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正義の味方の1人娘ですが、悪の組織に就職しました ~今日も脅迫動画を父に送ります!~  作者: うちうち


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再結成式をしよう!(下)

いちおうこの話で一区切り(?)です。

 俺が生まれたあの街では、正義の味方と悪の組織が戦っていた。


 でも今思えば、あの街は少し変だったのかもしれない。


 悪の組織は世界征服を掲げているのに、戦いが広がるのはなぜかいつもあの街の中だけだった。大事件みたいな顔をして始まるくせに、最後にはきっちりローカルニュースみたいな規模に収まってしまう。世界の話をしているはずなのに、実際に火花が散るのは、いつだって決まった場所だった。


 しかも、マシロさんによれば、アメリカには怪人がいなかったらしい。






「つまり、あの街の方が特殊だったんです」


 コタツの向こうで、マシロさんが静かに言った。


「特殊、って?」


「限られた場所、限られた時間だけ、ああいう“場”ができていたんだと思うのです。正義の味方と悪の組織の物語が、妙に濃く発生する場所です」


 俺は少しだけ黙った。


 そう言われると、そんな気もする。

 正義の味方がいて、悪の組織がいて、怪人が出てきて、戦って、倒される。あの流れは当たり前みたいに思っていたけれど、本当はもっと狭くて偏ったものだったのかもしれない。





「じゃあ、今いるここは違うってことですか?」


「ええ。今のここはもっとフラットです」


 マシロさんは頷いた。


 俺は窓の外にちらりと目をやった。

 たしかにここには、あの街にあった濃さがない。怪人もいなければ、毎週のように何かが起こるわけでもない。ただ、人が暮らしているだけの街だ。





「じゃあ、悪の組織にこだわる必要もないってこと?」


「いえ。そういうことではないのです。あたしやニシャプール様は、他の生き方をする予定はないでしょう?」


 マシロさんは落ち着いた声で言った。


「ただ、莉名さんはもっと自由に決めていい、ということです。正義の味方の娘だからって、そこで決めてしまわなくていい。悪の組織だからって、それに縛られなくてもいい。もっと別のものを選んでもいいし、その上でここを選んでもいいんです」


