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正義の味方の1人娘ですが、悪の組織に就職しました ~今日も脅迫動画を父に送ります!~  作者: うちうち


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17/24

『お前、ワシらの組織の目的、覚えとるか?』

 その後、父は緊急搬送された。


 俺が「お父さんが急に床を転がって、柱に頭をぶつけ始めて……怖かった……(本音)」と基地に通報したら、どやどやと大勢の人がやってきて、父を連れていってくれた。見送る俺たちと、児童心理に詳しいカウンセラーの人。


 カウンセラーの人は、「怖い思いをしたと思うから、よかったらまた話を聞かせて」と言い、チラシを渡して帰っていった。






 そして、父は心労がひどいという理由でしばらく入院していたはずなのだが……。








「そうなの? よかったわー。安心しちゃった! うん、元気にしてるわよ」


 ある日、俺がホールに入ると、ニシャプール様が携帯で誰かと話しているのが耳に入った。なんと、相手は父だった。思わずさっと隠れ、息を殺す俺。




 ニシャプール様は、ゴロンとソファーに寝そべった。


「で、なんでかけてきたの? 何か用?」

『……お前に聞きたいことがある。ニシャプールは、前の組織“ヘイルトゥリーズン”の首領補佐だったんだよな』

「ええ! No.3よ! 3番目に偉いんだから!」

『組織では、別の世界から何かを呼ぶ儀式をしていたはずだ』

「そうね。なんか首領が1人で奥の部屋にこもってやってたわ」


 少し、間があって。


『その儀式、1度だけ成功したことがある、という話を聞いたことがあるか?』


 すると、ニシャプール様は、不思議そうに首をひねった。


「……()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()?」

『よくわかった。感謝する』

「え? ちょっと! 何?」


 ツーツーツー。電話は切れていた。しかし、本当にまともに戻ったのか? 相変わらずよく分からない奴……。



 ニシャプール様と、仲良くなったのかなぁ。










 ところで、その後も俺は、何度かフラグについて勉強する会を開いていた。お馴染みとなったホワイトボードに、キュッキュッと書き込む。上の方に手が届かないのを見て、マシロさんが、軽くて丈夫な踏み台をいつの間にか作ってくれていた。


「今日は、死亡フラグの反対、生存フラグを勉強しましょう。ざっくり言うと、死亡フラグの逆をすればいいというか……例えば、相手が冥土の土産を話し始めたりとか、「もう勝負が見えてる」とか言い出したり。あとは、死体が見つからないとか? でも、その場で遺品が見つかっちゃうとアウトな気もするし微妙かな……」



 そして、ニシャプール様が、はい! と元気良く手を挙げた。


「首領みたいに、死んだことにして身を隠すとどうなるの?」

「……うーん……。死んだって扱いになれば、いったん死亡フラグってリセットされるような……」


 統計を取ったわけじゃないが、イメージだとそうだ。うん。





 すると、ニシャプール様は、おそるおそる、といった感じで口を開いた。……なんだ? なんか俺の方、じーっと見てる。


「その、私たちって悪の組織じゃない? 知らないうちに死亡フラグ? っていうの立てちゃってるかもしれないと思うの。いえ! 莉名がそうだっていう訳じゃなくてね!」


 すると、マシロさんも、俺とニシャプール様を交互に見ながら続いた。


「確かに。いざという時の手段として、考えておいていいかもしれません」







 ともかく、死を偽装する方法について、その後3人で話し合った。まず、ニシャプール様が、素体で俺たちの死体を再現してくれた。おお、自分以外も再現できるんだ。


「すごい! 本物みたいです!!」

「似すぎててちょっと気持ち悪いのです。触っても人間にしか思えないですし」

「そうだいいこと考えたわ! これを……こうして……!」




 ニシャプール様がノリノリで、ニシャプール様(死体)をソファーに横たえ、マシロさん(死体)と俺(死体)をそのそばに配置する。そして、マシロさん(死)の手をそっとニシャプール様(死)の手に絡ませ、その隣に俺(死)をそっと寝かせる。まるで、3人が寄り添い合って死んでいるようだった。にしても、この構図なんか見たことある……。


