表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】彼女の計画 ―職場の上司の裏アカを知った日から、私は不倫する上司と人妻を観察することにした―  作者: Taku


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/28

第10話 彼女の計画 彼女が隠していた“もう一つの顔”

前回のお話、お読みいただきありがとうございます。

明後日。午後7時。駅前のカフェ「あおい」。



店の扉を開けると、ベルがかすかに鳴る。コーヒーの香りと、静かなジャズが流れる店内。客はまばらだ。窓際の老夫婦、奥の席で本を読む男、それに――



隅の席に、見覚えのある後ろ姿があった。



黒い髪。華奢な肩。手にしたスマホを弄る仕草。何度も見た、あの姿。



拓は、ゆっくりと近づいた。距離が縮まるにつれ、鼓動が早くなる。床を踏む足音が、やけに大きく聞こえる。



その人物が、顔を上げた。



「……純」



純は、微笑んだ。いつもの、あの、少し影のある笑顔で。カフェで仕事の相談をした時と同じ、変わらない笑顔。でも、その目が一瞬だけ、何かを計るように細められた気がした。



「こんばんは、拓さん」



拓は、向かいの席に座った。頭の中が混乱している。純が、新規アカウントの主? あの不気味な、何もないアカウントの?



「……あのアカウントの?」



「そうです」



「なぜ、こんなことを?」



純は、しばらく拓を見つめていた。その目は、まっすぐで、澄んでいた。でも、その澄み切った水面の下に、何かが潜んでいる気がする。



「直接聞きたかったことがあったからです。メールじゃなくて、ちゃんと顔を見て話したかった」



「何を?」



「瞳さんのことです」



拓の体が、一瞬で固まった。



「……ん、何を?」



「瞳さんと、続いているんですよね?」



拓は答えなかった。コーヒーカップの中で、かき混ぜるスプーンだけが小さな音を立てる。そのリズムが、やけにゆっくりに聞こえた。



純は微笑んだ。あの日、カフェで初めて裏アカウントを見せた時と同じ、影のある笑顔。でも、その目は少しも笑っていなかった。



「当たっているかどうかは、拓さんが決めればいいんです」



「私は、観察者ですから。当たっていようがいまいが、それを見ているのが私の役目」



拓は、ようやく口を開いた。喉の奥が、からからに乾いていた。



「……何を知りたい?」



純は、窓の外に目をやった。夕日が、彼女の横顔をオレンジに染める。その横顔は、ひどく静かで、それでいて何かを企んでいるようにも見えた。



「知りたいんじゃないです。ただ、見ていたいだけ」



「それが、私の存在証明なので」



その言葉に、拓は何かを思い出しかけた。さっきまで頭の中にあったはずの、大切な何か。でも、それが何かは分からなくなっていた。



沈黙が、二人の間に流れた。



コーヒーの湯気が、窓ガラスに曇りを作る。外では、ネオンが静かにまたたいている。



やがて、純が再び口を開いた。



「でも、一つだけ、本当のことを教えてください」



「……何?」



「あなたは、幸せですか?」



拓は、その質問に、しばらく考え込んだ。幸せ。その言葉の意味を、久しく考えていなかった。



「……分からない。でも、瞳といる時は、そう思える瞬間がある」



「それで十分じゃないですか」



純は、また微笑んだ。今度は、さっきまでと違う、もっと柔らかい笑顔だった。でも、その笑顔の奥に、ほんのわずかな翳りがあることに、拓は気づかなかった。



「私、応援しますよ。お二人のこと」



純は、また微笑んだ。今度は、さっきまでと違う、もっと柔らかい笑顔だった。



純は、心の中で呟いた。



「でも、私の物語は、まだ終わらない」



拓が、ようやく笑った。



「……ありがとう」



窓の外では、ネオンが静かにまたたいていた。



その夜、家に帰った純は、日記を開いた。



「今日、彼に会った。彼は、私のことが分からなかった。本当の私を、彼はまだ見ていない。でも、いつか見る時が来る。その時、彼はどう思うだろう。私を許すだろうか。それとも、憎むだろうか。」



「でも、それでいい。ただ、彼の中で生き続けられれば、それでいい。彼の言葉の中で、永遠になりたい。その願いが、私を突き動かす。」



「私は、この日記をいつか彼に読ませるだろうか。それとも、このまま誰にも知られずに終わるだろうか。」



「分からない。でも、書かずにいられない。それが、私の業だから。」



ペンが止まる。



「彼女の計画」は、まだ終わっていない。彼女自身も、気づかないうちに、新たな計画が動き出していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。 

本作品は「小説家になろう」と「カクヨム」に同時掲載しています。

どちらのサイトからお読み頂いても、同じ内容です。

ご感想、評価などいただけますと励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