 その瞬間、なぜマシロさんがわざわざこんな話をしたのか、少しだけ分かった気がした。


 たぶん、確認してくれているのだ。

 お前は本当にここでいいのか、と。

 正義の味方の娘だからでもなく、流れでそうなったからでもなく、それでも自分で選ぶのか、と。





 でも、俺の答えなんて最初から決まっていた。


「わたしは、ニシャプール様たちといたいです!」


 言ってしまってから、部屋の空気がほんの少しだけ静かになる。



 俺はニシャプール様の方を見る。


「……ニシャプール様は、どうなんですか」

「莉名にいてほしいわ!」


 あまりにも即答だった。

 ニシャプール様は、はっとしたように一瞬だけ目を見開いて、それから小さく咳払いをした。


「……でも、それとこれとは別よ」


 腕を組み直して、いかにもちゃんとしたことを言います、みたいな顔をする。


「莉名のことは、莉名が決めなさい。言っておくけどね、ここにいるのが駄目とかそういうことじゃないわ」

「なら、暫定ってことにしますです?」


 少し考えてから、ニシャプール様は頷いた。


「そうね。ゆっくり考えなさい」


 マシロさんも静かに頷いた。


 俺は少しだけ戸惑った。


 てっきり、そのまま「じゃあ決まりね」となるのだと思っていたからだ。

 でも二人はそうしなかった。


 残る場所はここしかないと、俺はもう決めている。

 なのに二人は、そこで決め切らせてくれない。

 もっと広い場所を見てからでもいいのだと、そういう顔で待っている。



 ……まっすぐだったはずの道が、

 そこで急にいくつにも分かれた気がした。














 ニシャプール様が、ちょっと止まった空気を終わらせるように、「はい! この話はおしまい!」と手を叩く。


「じゃ、今、やるべきことをしましょ」

「やるべきこと……?」


 ニヤリと笑うニシャプール様。


「マシロも帰ってきたことだし、再結成式よ!」







 ニシャプール様は、どこからともなく取り出したマントをばさりとはためかせ、ニッコニコの笑顔でこちらを振り向いた。


 あのマント、久しぶりに見たな……。






 ニシャプール様は、ガレージの壁際に置いてあった長机に向かうと、墨と筆を取り出した。

 そして何の迷いもなく、さらさらと文字を書いていく。




「悪の組織たるもの、いつも笑顔を忘れないこと」

「友達を大事にすること」

「体に気をつけること」

「ドッキリは絶対禁止」




 書き終えた紙は、その場で額に入れられ、壁に飾られた。

 非常に達筆だった。





「以上四点が、我らが組織の理念よ!」


 ニシャプール様が満足そうに胸を張る。

 前の組織でも飾られていたものだ。こうしてまた壁に掛かっているのを見ると、休止していただけのものが、本当に戻ってきたのだと少しだけ実感した。






「それで、もちろん私が首領ね。マシロがNo.2、技術顧問、ドクター、情報管理局局長、作戦本部長! で、莉名はNo.3で……あとはどうしようかしら……? 切り込み隊長とか?」

「わたし、首領代理がいいです! No.3と言えば、首領代理ですから!」


 非常にスムーズに役職決めも進んだ。










 しかし問題になったのは、その次だった。



「で、組織の名前よ」


 ニシャプール団をそのまま引き継ぐか、新しくするか。

 方向としては、やはり何かしらニシャプール団を受け継いだ新しい名前が望ましい、ということになった。


 そう言われて、各自にフリップとマジック、辞書が配られる。

 しかし、いざ考えろと言われるとこれが難しい。


 コタツを囲んだまま、三人ともなんとなくお互いの出方をうかがってしまう。







 妙な沈黙がしばらく続いて、耐えきれなくなった俺は、さっと手を挙げた。


「一番! 戸倉莉名、行きます!」


 ニシャプール様とマシロさんの視線が、揃ってこちらを向いた。


「ニシャプール団の掟として、『みんなが健康に気をつける』みたいなのがあるじゃないですか。これからもそこは大事にしていきましょう、ということで!」


 俺は満を持してフリップを掲げる。

 早寝早起き、だとちょっと捻りがない。だったらもう少しそれっぽく――






「悪の組織、『ネルトスグアサ』です!」




 ところが、二人は困ったように顔を見合わせた。


「安眠してる、みたいな意味だとは思うのですが……」

「莉名が言うと、過労で気絶してるみたいで怖いわ……」


 あっさり却下された。

 くそう。今はそんなことないのに。









 続いて、マシロさんがそっと手を挙げる。

 タッチの差で出遅れたニシャプール様が、露骨に「ぐぬぬ」という顔をしていた。


「『ニシャプール団』でしたから、その流れは汲んだ方がいいと思うのです。ニシャプール、とはそもそも中東にかつて存在した都市の名前です。そこで……」


 ニシャプール様がぱちぱちと瞬きをして「初耳だわ……」という顔をしたが、俺は気づかないふりをした。


 そうして掲げられたマシロさんのフリップには、


 ――『シェマカ』。


 おお。なんだか妙に、お洒落っぽい名前である。


「縁のある、同じく中東の都市の名前です。響きも良くないです?」

「でも、都市の名前だと聞いた側は混乱しませんか? 組織名を聞いて『名古屋です』って返ってくるようなものでしょう?」

「ニシャプール団だってそうじゃないです?」

「だってあっちは『団』ってついてるもの。組織名だなって一目瞭然よ」

「その理屈だと『ニシャプール』様も、団がついてないので地名になりますが大丈夫です?」


 いろいろ意見は出たが、「ややこしい」ということでマシロさんの案はいったん保留となった。






 続いて、ニシャプール様の番である。


「色々考えたわ! そして、たくさんの候補を勝ち抜いた二つがこれよ!」


 たぶん、どうしても一つに絞り切れなかったのだろう。

 最初に出てきたフリップに書かれていたのは、


『ノーネイネヴァー』


 おお意外。なんかすごくまともだ……!


