第28話 彼女の視線 第2話 “彼女”が動いた理由
前回のお話、お読みいただきありがとうございます。まだまだ、話は展開していきます。
それから一週間後、純の元に一通のメールが届いた。
株式会社 文芸社 編集部 小野寺とある。
「このたびは、あなたの同人誌を拝見し、感動いたしました。ぜひ、一度お会いしてお話しさせていただけませんか」
純は、沙織に相談した。沙織は、少し迷った後で言った。
「行ってみたら? 私も一緒に行くよ」
待ち合わせは、新宿の出版社ビル。応接室に通されると、小野寺という四十代後半の女性編集者が待っていた。眼鏡の奥の目が、穏やかだが、どこか鋭い。机の上には、同人誌と一緒に、何冊かの文庫本が積まれていた。
「お会いできて光栄です。『観察』の同人誌、本当に素晴らしかった。特に、文章の持つリアリティ。あなたは、人の心の奥底を覗くのが上手い」
純は、照れくさそうにうつむいた。
「ありがとうございます。でも、私が見てきたものを、ただ書き留めただけです」
小野寺は、じっと純を見つめた。その視線に、値踏みするような冷たさが一瞬走る。
「その『見てきたもの』について、もっと深く聞かせてくれませんか。あなたの頭の中にある『物語』を、ぜひ書いてみてほしい」
純の心臓が、大きく跳ねた。
「物語……ですか?」
「ええ。エッセイもいいけれど、あなたには小説の才能がある気がする。観察者として見てきた人間関係には、小説になるような深みがある。そう感じたんです」
純は、沙織と顔を見合わせた。
その時、頭の中に、ある光景が浮かんだ。
あのカフェ。窓際の席。コーヒーを飲みながら、何かをノートに書いていた拓の背中。
「俺、最近、自分の中にあるものを形にしたくて」
あの言葉が、蘇る。
「……考えさせてください」
純は、そう言うのが精一杯だった。
――その日、観察者は初めて「書く側」に立とうとしていた。
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