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三千世界の鷲となって  作者:
第1章
3/16

2010/06/23 14:32

◆2010/06/23 14:32



 しゅうはそつなくお茶を注ぎながら、少女を横目に写す。さらさらと綺麗になびく黒髪、気品が伺える整った顔。いいとこの出なんだろうな。しゅうは彼女の風貌からそのような結論に至った。


「お茶をどうぞ。僕は受付の近衛しゅうと申します」

「私は公式魂問題対策室『棘ノ(いばらのいえ)』所長の落空たかこです」


 営業スマイルで対応する二人。しかし笑っているのは表面上だけである。

 体の至る所にまかれた包帯。細く華奢な手足のほとんどが、包帯で覆われていた。見た目で分かる、事の重大さ。しかし焦りは禁物と思い、しゅうは笑顔を絶やさずに質問を始めた。


「お名前は?」

「りん。すずって書いて鈴」

「可愛らしいお名前で。苗字は?」

「……そんなの別にいいでしょ?」

「お年はいくつですか? 見たところ高校生の様ですが」

「……」

「おっと、女性に年齢を聞くのは失礼でしたね。どこで『棘ノ家』をご存じに?」

「そんな事よりも本題に入りたいんだけど、受付さん?」

「……それは失礼いたしました」


 くっくっく、と笑うたかこ。しゅうは鈴に見えないように舌打ちをした。可愛くない女だ、とぼそっと呟く。


「それでは鈴様、本題に入らせていただきます」

「鈴でいいよ、所長さん。私がクライエントなわけだし。あなた達のやりやすいように」

「そうか。じゃあお言葉に甘える。鈴、今すぐ……」

「アンタには名前で呼んでいいなんて言っていないわ、受付さん」

「なっ!」

「アンタ、人を値踏みするように見たでしょ? そういうのすぐ分かる」

「この……俺はお前を……」

「それに笑顔も下手くそ。嘘も下手くそ。嘘つかれるのが、一番腹が立つ」

「ぷっくっくっく……」


 しゅうと鈴の間には目に見えそうな火花が散っている。たかこはもはや笑いを隠そうとせず、思わず噴き出している。どうも二人は火に油の様だ。

 

「あのな、正直俺はお前にはなんの興味ないんだよ! 興味あるのは報酬と正当な評価だ! それを俺は曲げてお前を心配してんのに……」

「何? 同情? 押しつけがましい」

「どんだけ捻くれてんだ、お前は!」

「アンタの笑顔よりはマシよ」

「そこまで言うか!? さすがに傷つくぞ!?」

「アンタの笑顔と比べられる私のほうが傷物よ」

「傷物って言うな! 俺がやらかしたみたいじゃねえか!」

「きたない、モザイクかけたい、いやらしい。略してキモい」

「え?マジで? あ、ホントだ、キモイだ。って違うわっ!」

「はいはい、しゅう、そこまでだ」


 永遠と続きそうな漫才、もとい罵り合いにたかこが終止符をうつ。それと同時に笑いながらも真剣な眼差しで鈴を見つめるたかこ。しゅうもやれやれ、と頭を掻きながら、鈴を見る。

 鈴を見るという表現は間違っている。二人が見ているのは鈴の体に巻いてある包帯の内側だった。見るという表現さえも間違えだ。感じているといったほうが正しい。


「え?」


 二人と目があった瞬間、鈴が驚嘆の声をあげた。目。目の色が日本人特有の黒から淡い緑に変わっていた。鈴は寒気を感じた。

 目の特異さにもそうだが、それ以上に全てを見透かされているような感覚に陥っていることに、恐怖を感じていた。外見に留まらず、見えるはずのない隠された感情、言葉、想い。それら全てがさらけ出されているかのように。


「怯えるなよ、鈴」

「どこまで分かる、しゅう?」

「降参。【閲覧者(えつらんしゃ)】には敵わないって」

「脚と顔は一昨日、手は昨日ってとこだな」

「なんで、分かったの?」

「正解、か。なら勝負は明日までだな」

「さすが私。しゅうよ、姉ちゃんの凄さが分かっただろぉ?」

「バカは置いといて、次は俺の番だな」


 しゅうは先ほどまでの面倒くさそうな顔ではなく、年不相応、少年らしからぬ表情で鈴にせまる。そして特異なる目で呆然としている鈴を見つめ、こう告げた。


「脱げ」


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