 マシロさんも同じことを思っていたらしく、丸い目をさらに丸くしたが、すぐ通常の表情に戻った。たぶん、そこで表に出すとニシャプール様が拗ねると思ったのだろう。同感である。





「なんかカッコいいですね! ニシャプール様、どういう意味なんですか?」

「えっ……意、味……?」


 ニシャプール様は、きょとんとした。


「さっき何となく本をめくってたら出てきただけで、意味は知らないわ」

「『絶対にごめんだ』みたいな意味なのです」

「ネガティブ……! でも、まあ……悪の組織っぽくはありますかね?」

「もっと前向きな名前がいいのです」


 旗色が悪いことを感じ取ってか、ニシャプール様は小さく咳払いをひとつした。


「……気を取り直して、二枚目よ」


 フリップ、ドン。


――『フェアリーキングプローン』。


「フェアリーにキングよ? おまけにプローン! どう? カッコ良くない?」

「フェアリーキングで止めておけばよかったんじゃ……? でもどういう意味なんでしょう?」


 すると、マシロさんがこっそりと俺に耳打ちしてきた。


「念のために言っておくと、あの言葉の意味は『活きのいい大きなエビ』です」

「響きだけじゃなく意味が大事なのね……盲点だったわ」

「さっき『ニシャプール団を引き継ぐ要素が欲しい』って言ってたのに……」







 その後も、名前決めは難航した。

 ガレージの床には、使い終わったフリップがだんだん増えていく。俺も積極的に案を出した。


「『ネコネコロガール』とかどうでしょう! 親しまれそうじゃないですか?」

「気のせいか、なんだかどこかから怒られそうな気がするのです……!」


 いくら出しても、何かが引っかかる。

 名前を決めるというのは、思っていたよりずっと大変な作業らしい。







 結局、その日のところは『新生ニシャプール団』ということになった。


 もっとも、それはあくまで仮の名前で、三人そろって「これだ」と思える組織名が見つかれば、その時はあっさり差し替えられることになっている。














「では!」


 そこでニシャプール様が、ぱんと手を打った。


「暫定名称決定を祝して――そして何より、六年ぶりの再結成を祝して! 締めの挨拶を行うわ!」


 紙コップが三つ並べられ、その横には焼き菓子の皿が置かれた。小ぶりで、焼き色のきれいなものばかりだ。見るからに手作りで、妙にちゃんとしている。こういうところは、ニシャプール様は本当に抜かりがない。


 ニシャプール様は紙コップを持つと、こほんと咳払いをした。


「えー……改めまして。六年ぶりの再結成を祝して――」


 そこまで言って、一度だけ言葉が止まる。


 ニシャプール様は、俺とマシロさんの顔を順番に見た。

 それから、少しだけ困ったみたいに笑う。


「……長かったわねえ」


 その一言だけで、さっきまでの騒がしさが少しだけ静かになった。







 ニシャプール様は、ガレージの中を見回す。

 真ん中にはコタツ。壁際には工具棚と機械の山。床には却下されたフリップ。どう見ても、秘密基地というより、無理やり秘密基地にした貸しガレージである。


「本来なら、もっと立派な場所でやってもよかったのだけど……まあ、いいわ。そういうのはそのうち揃えればいいもの。欲しいものはもう全部揃ってる」


 そこで、ニシャプール様は少しだけ笑った。


「だから――改めまして」


 紙コップを持ち上げる。


「新生ニシャプール団。名前はまだ仮でも、始まることだけは本物よ」


 そこで一度、にっと笑う。


「今日この瞬間から、もう一回始めるわ。目標はもちろん、世界征服!」


 即答だった。


「異論は?」

「ないです」

「ありません」


「よろしい!」


 ニシャプール様は満足そうに頷いた。


「それじゃあ――再結成に、乾杯!」


「乾杯」

「乾杯です」


 紙コップ同士が、こつんと軽い音を立てた。






 ガレージは広くもないし、床にはフリップが散らばったままだし、壁には妙に達筆な理念の額が掛かっているしで、全体としてかなりちぐはぐだ。


 それでも、ニシャプール様は嬉しそうに何度も「再結成よ」と言い直していたし、マシロさんは黙々とフィナンシェを取っていた。俺も紙コップを持ったまま、そんな二人を見ていた。





 名前はまだ仮で、目標だけがやけに大きくて、基地の床には……採用されなかった未来が、何枚もフリップの形をして転がっていた。


 まるで――却下された名前たちまで、どこかでまだ使われる日を待っているみたいな夜だった。







 再結成式が終わってから。

 自分の部屋に戻ってからもしばらく、ガレージの空気が身体に残っていた。

 ぬるいジュースの甘さとか、焼き菓子の匂いとか、ニシャプール様が嬉しそうに何度も「再結成よ」と言い直していた声とか。


 服を着替えて、髪をほどいて、ベッドに座っても、まだ少しだけ胸の内側が落ち着かなかった。





 俺は立ち上がって、窓を少しだけ開けた。


 夜気が、ひやりと頬に触れる。


 外には見慣れた住宅街が広がっていた。

 街灯。信号。遠くのマンションの窓に灯る明かり。景色だけ見れば、どこにでもある夜だった。正義の味方も悪の組織も、そんなものは最初から存在しませんという顔で、ただ静かに夜が広がっている。