「あ! 前のあの動画の再現!」

「ふふ、それで、誰か入ってきたら、パソコンであの心中動画(仮)がそっと流れ出すの! どう!?」

「すごくいいと思いますです……!」


 マシロさんも自作の活躍の場が与えられるとあって、テンションが上がっておられるご様子。その後も、顔の角度だとか入り口から入って来た時にすぐに目に入らない方が良さげだとか、3人でわいわい騒ぎながらセッティングしていたのだが……。




 配置がほぼ決まり、微調整をしているとき。

 ふと、ニシャプール様が、不思議そうな顔をしながら首をかしげた。


「どうしたんですか?」

「いや、なんか、自分の死体を楽しく飾りつけしてる今の自分に疑問を持ったというか」

「…………」


 なんとなく、気まずい空気がその場に流れた。マシロさんもそっと目を逸らしている。確かに、なんかちょっとテンション上がってたかもしれん……。






 最終的に、セッティングされた3人の死体(仮)は普段は目に入らないよう、奥まったところに設置されることとなった。ニシャプール様が気を取り直したように、パンと両手を合わせる。


「ま、いわゆるお守りね! 正義の味方のやつらが攻め込んできたとき目くらましにはなるでしょ。まあ、そんなこと起こらないと思うけど……」


 俺は思わず耳を澄ませた。いつもこのあたりの流れで変な音がするからだ。


 すると予想通り、パァン! と遠くで木が裂けるような破裂音がした。まるで木の棚がバラバラになって飛び散ったような音だった。しかしそれ以降はしんと静まり返り、何の音も聞こえなくなった。











 そして、それから1週間ほど経った時のこと。訓練後、ソファーで3人でゆっくりしていると、不意に、携帯がぶるぶると震えた。……兄だ。珍しい。


 電話に出ると、慌てたような兄の声が飛び込んできた。背後では、大勢の人の焦ったような声が飛び交っている。


『莉名! 今どこにいる!?』

「どこって……ニシャプール様の基地だけど」

『わかった! 外には絶対出るなよ!!』


 掛かって来たときと同じように唐突に、兄の電話はぶつりと切れた。絶対だって。俺たちは顔を見合わせる。


「何かしら?」

「……今、兄は基地にいるみたいなんですが、後ろでスタッフの人が言ってました」


 俺は、ゆっくりと2人を振り返る。


「新しい怪人が出た、って」







 「絶対出るなよ、絶対だぞ」とか言われたばかりではあったが、さっそくニシャプール様とモッちゃんが、さっき電話の後ろで聞こえた場所に向かった。俺も行こうと手を挙げたのだが、ニシャプール様に止められてしまった。


「とりあえず様子見よ。相手の出方と戦力が分からないうちは、莉名は連れていけないわ」

「じゃあ、次は連れて行ってくださいね! 約束ですよ!」

「はいはーい。連れていけたらいくわ」


 ニシャプール様は、信憑性0の返事をして、手をひらひらと振って出かけて行った。






 俺は、ソファーで座り、ニシャプール様が帰ってくるのを待った。新しい怪人だって。心配だ。せめて、現地の様子が分かれば……。思わず、テーブルの上に乗っているおせんべいに手が何度も伸びる。あ、薄くておいしい。いつも食べるのよりしっとりしてる。


「莉名さん、莉名さん。それティッシュです」


 マシロさんに注意され、俺は、はっと意識を取り戻した。新品に取り換えたばかりのはずの箱ティッシュは、既に半分以上減っていた。……特に違和感なく食べちゃった。俺が何でも食べられるというのは嘘ではないらしい。




 すると、見かねたらしいマシロさんが、ちょいちょいと手招きし、基地の奥に俺を連れてってくれた。なんだろう……?






