第25話 彼女の背中 第9話 “ここから先”はもう戻れない
前回のお話、お読みいただきありがとうございます。まだまだ、話は展開していきます。
数週間後、純は駅前のカフェ「あおい」にいた。沙織と待ち合わせをしている。
ふと、窓際の席に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
拓だった。一人でコーヒーを飲みながら、何かをノートに書いている。
純は、少し迷った。でも、声をかけることにした。
「拓さん」
拓が振り返る。驚いた顔をした。
「純……久しぶり」
「何を書いてるんですか?」
拓は、少し照れくさそうにノートを見せた。そこには、短い文章が綴られていた。
「最近、書き始めたんだ。自分の中にあるものを、形にしたくて」
純は、その文章を読んだ。それは、ある男性の視点から見た、海辺の夕日の風景だった。でも、その中に、一行だけ、不意に現れる一文があった。
「あの日、誰かが見ていたかもしれない。でも、もう気にしない」
純は、その一文に、はっとした。
「……これ、もしかして」
拓は、少し照れたように笑った。
「あの頃のことを、書かずにはいられなかった。全部消すことはできないから」
純は、微笑んだ。
「懐かしいですね」
「ああ」
「でも、今は、見られることを怖がってないみたいですね」
拓は、少し考えてから頷いた。
「そうかもな」
純は、バッグから小さな本を取り出した。
「私も、作ったんです。友達と一緒に。彼女のイラストが、私の言葉を形にしてくれた」
拓は、その本を手に取り、ゆっくりとページをめくった。
「……これ、全部、お前が書いたのか?」
「エッセイの部分は、私が。イラストは友達が描きました。ここで、待ち合わせしてるんです」
拓は、しばらく黙って読んでいた。そして、顔を上げた。
「すごいな。ちゃんと前に進んでるんだな」
純は、少し照れた。
「拓さんも、進んでるじゃないですか」
その時、店の扉が開いて、沙織が入ってきた。純は手を振る。
「私の友達です。紹介しますね」
拓は、立ち上がった。
「また、今度な」
「はい。また」
純は、拓の背中を見送った。
その背中は、以前より少し、軽く見えた。
でも、ふと思った。あの背中を、これからもどこかで見続けるのだろうな、と。それは、もう「監視」じゃない。ただ、気にかけること。
沙織が隣に来て、言った。
「いい人みたいだね」
「昔の上司で、今は……」
純は微笑んで、沙織と向かい合った。
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