 でも、耳を澄ますと、世界は全然違っていた。


 遠くを走る車の音。

 少し離れた踏切の警報機。

 電車が線路を渡る低い響き。

 どこかの家で食器の触れ合う小さな音。

 ベランダの窓が閉まる音。

 犬が一度だけ鳴いて、それに少し遅れて別の犬が返す声。


 ひとつひとつは小さいのに、重なると、夜の街そのものが息をしているみたいだった。


 たぶん、あの窓の向こうにも、こっちの路地の先にも、それぞれ別の夜がある。別の暮らしがあって、別の悩みがあって、別の物語がある。





 俺が生まれたあの街みたいに、正義の味方と悪の組織がやけに濃く発生する場所も、ひょっとしたらまたどこかにあるのかもしれない。


 もっと別の偏り方をした舞台が、もっと別の役割が、もっと別の名前が。俺の知らないところに、当たり前みたいに転がっているのかもしれなかった。






 マシロさんは、今いる場所はフラットだと言った。


 たしかにそうなのだろう。

 あの街にいた時よりずっと、世界は広くて、余白が多い。


 何にでもなれたのかもしれない。

 どこへでも行けたのかもしれない。


 そのことを、少し遅れて実感する。


 再結成式の時、ニシャプール様は「いてほしいわ!」と即答した。

 あまりにも即答だったから、つい忘れそうになる。

 でもそのあと、ちゃんと「莉名が決めなさい」と言ったのだ。


 マシロさんもそうだった。

 好きにしていい、と。


 もっと別のものを選んでもいいし、その上でここを選んでもいいのだと。

 最初から役割が決まっていたあの街とは違って、今はちゃんと、自分で。





 窓ガラスに、女子高生になった自分の顔がうっすら映る。

 夜の街を背にした、曖昧な輪郭の自分だ。


 俺はしばらく、その顔を見ていた。





 残る場所なんて、もう決まっている。

 それでも二人は、決め切らせてはくれなかった。もっと広いところを見ろと、もっと先まで考えろと、言葉にしないまま待っていた。





 だからこそ、たぶん意味がある。


 与えられるんじゃなくて。

 流されるんじゃなくて。

 ちゃんと見た上で、自分で選ぶことに。






 窓の外では、カタンカタン、とどこかでまた電車が通った。

 踏切の音が遅れて響いて、その向こうに、まだ知らない場所がいくらでも続いていることを思わせる。







 そこで俺は、窓をそっと閉めた。

 耳に残っていた無数の音が、薄いガラス一枚向こうへ遠ざかっていく。







 部屋の静けさの中で、壁の向こうにニシャプール様、隣の部屋にはマシロさんがいて、少し離れたガレージにはコタツと理念の額があって、床にはきっとまだフリップが散らばっている。


 世界はたぶん、思っているよりずっと広い。

 他の舞台も、他の役割も、俺の知らないところにまだいくらでもある。





 それでも、俺は――。

















 気が付くと、いつの間にか夜中になっていた。


 部屋の中はしんとしていて、壁の時計の針が進む音だけが、やけにはっきり聞こえた。耳を澄ますと、隣の部屋でニシャプール様のすーすーとした寝息がする。四月の夜はもうそこまで冷えていなくて、窓の外からは、遠くを走る車の音がかすかに届いていた。


 暫定のままなんて、そんなの嫌だった。




 なら、俺が選べばいい。

 ちゃんと、誰が見ても分かる形で。




 選んだと、はっきり分かるには、どうすればいい?