 そこは、壁が全てスクリーンになっていて、中央に操作盤のようなものと椅子が設置されている部屋だった。マシロさんは、椅子に座り、オペレーターみたいなヘッドセットを付けて、操作盤に指を走らせ始めた。


 次の瞬間、壁のスクリーンが、いくつもの映像を映し出した。ごうごうという風の音も聞こえる。そして、ニシャプール様が目を細めて遠くを見ている姿も。




『こちらコントロール室。ニシャプール様、同期完了しましたです』


「あの、マシロさん、これは……?」

「モッちゃんの視界を共有しているのです。軌道上に衛星が飛んでいますから、そちらからの映像も出てます。衛星からは奥の手としてリニアガンも撃てますですよ」


 リニアガンて。マシロさんがすっごく物騒なこと言っておられる……。

 映し出されている映像の中では、新幹線に乗っているときくらいの勢いで、景色がびゅんびゅんと後ろに過ぎ去っていく。


 そして、建物のあちこちが崩れている街の一角、ビルの屋上に、ニシャプール様はスタッと降り立った。






「バッタ怪人みたいですね。……怪人というか、怪獣ですが」


 マシロさんの言った通り、そこにいたのは、20メートル位もある巨大なバッタだった。


 バッタがそばのビルに頭を勢いよく突っ込むと、高層ビルにぽっかりと大きな穴が開く。ガラガラと崩れた瓦礫の中から姿を現し、ぶるぶると頭を震わせるバッタを見て、ニシャプール様は困った顔をした。


『強さは想像つくけど……とりあえず、悩みとかなさそうね。あ、リズンスターとハイランドリールが来たわよ』






 現場に到着した父は腕組みをしたまま、一歩後ろに下がった。まずは兄に任せるということらしい。というか父さん退院したんだ。体調大丈夫?






 兄はバッタの脚に取りつき、えいえいと叩いたり蹴ったりした。しかしサイズ差がありすぎるせいか、ダメージを与えられている感じはない。


 そして宙に飛び上がった兄に、それまでの鈍重な動きが嘘のように、バッタが素早く突進していった。頭突きを受けて、兄はまるでエアホッケーのパックみたいな勢いでビルを何個も突き抜けて吹っ飛んでいった。







 兄がよろよろと戻ってくるのには、10分程の時間を要した。


『ロ、ロボの出動を要請した方が良くないか……? なあ親父!』

『マシロ聞いた!? あいつら、あれくらいの相手にロボ使うつもりらしいわよ!』

『うるせー! あんなんと戦えるか!』





 マシロさんと大声で通信していた言葉が聞こえたらしく、兄がニシャプール様に向かって噛みつくように怒鳴った。ニシャプール様は、軽く肩をすくめる。


『戦えるけど? 多分リズンスターも楽勝だと思うわ』


 兄は怪訝そうに傍らの父を振り返る。しかし俺は見た。父がぴくりと肩を揺らすのを。なるほど少なくとも、楽勝ではないらしい。


『じゃあ、坊やに怪獣との戦い方を教えてあげようかしら』






 その後、ニシャプール様は、20メートル以上あるバッタを、肉弾戦で圧倒した。拳でひたすらボッコボコにした後、ジャイアントスイングみたいにぐるぐる振り回し、ビルに向かってぶん投げる。


 あ、完全にビル崩れた。俺は思わず、ビルの持ち主に両手を合わせる。


 ともかく、映像の中では、バッタのひしゃげた翅とお腹だけが、コンクリートの破片の山からピクリとも動かずに顔をのぞかせている。


『うーん……大きさの割に微妙ね。莉名の方がずっと強いわ』






 そしてビルの上に飛び上がったニシャプール様に、兄が焦ったように声を掛けた。


『おい待て! なんで、怪人なのに怪人倒してんだよ……!』

『怪人……? 言ってる意味が分からないわ』


 ニシャプール様は、とても不思議そうな顔をした。俺にはその理由がわかる。ニシャプール様は自分のことを怪人ではなく首領だと考えているし、バッタは怪人というよりは怪獣だった。


