(おまけ)高校生だし落ち着いたキャラを目指そう
月日が経つのは早いもので、俺もとうとう高校1年生になった。JKである。遠い存在みたいに思っていたが……なってみると意外に変わらないな……。
中学校時代は、けっこう目立たず過ごせたのではないかと思う。家出したり、別の世界から来た怪物の吐く炎で炙られたり、巨大バッタと戦うなんてこともなかったし。というか、今の俺はいちおう家主(ニシャプール様的には、あくまで自分は居候という認識らしかった)なので、家を出てもそれは単なる外出である。
俺は大人しい一女子生徒として中学校に通い、一般生徒として卒業した。しかし、俺が中学時代に目標としていた「目立たない」に◎をつけたら、ニシャプール様は何か言いたそうな顔をしていた。はて……? 俺は少し、この3年間であったことを思い返してみた。
1年生の運動会。
保護者対抗100m走に、ニシャプール様が出走した。ニシャプール様は「私の復活の舞台にふさわしいわ!」と非常に楽しみにしており、前日は午後8時に就寝した。
当日。素体としての体を使いこなしつつあったニシャプール様は、圧倒的1位でゴールを駆け抜けた。そして、そのままグラウンドの端に生えている木まで颯爽と走っていった。よく見ると木の上では子猫がニャーニャーと鳴いており、目に入って助けに行ったものと思われた。
そのままニシャプール様はすいすいと木の上まで登り、子猫を抱きかかえて「アハハ!」と高笑いした瞬間に足を滑らせて地面に落下し、バラバラに飛び散った(子猫は飛び散ったニシャプール様がクッションになって無事だった)。100m走をスタートしてから飛び散るまで、およそ3分程度の出来事だった。「ニシャプール様は手品師で、初対面の人の前ではあいさつ代わりにバラバラになるんです!」という俺の説明は果たして信用されたのかどうか。
2年生の秋。
放課後、俺がゆるゆるのTシャツを着て櫻子ちゃんの家に遊びに行くと、これまでにないくらいに激詰めされた。正座させられて説教されたのは、かつてお正月に蜂蜜で酔っぱらってニシャプール様に迷惑をかけた時以来だった。さて、なぜ櫻子ちゃんはそんなに怒ったのか。
「莉名ちゃん!!! なんで下着つけてないの!?」
「いやちょっと待って! パンツは履いてるよ!?」
「上も着けて! Tシャツで屈むと丸見え! ていうか最近ヤバいんだよ!! ちょっとあるのに胸元油断しすぎ!!!」
「だって恥ずかしくて……」
「丸見えな方が恥ずかしいでしょ!?」
「そもそもね。まず下着店に入れない」
「そんな手前で躓いてたんだ」
「サイズも分からないし」
「測ってもらえばいいじゃん」
「だってお店に入れないから。あと頼むの恥ずかしいし」
「……」
その日、俺は櫻子ちゃんに無理やり引っ張られ、女性用下着売り場に連行された。そして、櫻子ちゃん指導の下に胸のサイズを測られ、赤面涙目のまま、優しい女性の店員さんに下着の付け方を丁寧に指導されるというトラウマものの事件が発生した。取り乱しすぎてどうやって家に帰ったかもよく覚えていないのだが、その日以降、俺は上下の下着をつけるようになった。
あと、それからしばらくして櫻子ちゃんは男子の組織している謎の条約に加入し、いかなる方法を用いたかは不明であるが、トップに上り詰めたらしい。……いいなぁ。
3年生の夏。
秋月くんと森くんがサッカーの試合に出るとかで応援に行った。2人はチームメイトなのにやたらと対抗心を燃やしており、なんとお互いでボールを奪い合うという謎のプレーを繰り返し、途中で両方とも交代させられた。いや君ら、仲悪すぎるだろ……。まるでサッカーを知らない異国の人に「ボールを蹴るスポーツなんだよ」ってだけ教えてやらせたみたいな光景だった。相手チームも困惑してたぞ。
そしてその帰り道。
家が近い秋月君と2人で歩いていると、路地から大きな叫び声がした。秋月君が俺を後ろに庇っておそるおそる見に行き「大丈夫っすか」と声を掛けると、ちょっと危ない人だったらしくナイフを持って暴れ始めたので、固まっている秋月君の前に俺が出て相手のナイフを蹴り飛ばし、警察を呼んだ。超音波メスでナイフを狙おうとも思ったのだが、相手か秋月君のどっちかに直撃したらえらいことなので、接近せざるを得なかった。
