怪奇病
前に書いたものの再掲です
読んだことある方はお久しぶりです
「続々現る新たな病気たち」
「始めはただの怠惰かと思われていた脱力性無気力症候群から水溶性皮膚炎、涙腺未発達障害、果ては口蓋壊死病まで。彼の国と国交を結んで以来、我が国では摩訶不思議な病が各所で見られています。
国を激震させた花型寄生種による寄生病の発見は皆さんにとっても記憶に新しいことでしょう。この件でついに彼の国がこれまでの病を持ち込んでいたことが証明されました。そのため国は二十七日、彼の国との断交を宣言しました。これにより貿易とともに彼の国に行くことも禁止されたため、もし見つかれば警吏で罰を受けることとなります。また、来月より彼の国の人間は殺戮対象となりますので見つけた場合は警吏に連絡してください。もし匿ったり庇ったりした場合はその者も共に処分されます。
彼の国の狙いについて専門家の ✕ 浩宇氏に聞きました。✕氏は弱らせ土地を奪うために病を蔓延させたのではと言います。彼の国は砂漠が国土面積の半分ほどに渡り広がっているため、豊穣肥沃の大地で有名な我が国を植民しようとしているのです。
✕氏はさらに、これから戦争になると明言しました。断交したとはいえ病という布石が既に成功している今、侵攻して来ないはずがないと言います」
そこでとうとう読む気が失せて新聞を机に置いた。この国の未来はどうなるのだろうか。ため息が漏れた。
「怡君が死んだよ」
もはや驚きもない。それほどまでに人が死にすぎた。
「悪いが悲しんでいる暇はない。人が減りすぎてどこもかしこも手一杯だ。ウチだけで今回の受注品を作り終えなきゃなんない」
そうだ。もといた人数で丁度いい受注量にしていたから現状かなりまずい。相手方も事情を理解してくれるとは思うが、なくてはならないものだろう。どうにか仕上げろと言ってくるに違いない。
怡君さんと仲が良かった人たちが顔を覆って動けずにいる中、数人が仕事を始めるために動き出す。
「志明! お前は今日市に行ってくれ。足りないものが出てきてるだろ?」
「わかりました」
上司から買うものや個数が書かれたリストとお金をもらう。
市はだいぶ閑散としていた。いつもより売り手も買い手も少ない。暗い情勢の中生き残るために必死に買ってもらおうと売り手の誰も彼もが声を張っている。いつも買っているところの顔なじみたちはどれぐらい残っているだろうか。
一つ二つと買い物を終えていく。リストも終盤に差し掛かりあといくつかというところ。
しかしいないところを見ると彼らは死んだのだろう。どこで買って行こうか。頭の中でこのあたりの地図を思い浮かべる。
「ねえ、なにか困りごと?」
誰かの明るい声を久しぶりに聞いた気がする。声の方に振り向くと綺麗な女の人がいた。
「あたし暇なんだ。なんか困ってることあるなら手伝ってあげるよ」
急な申し出に戸惑う。怪しい勧誘、には見えないが……。
「この辺に、詳しいんですか」
「うん。生まれてからずっとここに住んでるからね。ここら辺のことはだいたいわかるよ」
いつも決まったところでしか買っていないから助かるのが本音だ。
迷った末に、頼ることにした。
不思議な出会いを果たした彼女との縁はそれからも続いた。よく笑ってよく話す彼女といると今の情勢を忘れそうになった。彼女は自分自身のことをたくさん話してくれて、それを聞くのが楽しかった。
数か月そうして、そうしてる間にもまたたくさんの人が死んだ。戦争もやっぱり始まった。国境沿いで防戦が行われていて、軍の人が頑張っている。徴兵された若い人たちもたくさん死んだ。きっともうすぐ今の徴兵対象の人たちじゃ足りなくなる。自分にももうすぐ招集状が来るかもしれないとどこか他人事のように考えて過ごす日々だ。
鬱々とした中でやはり彼女の明るさは異常だったけど、その眩しさに救われている自分もいた。
夜、帰宅してご飯もお風呂も済ませ、ゆっくりしていると扉を叩く音がした。彼女だろうか。いつも彼女は急にやってくる。
「元気?」
彼女はいつものように笑って言った。
少し寒そうに肌をさする彼女に温かいお茶を出してソファに対面で座る。彼女はふーと息を吹きかけて冷ましたあと数口飲み、ほっと息を吐いた。
それから彼女にしては珍しく、暫くの間口を開かなかった。というより、開けないようだった。なにを言うか、迷っているような、そんな、そんな気がした。
一度目を強く長く瞑ったあと、彼女は立ち上がって言った。
「ねえ。あたし可愛い?」
急な問いかけに目を見張る。彼女はいつもの強い意志の籠もった瞳をしていた。
戸惑いながらも頷く。彼女は嬉しそうに笑った。
「ねえ、あたしのこと好き?」
再び頷く。彼女はまた嬉しそうに笑った。
「あたしも好き。知ってる? 耳が少し尖ってて福耳の人は他の人よりすごい抗体が強くてね、病にならないんだって。あの国の友達がいなくなる前に教えてくれたんだ」
そう話す彼女の耳は丸くて、イヤリングが揺れていた。
「よかったね、君はこれから先も生きてるってことだ」
「ねえ。お願いがあるの」
「あたしを知ってる人はもういなくてさ、すごく寂しくて悲しかった。みんなみんな死んじゃったんだ」
「あたしも死ぬってなったとき、あたしを覚えている人がいなかったらあたしが生きてたことがなくなるみたいで、最初は誰でもよかったんだけど、今は君がいいや」
「お願い、あたしを覚えていて」
そう、少し震えた言葉を言い終えると同時に、彼女は、花になった。
一瞬で体から蔦が出て、体がなくなって、蕾ができて蔦もなくなって、花開いて。花すらも散って花びらが舞っていった。彼女に似た綺麗な花だった。
『花型寄生種』
『寄生病』
脳裏に昔見た字面が浮かんだ。
まだ日も昇りきらぬ中、入隊希望の手紙を投函してきた。
彼女が望まないとわかっていても、気持ちのやり場がそこしかなかった。ただただあの国が憎かった。
11月8日の文学フリマに出ます
金石っていうサークルです
よろしくお願いします




