第27話 彼女の視線 第1話 “一晩で世界が変わった”
前回のお話、お読みいただきありがとうございます。まだまだ、話は展開していきます。
バズ
あの海から、二年が経った。
純は、沙織と一緒に作った同人誌を、いつものように自分のSNSに投稿した。テーマは「観察」。駅前で見かけた親子、深夜のコンビニで煙草を吸うサラリーマン、公園のベンチで泣いていた女性。沙織の描く繊細なイラストと、純の短文がセットになった、ささやかな作品集だった。
翌朝、目が覚めると、スマホの通知が止まらない。
「え……?」
通知欄は赤い数字で埋め尽くされていた。いいねが八千。リツイートが三千。メンションが五百以上。気づけば、Xのトレンドにも「観察同人誌」というワードが浮かんでいた。
純は、混乱したままスクロールする。あるインフルエンサーが、この同人誌を紹介していた。「今年読んだ中で一番刺さった。特に『ベンチの女』のイラストと文章のシンクロが凄い」
そこから火がついた。さらに別のアカウントが拡散し、話題の同人誌としてまとめサイトにも載った。
コメントを読む。
「この文章、すごく生々しい。書いた人、よほど人間観察してるんだね」
「絵と文章のバランスが完璧。泣けた」
「続きが読みたい。これ、商業誌で連載しないの?」
「作者、絶対に何かやらかした経験者だわ。このリアリティは嘘じゃない」
純は、ベッドに座ったまま、しばらく動けなかった。
沙織に電話する。沙織も同じように、スマホが止まらないと言う。
「純ちゃん、これ……すごいことになってるよ。会社の同僚からLINEが来たの。『これあなたじゃない? 絵の雰囲気が似てるよね』って」
「え? 沙織の会社で?」
「うん。私、自分のアカウントで投稿したの、バレてないよね?」
純は、背筋が冷たくなるのを感じた。
「……大丈夫、だと思う。でも」
「でも?」
「いや、なんでもない」
沙織の会社で話題になっているということは、いつか、拓の会社でも――
その予感が、頭をよぎった。
画面の向こうの歓声は、すべて私の知らない誰かのものだった。
そして、その熱狂は、思ってもみなかった方向から、静かに牙をむこうとしていた。
※本作品は、全シリーズ完結済み。
1. 彼女の計画 起
2. 彼女の背中 承
3. 彼女の視線 承 ←今ここ
4. 彼女の選択 転
5. 彼女の傍観者 ―観測する者たち― 転
6. 彼女の傍観者 ―もう一つの視線― 結
7. 彼女の継承者 余
8.彼女の読者 完
9.彼女の沈黙 贈
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
本作品は「小説家になろう」と「カクヨム」に同時掲載しています。
どちらのサイトからお読み頂いても、同じ内容です。
ご感想、評価などいただけますと励みになります。




