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三千世界の鷲となって  作者:
第1章
6/16

2010/06/17 14:11

◆2010/06/17 14:11



『皆さんこんにちは、6月17日今日もいいお天気ですね。それではニュースをお伝えします。○○パーキングエリアにて、車が炎上。一人が死亡しました。

その原因はいまだ不明、警察は犠牲者の身元確認を急いでとの事です』


「何がいいお天気だ、早く温かくなんねぇかなぁ」

「何言ってるんすか? 暖房だってつけてますよ?」

「まだまだ足らねぇよぉ。仕方ない、永智えいじ、鍋やるぞ」

「キムチ鍋はだめっすよー。辛い物食べると、僕お腹下しちゃうんで」

「汗をかけば薄着になるんだがなぁ」

「まぁじで!? いやっほーい! 僕キムチ鍋に賛成! 飛鳥あすかはどうするっすか?」

「五月蠅い、馬鹿共」


 時代を感じさせる年代物のテレビからは美人アナウンサーの声が聞こえる。だがその美声は、たかこと一人の男によってものの見事にかき消されている。

 そしてその二人は飛鳥と呼ばれた銀髪の少女によって沈黙する。


「おいおい飛鳥、上司に向かって馬鹿はないんじゃないか?」

「そうっすよ! 仮にもたかこさんは所長っすよ!」

「だれが仮にもじゃゴルアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ひぃぃっ! す、すみません!」

「黙れ、ヘタレ。ニュースが聞こえない」

「ひぃぃっ! す、すみません!」


 永智はたかこと飛鳥によって、小動物のようにプルプルと震えている。見た目は細身のスーツ姿で容姿も良く、赤褐色に染まった短髪のおかげで、魅力的に見える。がしかし、立ち振る舞いのせいか、全くもって男性的魅力が感じられない。


「飛鳥ぁ、どこにでもある、なんてことない日常なんか見てもつまんねぇだろぉ?それより愛しの所長の相手をしろよぉ」


 たかこはそう言うと古びたソファーに座っている飛鳥にガバッと抱きついた。それでも銀色のボブヘアがふわっと揺れただけで、飛鳥は微動だにしない。


「ベタベタ触れるな、気持ち悪い」

「ひひひひ、さてはしゅうが追試でいないから不機嫌だなぁ?」

「別に」

「そう言うなよぉ。ほらAAカップの慎ましい胸が高鳴ってるぜぇ?」

「っ……死ね」


 飛鳥はたかこのことを振り払うと同時に、右ストレートを繰り出す。飛鳥の小さな拳はひゅっという風切音を出しながらたかこに向かっていく。

 しかしたかこは下品に笑いながらもひらりと、華麗な身のこなしでかわした。

いや、かわしたのではなく、いつの間にか、気が付いたら、そこにいなかった。たかこの【目】は新緑色に染まっている。


「……【検閲者(けんえつしゃ)】」

「くひゃひゃひゃ! 飛鳥は可愛いなぁ。お詫びに私の胸、触ってもいいぜぇ?」

「まぁじで!? うひょーい! たかこさーん!」


 さっきまで部屋の隅でイジイジ、ブルブルしていた小動物が急変し、獣と化したかこのもとへと飛んでいった。


「10秒で5万円な」

「生々しい数字がすげーリアルだよ!? えー悩むっすね」

「只今10万円」

「あれ? 僕触ってないっすよ?」

「妄想で触ってるだろ、馬鹿者」

「何ぃー!? じゃあ僕一分後には破産っす!ど うしよう飛鳥!?」

「こっち見るな、多額負債者」


 妄想しなきゃいいのに、というツッコミはしないでおこうと、たかこは含み笑いをしながら小動物になってゆく永智を見ていた。

 たかことは対照的に、やってられないと言わんばかりに飛鳥は、ちっ、と舌打ちをしながら立ち上がった。


「お、どこに行くんだ?」

「【あっち】」

「あー、集会だっけか。どちらの世界も会議とは面倒なものだな」

「永智、お前もだ」

「ひぃ!? 肝臓は勘弁して下さい!! って痛たたたた! 飛鳥! 襟を引っ張らないで!」

「24日には戻る」

「へぇへぇ、いってらっしゃい」

「しゅうに……いや、何でもない」

「ぷっ。了解、了解」

「……死ね」


 窓から洩れる夕焼けと飛鳥の銀髪はとてもよく似合っていた。

 赤色のジャケットにチェック柄のミニスカート。小さい背丈の割には長い足はロングブーツで覆われている。ぱっと見、今時の女の子。

 しかし『棘ノ家』に普通などあるはずもない。飛鳥の目の色が変わると同時に、飛鳥と永智は、いなくなった。そう、【この世界】から消えた。

 この部屋に残されたのは、たかこと二人のちょっとだけの温もり。


「あれ?いつ帰ってくるって言ってたっけ。ま、いいかぁ」


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