06 直(なほ)
直。
この娘は、この大坂の役のあとも生き抜き、御田と名乗り、のちに出羽亀田藩藩主・岩城宣隆の側室となり、そして継室となるという、数奇な運命をたどることになる。
しかし何よりもこの少女の奇なる運命は、やはりその生まれであろう。
父が真田信繁であり、母が隆清院という生まれが。
「……ええい、だから何じゃ! そこな娘が秀頼の娘に似ているとして! 一体、何に……」
「お忘れですか、茶々さま」
治長の落ち着き払った声が、むしろかえって苛立たせられる。
茶々は目を剥いて、頭に爪を立てて髪を掻き毟り、だから何じゃだから何じゃと連呼し、吠えた。
「お忘れですか、茶々さま……信繁さまは豊臣家御一門、ということを」
茶々の動きが、止まった。
それは愛人である治長の声だからではなく、その言葉の意味によるものだと思われた。
「……御一門、とな」
「はい」
信繁は慇懃に一礼し、そしておのが側室の隆清院が、豊臣家に連なる者であることを告げた。
「そなたの……その、側室が豊臣の家の者? 一体、誰じゃ? どこぞの年頃の姫を、太閤殿下の養女にでも、したのかえ?」
「…………」
信繁は敢えて沈黙し、秀頼を、千姫を、そして奈阿を見て……最後に、隣の直を見た。
「答えよ。そなたの側室は、誰じゃ? そうか、もしかして奈阿の母の成田の家の……」
「関白さまの子です」
信繁は断ち切るように、ひとことで答えた。
それはたったひとことだが、だが徐々に徐々に、聞く者の耳に、心に、その意味するものが浸透していった。
その浸透の様を、治長はまるで物見のように冷静に見つめていた。
「……な」
最初に声を上げたのは、やはり茶々だった。
さすが、戦国最大の覇王・織田信長の係累。
信繁は素直に感歎した。
「何じゃと……それでは、まさか……奈阿とそこな直が似ているのは……」
「さようです、茶々さま」
信繁は直を抱き寄せながら答えた。
「直の母は……関白さま、つまり豊臣秀次さまの娘です」
その言葉から導かれる解答は――
豊臣秀次の孫である直、その少女と似ている娘がいるというのなら、その娘は豊臣秀次の係累であろうということ。
だが奈阿姫は、母は成田氏といい、豊臣秀次とは縁もゆかりもない家系である。
秀次のお手つきの娘かもしれないが、それはない。
そこは――それこそ、茶々が治長に命じて、徹底的に成田氏の出自を調べさせた上で、秀頼の側室としたのだから。
「……で、あるならば」
その誰ともない呟きは、空恐ろしい結論を皆に抱かせた。
「秀頼さまは……豊臣秀次の……子?」




