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三千世界の鷲となって  作者:
第1章
5/16

2010/06/23 18:07

◆2010/06/23 18:07



「寝た、か。さすがの麒麟島の血も体力的には限界だったな」

「寝顔はかわいいじゃねーか」

「ほら、服を着せるからあっち向いていろ。興味ないくせに女の子の体を見て欲情、もといムラムラした愚弟」

「女が欲情とかムラムラとか言うなっ!そして言いかえる必要なかったよな!?」

「欲情もしくはムラムラした愚弟」

「そこ言い換えちゃった!? しかもどっちでも一緒だよな!?」

「どちらにしても否定しないんだなぁ、しゅう?」

 

 違うっつーの、とひとりごとを言いながら、たかこと鈴から目をそらした。そして言うまでもなく、しゅうは耳まで真っ赤であった。


「で、どうする気だ、しゅう?」

「なにが?」


 しゅうの背後でガサゴソと音が聞こえ始めた。それと同時に少々張り詰めたたかこの声が聞こえた。


「鈴の事だよ。【魂】にスイッチいれやがって」

「仕方ないだろ。今の俺の【幻想操作】程度じゃ完全治癒は無理だったよ。麒麟島の、鈴自身の【力】を借りるしかなかった」

「鈴を【境界者(きょうかいしゃ)】にする気か?」

「それはあいつが決めるさ。このまま普通の【異能者】でいるも、【深淵】に辿り着いた【異能者】となるも、あいつが決めればいい」


 普通の人間からみたらこの会話はクエスチョンマークだらけのものだろう。しかしたかことしゅうの表情はいたって真面目である。むしろ会社の重鎮だらけの会議のように、重苦しい雰囲気が漂っている。


「お前はどっち派だ?」

「さあな。ただ、賢い奴は前者を選ぶに決まってるだろ」

「そうか、ホックを付けたまま脱がせたいタイプか」


 しゅうはうん? と首をかしげた。つい数秒前まで真剣に話していたはずが、いつの間にか女性下着の脱がし方の話題になっており、たかこもいつもの調子になっていた。


「うん、外さないで、っていうのはそそられるよな。て、おいいいいいっ! 早く服を着せろよ!! なんで脱がすんだよ!? 真逆だろ!?」

「ああ、うっかり!!」

「うっかりってレベルじゃないよな!?」

「お前の好みは後者の、靴下から履かせる、だったな」

「そこかよっ! しかも前者と後者、お題が違うだろ! 統一感出せよ!」

「いやぁ、ワリィワリィ。んじゃ統一感出すために全部脱がしとくわ」

「そういう事じゃねえよ!むしろ俺らと統一させたいから服を着せろよ!」

「え? 私、裸なんだが」

「超展開!? なんで脱いでんだよ!! そうしたら俺も脱がなきゃいけないじゃん!」

「うん、まぁ、脱ぎてぇなら止めないけどさ。露出狂は人間としてどうかと思うぜぇ」

「引きやがった!? しかもドン引きじゃねぇかよ!!」


 くひゃひゃひゃと笑いだすたかこ。

 たかこは真面目な話が出来ない性分なのだろう、しゅうは慣れているらしくたかこに調子を合わせた。


「おら、御所望の通り服を着せてやったぜ、マニアック・ザ・愚弟」

「服を着せるのは普通のことだ。んじゃ後は頼んだぜ」


 しゅうはそう言い、六月には不似合いな黒色のコートを羽織り始めた。黒のロングコートはすっぽりとしゅうを包み込む。その姿はまるで死神のような姿であった。


「行くか?」

「ああ。鈴が麒麟島のお屋敷に居ないんだから、今頃何所かを彷徨っているだろ。今日中には決着をつける」

「鈴の依頼内容を聞いてないのに?」

「人命には変えられないだろ?依頼はそれからだ。つーかバカと社会不適合者はいつ帰ってくるんだよ。戦闘要員はあいつらだろ」

「知らねぇなぁ。私は何も聞いてねぇぞ?」 

「俺は非戦闘要員なのに何でこんなことを」


 全く、としゅうはぼやきながらコートのフードをかぶった。そしてブーツに履きかえ、トントンと軽く跳ねた。まさに臨戦状態というにふさわしい。


「ま、死なない程度に頑張ってくるわ」

「死んだら骨も拾ってやらん」

「冷たいじゃないか」

「愚弟が。死んだら殺してやるからな」

「怖い姉だな。さっさと帰ってくるから、そいつと待っててくれ」


 そう言うとしゅうは重い扉を開け、外へと向かっていった。カツーン、カツーンと階段に響く足音。たかこはその音を聞きながら呟いた。


「待っててくれ、か。言うようになったじゃねぇか愚弟が」


 もう日は沈み始めている。町は行きかう人々でにぎわっている。それでも、影が、闇が世界を覆い始めた。


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