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10 落城

 蔵の中。

 三十人もの侍女や近侍たちに囲まれ、茶々は治長に聞いた。

「……なぜに、ここまで」

「これが、茶々のやりたかったことだろう」

 茶々と治長は好き合っていた。恋に──落ちていた。

 だが、運命の悪戯か、茶々は天下人の妾となった。

 子を産み落とした。

 それでも、治長を想いつづけていた。

 だからといって、秀頼のことを愛していないわけではない。

 秀吉がその命を落としたあと、二人は密かに想いを遂げた。

 だがここでまた運命が襲い来る。

 徳川の台頭、攻勢である。

 茶々は馬鹿ではない。

 徳川家康に抗して、生き残れるはずがないと知る。

 この城は落ちるのであろう――と。

 では。

 では、どうするか。

 それを察し、先を読んだのは治長だった。

 彼は、茶々が、愛する者と共に死に、そして秀頼には生きていてほしいという願いをかなえることにした。

「なぜ」

「それが……この世に生まれ落ちてより好いた相手の願いだから」

「そう……」

 ならば共に地獄に落ちよう。


 蔵から、火が上がった。



 ……それから先、何がどうなったかは、わからない。

 城から落ちた秀頼は、薩摩へと落ちのびたといわれるが、判然としない。

 落ちのびたとして、母も妻も子も失ってしまった秀頼がどう生きたのか。

 のちに真田信之と会って、真実を知った千姫が手を尽くして探したが、判じなかった。

 悲しき妻、千姫はそれでも、おのれの想いを遂げた人たちのことをしのぶよすがとして、奈阿姫を養女とし、祖父・家康や父・秀忠から守ったという。

「豊臣の子として生まれ落ちたそなただが、命落つることはない」

 奈阿姫は、その言葉を胸に、尼寺に入った。


 ──のちの東慶寺住持、天秀尼である。 


【了】

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