体育祭の奇跡
こんにちは。『真面目こそがかっこいい』をモットーの1つにしているTartleです。
「小説家になろう!」に来て以来2つ目の「ファンタスティックラブコメディー」です。
しかし、この作品を作るに当たってRYTHEMさんの「WINNER」をアレしてしまった事に対して、まず深くお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした!!(謝)
この物語はフィクションで、人物などなどはだいたい架空のものですが…
この物語をただの作り話ととるか、実際に起きた奇跡ととるかは、あなた次第です。
これからも温かい目で見守ってくだされば幸いです。
真の勝利者とは、最後の一分一秒まで絶対にあきらめない人
by池田大作
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突然だが、ぼくこと金田一惇(13)は、運動オンチだ。
運動オンチは辛い。
スポーツマンばかりが人気者になって、ぼくみたいなヘタレなんてみんな眼中に無いんだ。
だから、この馬河中学名物の体育祭も、憂鬱でしかない。
なぜ名物かというと、ある伝説が昔から実しやかに囁かれているからだとか。
『体育祭で奮戦した生徒には、その日のうちに奇跡が起こる』という。
でも、ぼくにそんな事は1度も起こらなかった。
この体育祭では、全生徒が必ず1つ以上の種目に参加しなきゃいけない。ぼくの場合は50m徒競走だ。
どうせビリになるんだから、できればズル休みしたかった。だけどそうもいかない。
河嶋海花さんにいい所を見せたいから。
いや、やっぱり休んだ方が良かったかも。失敗したらカッコ悪すぎるから。
そんな風に1人悩むぼく。しかし、他のみんなはそんな事気にせずに、どんどん競技を進めている。
50m走7列目の招集がかかった。相変わらず重い足を引き摺って、ようやくスタートラインに立つ。7列目の生徒は、ぼくを含めて5人。あまり足は速くない面々だったが、勝てる自信が無い。
もうダメだ。そう思いかけたその時だった。
「頑張って!」
確かに聞こえた。河嶋さんの声援が。
そして聞こえた、スターティングピストルの音。
ぼくは走った。
無我夢中で走った。
不思議なくらいに、力が湧いてくる。『火事場の馬鹿力』って言うんだっけ?
まぁ、ともかくだ。
ぼくは今、他の4人を追い抜いて走っている。
今なら、今なら勝てる。
ゴールテープは、すぐそこだ。
今日こそは…今日こそは勝つ!
だが、そう簡単に思い通りにはならなかった。
足が絡まった。前のめりになった。そして…
凄まじく転んだ。ギャグ漫画みたいに。ゴール目前で。
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ぼくこと金田一惇は、観戦席から遠く離れた物陰で蹲っていた。
あの後、ぼくが転んだから7列目の1位から4位は他の4人のものに。ぼくは結局ビリ。
転んだ時に膝を擦り剥いたから、かなり痛い。
でも、体のダメージよりも心のダメージの方が大きい。
今ぼくの心では、恥ずかしさと悔しさと悲しさが入り乱れていた。
願わくば、このまま家に帰って布団に入って不貞寝していたい。
「金田一くん…大丈夫…?」
この声、河嶋さんだ。何でぼくなんかのために…
「…あんまり…」
というか、しまった。涙声のままだ。さらにカッコ悪いじゃないか。
「やっぱり…緊張しちゃってた…のかな…?」
「…うん…」
そりゃそうだ。好きな人に見られてたら誰だって…
遠くから、和太鼓の音と歓声が轟いてきている。確か騎馬戦だったような。
「でもさ、あんなに練習してたよね? 一生懸命」
そう。ぼくはこの日のために走る練習を繰り返していた。生傷は絶えなかったけれど。
…っていうか、アレ?
練習は1人でしてたはずなんだけど。思わず、顔を上げた。
「河嶋さん…?何で練習の事、知ってるの…?」
遠くからは、まだ歓声が聞こえてくる。BGMでなぜか、タッキー&翼の「SAMURAI」が流れている。選んだ人は、いったいどういうセンスなんだ。
「ずっと…見てたから…。金田一くんの事…」
どうしてか、頬を染めながら言う河嶋さん。
「えっ…それって…」
いや、まさか。
「…でも…ほら、ぼくよりスゴイ奴なんてたくさんいるじゃん。田中くんとか、友永くんとか、運動できる奴だってたくさん…」
と、その言葉を遮るように、ぼくは口を塞がれた。唇で。
信じられない。あの河嶋さんが、真面目な優等生の河嶋さんが、ぼくがずっと密かに片想いしていた河嶋さんが、自分からキスしてきている。
「わたしは、一生懸命頑張ってる金田一くんが好きなの。『勝ち負けよりも大切な事がある』って教えてくれたから…」
河嶋さんは唇を離して、そう言った。
放送が、次の種目が始まる事を告げている。BGMでなぜか、SMAPの「そっと きゅっと」が流れている。というか、もはや運動会に関係無くないか? 本当にどういうセンスなんだ。
「…ごめんね、一方的で。『からかってる』って思ったんでしょ。…だから、今のは忘れて…」
沈黙を破って話し始めた河嶋さんだけど、なぜか謝って帰ろうとしてる。
考えるより先に、体が動いた。そして、河嶋さんを抱き留めていた。2人の汗のにおいが混ざっている。
「ぼくも、河嶋さんが好きだよ。だから…『好き』って言ってくれて、すごく嬉しい」
抱きしめていた腕を放すと、河嶋さんは振り返って言った。
「ありがとう…」
ぼくの心からはもう、悲しさも憂鬱も消え去っていた。『勝ち負けよりも大切な事』――『負けない心』や『逃げない心』の存在に、自分でもようやく気付けた。
ぼくは気付いた。
これが、これこそが、伝説にあった『奇跡』なんだ、と。
―完―
本編はいかがでしたか?
ちなみに、主題歌はRYTHEMの「WINNER」ですが、訳あって歌詞は載せない事にしました。
すみませんでした。