光さす道を
その日は本当に、世界からすればほとんどの人には何でもない、いつもと変わらないような……天気のいい初夏の日でした。
耐えられないほどでは無いものの日差しは暑かったはずなのに、不思議とそこはあんまり覚えていないのです。
ただただ、繋いだ手が熱くて。
お互い手汗でびしょびしょだったのだろうけれど、気になるのは自分の手汗ばかりで。
でも手汗をかいてても暑くても、離すという選択肢は浮かびもしませんでした。
本当は歩くのが早いはずの貴方は疲れた私を気遣って、多分いつもの何倍も、歩幅を小さくしてゆっくり歩いてくれました。
右を向くだけで貴方と視線が合って。それだけのことなのに、貴方はまるで溶けたみたいに笑って俯いてくれるのです。
やわらかい目尻が、シワを纏ってへにゃりと落ちて。
お喋り一つで緊張しちゃうから、声は照れくさそうに小さくて。
とっても聞き取りにくかったのに、私は一音も聞き逃したくなくて。耳を澄ませていました。
多分、何度も何度も、同じ話題を繰り返したと思います。二人ともあまりに緊張してて、普段の半分くらいしか頭も働いていませんでした。
でも内容なんてどうでもよくて。貴方が貴方らしい言葉を、優しい声に乗せて私のために話してくれる……たったそれだけで、この上なく嬉しかったのです。
川の横の細い道は、観光地とは思えないほど綺麗にされていなくて。
アスファルトの上に土がかかった道を、靴底でシャリシャリと音を立てて歩きました。
左手側に見える川には水が少なくて、草が生い茂っていました。
そして右手側…貴方越しに見える木々も、自由に大きく伸びていました。
夏が近い青い空から、まだ強すぎない光が降り注いで。
ありきたりな田舎道でした。
それなのに、世界一美しく見えました。
この後の用事だってとっても楽しみなのに。
夜だって一緒に居られるのに。
それなのに何故か、このまま時間が止まればいいのになんて。そんなことを考えました。
普通の日。普通の時間。普通の道。なのに
私は今、世界一幸せな人間だと……誇張も何も無く本気で、そう思ったのでした。
一生に一度で十分過ぎるほど、身を焦がした本気の恋でした。