終わった後、秋月君は落ち込んでいた。きっとすごく怖かったのだろう。慰めたらもっと凹んでいったので、「最初に庇ってくれてありがとう」と言ったらなんか表現しにくいすごい顔をしていた。
印象深いのはこれくらいか……? 櫻子ちゃん下着事件以外は、おおむね平穏だった。
あとは、校内で俺だけ「力加減」を誓約書に書かされたり。
男子たちがからかって言ってきた下ネタのオチを先に言い当ててしまって森君がむせたり。
運動会の綱引きに俺は参加しない方がいいと言われたり。
……ちょっとお転婆だった気もしなくもない。
ということで。
高校生になる俺は、心機一転。大人しいキャラを目指そうと内心計画していた。だって俺、前世も入れるととっくに成人済みだし。さすがにそろそろ落ち着いた方がいいだろう。JKだし。
姿見の前で、くるりと回ってみる。ブレザーの前を整えて、襟元を少しだけ直して、と。
……うん。特に問題はない。
黒髪は背中のあたりまで伸びている。切る理由もないし、邪魔になるほどでもない。艶があるらしいが、自分ではよく分からない。
目は、昔より切れ長になった気がする。睨むと冷たいと言われるが、別に睨んでいるつもりはない。鼻筋は通っているらしい。横顔が綺麗だと、櫻子ちゃんに言われたことがあるのはちょっぴり嬉しかったりする。
脚はすらりと長い。立っていると、鏡の中のバランスが妙に整っている。あの頃と比べて、今の俺は、随分と背が伸びた。直近の身体測定だと163cmだった。マシロさんより高く、ニシャプール様よりちょっと低いくらい。
全体的に線が細くて、気品っぽいものを感じなくもない。こうして見ると、外見だけなら物静かな令嬢って感じだが……。
一緒の高校に行くのは、同級生だと櫻子ちゃんと森君くらいだ。秋月君はサッカーの推薦で少し遠い高校に行った。ちょっとさみしい。
ちなみに卒業式の後、俺は秋月君に屋上に呼び出された。俺たちも、お互いの部屋を行き来し、アイスを何度も食べた仲である。正直、この展開は予想していた。なので準備ももちろんしていた。
そして屋上で、俺が保冷バッグからアイスを取り出して見せると、秋月君は、泣き笑いみたいな不思議な表情を浮かべた。その後、黙り込んだ秋月君と2人で屋上で食べた卒業記念のアイスは、ちょっといつもと違う味に感じた、気がした。
さて、ともかく。
高校に知り合いが少ないということは、大胆にキャラ変してもバレにくいということだ。この外見なら、例えばちょっと冒険して「あら、どうもありがとう。ごめんあそばせ」くらい言ってもいいんじゃないか……? ニシャプール様の口調を真似してもいいかもしれない。
とりあえず手始めに、胸を反らして高笑いしてみた。
「あはは!」
いやなんか違うな……。ニシャプール様の「アハハ!」みたいに響く感じがない。うーん。
それにニシャプール様ってあんまり大人しいイメージじゃない。この見た目だと、俺が目指すべきは、もう少しクールというか……。
その時。俺の脳裏に電流が走った。クールなお姉さんといえば。以前の俺は実はちょっと、マシロさんのかっこいいお姉さんな感じに憧れていたところがあった。今なら……? 今なら俺も、あんな感じにいけるのでは……?
俺が押し入れをごそごそしていると、部屋の入口からニシャプール様がひょいと顔をのぞかせた。
「そろそろ出ないといけないんじゃないの? 入学式でしょ? あとで私も行くから」
「ニシャプール様。この辺にありませんでしたっけ?」
「……何が?」
「フェイスシールドです……いえ。フェイスシールド、なのです」
「急にどうしたの!? 大丈夫!?」
ちなみにフェイスシールドは、待ち合わせ場所で櫻子ちゃんに一瞬で没収された。ちょっと俺もJKということで混乱していたが、よく考えたら当たり前だった。今は反省している。




