わたしは、30分先までなら、雨が降るかどうかがわかる。的中率はほぼ百発百中。

なんでわかるの、と聞かれたこともあるが、これは、親しい人間にしか、ほんとうのところは教えないことにしている。

雨がふるにおいがするから、と正直に答えても、だいたいの人は信じないからだ。


雨がふるにおい。

そのにおいを、口で説明するのは難しい。


だけど、別に特殊なにおい、というわけではないと思う。むしろ、わりと頻繁に嗅ぐ機会はあるのだし、これがそうだと気づかないだけで、きっとみんな、同じにおいは嗅いでいるはずなのだ。

しかし、どんなに言葉を尽くして説明しても、あああのにおいか、と理解できたらしき者はいまだにいないあたり、なんというか、複雑な思いもある。

漁師とか、登山家とか…、わたしのようににおいで察知しているのではないにしろ、天候の変化を(テレビの天気予報よりも正確に、かつ精密に)読むことのできる人種は、ちゃんと存在しているじゃないか。

なのに、なぜわかると聞かれて「経験で」と答えれば納得される彼らに対して、「においがする」と正直に答えても信じてもらえないわたしの立場はいったいなんなのか。


…あれ、雨がふるにおいがする。

今日は布団を干してきたんだ、降られるまえに取り込まなくちゃ。


──いま、そのにおいがしてるの?


うん、かなりはっきり。


──それって、乾いたアスファルトが濡れるときのにおい?


…違う、全然。どちらかといえば、水のにおいが近いかな。……ああ、においが強くなってきた。わたし帰るね、このままだと布団が濡れちゃうし。

じゃあ、またね!




ぱたぱたと、まるでマンガのキャラクターのような足音を鳴らして、彼女は坂の上の自分の家へと帰っていった。

その10分後くらいだったか、ぱらぱらと、雨が落ちはじめる。


「雨がふるにおいがする、ねえ…」


言ってる内容は電波系だが、たしかに、雨を察知できるというのはほんとうなのかもしれない。

やれやれと思いながら、雨をさけるために、彼女と話していた門前を離れ、自宅のなかに戻った。

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