第17話 彼女の背中 第1話 “あの一枚”がすべてを変える
前回のお話、お読みいただきありがとうございます。
第17話です。
一年後
あの海から、一年が経った。
拓と瞳の関係は、順調だった。職場では今も「同僚」のふりを続けているが、週末はほぼ一緒に過ごしている。瞳のアパートに、拓の歯ブラシが増えた。拓の部屋に、瞳の服が何着か置いてある。
でも、何かが違う。
時々、夜中に目が覚めて、無意識にスマホを手に取ることがある。裏アカのアプリを開き、かつて投稿したパンストの写真を眺めるだけ。性的な衝動が薄れたわけじゃない。でも、今はそれだけじゃない。これは、あの頃の自分を忘れないための、自分だけの記録だ。
削除しようと思ったことは何度もある。指が『アカウント削除』ボタンの上で止まる。でも、押せない。押したら、あの頃の自分が完全に消えてしまいそうで怖い。まだ、あの頃の自分と、今の自分の繋がり方を、見つけられていないから。瞳には言えない。言ったら、彼女は「消して」と言うだろう。そして、もし言われたら、俺は消さなければならない。それが、この関係を続けるための条件だと、分かっているから。
「でも、瞳にはまだ言えない」
だから、隠す。優しい嘘で、関係を守る。それが大人の恋愛だと言い聞かせながら。
瞳の寝顔を見る。穏やかだ。でも、最近、ほんの一瞬だけ、彼女の視線に冷たさを感じることがある。気のせいかもしれない。でも――
「考えすぎだ」
そう思って、目を閉じる。
目を閉じても、まぶたの裏にあのアカウントが浮かぶ。フォロワーゼロ。静かに眠る、自分の分身。
窓の外で、雨が降り始めていた。
引っ越しから一週間後、瞳のスマホに見知らぬ番号からのメールが届いた。
件名:話をしよう
「君が選んだのは、本当にあの男なのか」
「後悔する前に戻れる。今ならまだ」
康介からだった。優しさに擬態した、最後の抵抗。
瞳は、返信しなかった。でも、そのメールは削除もできなかった。
スクリーンショットだけを撮り、隠しフォルダにしまう。
いつか、これも証拠になる日が来るかもしれない。
でも、その「いつか」が、想像よりもずっと早く訪れることを、瞳はまだ知らない。
※本作品は、全シリーズ完結済み。
1. 彼女の計画 起
2. 彼女の背中 承 ←今ここ
3. 彼女の視線 承
4. 彼女の選択 転
5. 彼女の傍観者 ―観測する者たち― 転
6. 彼女の傍観者 ―もう一つの視線― 結
7. 彼女の継承者 余
8.彼女の読者 完
9.彼女の沈黙 贈
お読みいただきありがとうございます。
まだまだ話は続きます。七部作完結済み。
1. 彼女の計画 第16話エピローグ
2. 彼女の背中
3. 彼女の視線
4. 彼女の選択
5. 彼女の傍観者 ―観測する者たち―
6. 彼女の傍観者 ―もう一つの視線―
7. 彼女の継承者
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