 悪の組織が、やることと言えば――。









 俺は一人で、基地に戻った。


 貸しガレージの中は、さすがにもう静かだった。真ん中のコタツは、ただそこにあるだけだ。壁には妙に達筆な理念の額が掛かっていて、床には昼間のフリップが何枚も重ねられたまま、まだ片付けられていない。



 立ち上がって、通信機材の前に座った。


 少しだけ深呼吸をして、回線をつなぐ。






 暗い部屋の中で、モニターの光だけがふっと点いた。

 父の顔が、その白い明かりの向こうに浮かぶ。


 いつもの週一の電話よりは少し遅い時間だったけれど、父はすぐに出てくれた。


「どうした、莉名」

「報告があって」

「な……なんだ? 何かしてほしいことがあるのか?」


 父は、目に見えてびくりと肩を揺らした。どうやら、まだ俺からの動画メッセージは苦手らしい。そこはちょっとだけ面白かったけれど、今日は笑っている場合でもない。





 俺は一息ついてから言った。


「わたし、正義の味方の一人娘だよ。だけど、悪の組織に就職することにしたから。ちゃんと言っておこうと思って」


 父はしばらく黙っていた。


 モニターの向こうで、表情がわずかに動く。

 それから、口の端がほんの少しだけ上がった。


「そうか」

「そうなんだよ」


 また少し、沈黙が落ちた。


 言葉のない時間だけが、細い糸みたいに画面の向こうとこちらをつないでいた。







 やがて、父が重々しく言った。


「なるほど。脅迫というより、挑戦状か。では、宣戦布告してきた悪の怪人に聞いておこう。お前の名は?」


 俺は、そこで初めて詰まった。父の表情は変わらなかったが「え? ないの? この流れで?」って一瞬浮かんだ気がする。




 ……俺には、怪人名がない。


 一度も考えたことがなかった。さすがに「戸倉莉名」をそのまま怪人名にするのは、なんだか色々駄目な気がする。だが、じゃあ何だと言われると、答えが出てこない。







 視線が自然と床に落ちた。


 コタツのそばに、今日のフリップが何枚も重なっている。その中の一枚が、端だけ見えていた。


 ――『シェマカ』。


 ニシャプール様の名と縁があって、マシロさんがつけてくれた名前。


 それはさっきまでただの候補だったはずなのに、そのときだけ、最初から俺を待っていたみたいに見えた。





 俺は顔を上げた。


「新生ニシャプール団No.3。首領代理の、シェマカだよ」


 口にしてみると、思っていたよりずっとしっくりきた。胸の奥で、何かがひとつ、きちんと嵌まったみたいだった。


「あはは!」


 ついでとばかりに笑うと、少しだけ勢いがついた気がした。

 そのまま、俺は続ける。


「ちゃんと覚えておいて、お父さん。今度こそ――たとえ途中で負けたとしても、世界が勝ちを認めなくても。最後に笑うのは……わたし達、ニシャプール団なんだから!」





 言い切ったあと、部屋の中がしんとした。

 壁の時計の音だけが、またやけにはっきり聞こえた。





 モニターの向こうで、父がまた少しだけ笑った。何を思ったのかは分からない。ただ、さっきとは少し違って見えた。


 それから、父は静かに言った。











「――いいだろう。受けて立つ」




 ということで、無事に再結成式まで辿り着くことができました! ひとまず一区切りでしょうか?

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました! また、感想や評価、お気に入りしていただいたみなさま、本当にありがとうございました。続けてこられたのも、みなさまのおかげです。


 ニシャプール団はこの後もわいわいやっていくでしょうし、10年後とかには最終的に自立した莉名が、マシロさんポジに収まった櫻子ちゃんと新しい悪の組織を設立する未来とかも見える気がしますが……。せっかくマシロさんが帰ってきたので、たまにわちゃわちゃしたいですね。はい。たまに。


※「バラバラになるニシャプール様とか撃たれても平気な莉名がミステリー世界に行って周囲の情緒をめちゃくちゃにする話が書きたいんです!」っていつか言った気もするのですが、そっちルートだと、どう考えても父に脅迫動画とか送らなさそうかなって。タイトル詐欺になってしまいますので、そっちは別タイトルでもつけていつか番外編として投稿できたら……いいなぁ……(諦めてないので「別の偏り方をした場所があるのかも」みたいなことを今回の話でも言ってますが)



 それでは、よろしければ、また。






(~お知らせ~)


 別作ですが、4月10日に、『逃げる魔法使い 〜寿命を削って魔法を使っていただけなのに、なんだか周囲の様子が変です〜』の書籍版が発売されます!

 こうして形にしていただけたのは、普段読んでくださる皆さまのおかげです。

 もし応援してもいいよと思っていただけましたら、ぜひよろしくお願いいたします!


 ↓に書籍紹介ページを貼ってみました(うまく貼れてるのかちょっと自信がない)

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― 新着の感想 ―
一段落付いたけど続きが気になる~
面白かったです、良い物語をありがとうございました。
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