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三千世界の鷲となって  作者:
第1章
9/16

2010/06/24 1:20

◆2010/06/24 1:20



 月と星達。今夜の夜空は満天。きっと天体観測をしたらロマンチックな雰囲気に浸れる。その夜空は裏通りからでもよく見える。廃ビルから見える景色は美しい。


「きれーだな、オイ」


 左腕を庇い、屋上まで登ってきたしゅう。戦闘の最中であったが、思わずこぼれた言葉だった。


【なぁ、お前もそう思わないか?】


 その瞬間、廃れた世界に走る閃光。蒼く、白い稲妻。轟く雷鳴。


【見ツケタ】


 浮く。まさに字のとおり。地上から【堕魂】は浮遊してきた。そしてしゅうの目の前に降り立つ。人の形を成しながら、人外の行い。


【俺が苦労して上ったのにお前は浮遊かよ】

【リンンンンンハァァァァ何処ダアアアア!】


 そして【堕魂】から発生した稲妻が槍の形となる。そして宙からしゅうに向けられ、放たれる。迫りくる雷の槍。しかししゅうは避けるモーションに入らない。ただ、右手を突き出し、呟く。


【幻想操作・(てん)


 呟きと同時に放たれる青白い光。昼間とは対照的な、冷たい光がしゅうの右手から発せられる。屋上に満ちる光。そして音もなく消え去る雷。それは雷がそこにあったかすら危うい消滅だった。


【ヌゥ】


 驚きを隠せない【堕魂】。その隙をつかない程、しゅうは馬鹿ではない。光が消えると共に懐に潜り込み、掌底を放つ。この間、はばたきにも等しい。


【グッ……コノ】

【幻想操作・(しょう)


 刹那の連撃。ハイキック、回し蹴り、裏拳。打撃の嵐は終わらない。反撃などさせない。態勢を整える隙すら与えない。まるで舞うように、まるで踊るように、美しく技が続く。追い詰めるしゅう、追い詰められる【堕魂】。 新緑色に輝く目は【堕魂】を捉え、金色に光り輝く手足はすべてを穿つ。


【カハ……ッオノレ!】


 【堕魂】は浮遊していたはずが、いつの間にか屋上の地によろめいていた。それを待っていたと言わんばかりにしゅうは体をしならせ、とどめの打ち下ろしを放つ。


【幻想操作・(けつ)!】


 周囲に響き渡る轟音。しゅうの打ち下ろしがクリーンヒットする。夕焼けのように燃え上がる光を纏った掌底が地面を這っていた【堕魂】を完璧に捉えていた。

 しゅうが放った掌底の衝撃は腐食した床を陥没させ、【堕魂】を下の階へと突き落とした。錆びているといえ、普通の人間には到底不可能な技である。

 ガラガラと崩壊していく屋上の床。しゅうはそれを肩で息をしながら見ていた。


「はっ、はっ……あー、疲れた」


 新緑色の目がゆっくりと黒色に戻る。そしてしゅうはバタリと仰向けに倒れた。顔には尋常ではないほどの汗をかいている。さらに負傷した左腕から滲む血の量も相当なものである。しかし微塵ほど焦る様子はない。


「【結】まで使ってやっとかよ。いてて……派手にやっちまったなあ。ま、バカに治してもらえばいいか」


 見上げた夜空は相変わらずの満天。黒、白。闇と光。美しいコントラスト。

 あいつ、どんな顔するかな。しゅうは顔を少し曇らせながら一人の少女のことを考えていた。


「とりあえず帰るか……っ!?」


 しゅうは仰向けの状態から瞬時に立ち上がり中腰で構える。殺気で人が殺せるのだろうか。いや、人外の存在ならあるいは可能なのかもしれない。そう思わせるほどの殺気だった。その殺気の出所は言わずもがなである。


【幻想操作・承!】


 もう一度【幻想操作】を発動させたしゅうは、手摺りを乗り越え、屋上から飛び出した。飛び降りるためではない。金色の光が足に宿る。そして別のビルに飛び移るためにしゅうは飛んだ。


【逃ガスモノカァァァァァッ!!】


 轟く雷鳴、唸りを上げる咆哮。そして先ほどより大きな雷の槍が二本、先程のビルを破壊しながら連続でしゅうに向かってくる。

 一本目。空中にも関わらずしゅうは直撃寸前で体をひねり、ギリギリでかわす。それと同時に上手く他のビルの窓ガラスを破り、無事に着地する。そのまま【堕魂】の方を向き、右腕を構えた。


【くっ……幻想操作・転っ!!】


 猛スピードで迫る槍を打ち消す。しかし先程とは異なり、雷の残り粕が星のように暗闇に映える。

突然、ガクリと膝を落とし、咳き込むしゅう。床に広がる血溜まり。口から溢れる鮮血。


【ここで……かよ】


 震える手足。リズムの早い呼吸。大量の吐血。それでもなんとか立ち上がり【堕魂】と対峙する。しかし、あまりにも【堕魂】に時間を与えすぎた。しゅうが飛び移ったビルの前を浮遊し、周りには無数の雷を纏う針があった。


【鈴ヲヨコセェェェェェェ!!!!】


 咆哮と共に識に襲いかかる針達。雷の如く速く、雷の如く強く。


「ごめん」


 ビルが壊れ、崩れる音。それは、絶望の音だった。


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