『人の獲物、横取りしてるんじゃねえって言ってんだよ! あとあのバッタより莉名の方が強いって、さすがに冗談だよな!?』

『えー? よく聞こえなーい。なんて? 『ロ、ロボを呼んだ方が良くないか』ですって? ふふ、おっかしい!』


 あ、ニシャプール様、微妙に似てない物真似してる。あれは腹立ちそう。そして、ニシャプール様は、モッちゃんに飛び乗り、颯爽とその場を後にした。




 父が小さく呟いたのが、俺の耳に届いた。たぶんマシロさんには聞こえなかったであろうくらいに、小さな声だった。


『化け物め……』


 ……え? そこまで?







「ということで、その場の流れで倒してきちゃった!」


 帰ってきたニシャプール様は、ニコニコしながら俺たちに報告した。もう「敵戦力とスタンスを確認しに行く」って言ってたことは忘れていそうである。


「でも、ニシャプール様、さすがに強いですね」

「あのバッタ、結局何だったのかしら?」


 確かに。だって怪人を送り出すのは悪の組織だけど、悪の組織って俺たちだし。マシロさんがこっそり作った可能性は否定できないけど、そういう感じでもなかったし……。


 するとそのとき、マシロさんは横目で俺をじろりと睨んだ。


「作ってませんですよ」

「いえ、そんなこと思ってません! まさかマシロさんが悪い怪獣を作って街を荒らすなんて……!」

「あたしが作るなら、もっと機能に凝りますです」

「あ、怒るのそっちなんですね」




 そしてそのとき、マシロさんがぱっと顔を上げ、目を細めた。同時に、基地内に赤ランプが付き、ファンファンとけたたましい警報が鳴り響く。


「もう一体、来ます。今度は基地の入口に近づいてますです」

「えー、まだいるの? じゃあまた行ってこようかしら」

「いえ、今度はわたしが行きますよ。だって次は出ていいって言いましたもんね!」


 俺が手を挙げてアピールすると、ニシャプール様は少し悩んだ。「まあ、あの程度の強さなら怪我もしないかしら……?」だって。おお、これは行けるか?






 そして、15分に及ぶ長考の後。ニシャプール様が現地で見守ることを条件として、無事に出撃許可が下された。







『莉名さん、莉名さん。聞こえますか』

『マシロさん、よく聞こえます』


 初の実戦である。俺は、高鳴る胸を抑え、基地の出入り口がある公園の広場で、屈伸をしながらバッタを待ち受けた。変身、っと。というか、あんな大きなバッタがここに来ても、基地の入口が小さすぎて入れないんじゃ……。




『出撃前、ニシャプール様が心配のあまりおせんべいと間違えてティッシュを食べてました。「いつもよりしっとりしてておいしいわ」ですって。莉名さんが同じことしてたってあとで伝えてもいいです?』

『絶対やめてくださいね……!』


 あ、でもちょっと緊張ほぐれたかも。






 そしてしばらくして、住宅地を踏み荒らしながら、バッタが姿を現した。


 とりあえず俺は、目の前で振り下ろされる巨大な脚を横っ飛びで避けると、そのまま帽子の羽を羽ばたかせ、急旋回しながら全力で宙に飛び上がった。ぐんっと全身に掛かる極大の遠心力と引き換えに、バッタの毛むくじゃらの脚も、踏みつぶされた公園のベンチも、半壊した住宅も、目の前に映る全てが一気に視界の後ろに飛ぶように流れていく。……あ。飛び過ぎた。




 100メートルほど上空から足元を見下ろすと、バッタがきょろきょろとあちこちを見回している。見失ったらしい。……よし、チャンスでは!?



 上空から真っ逆さまに落ちてきた俺のかかと落としを受け、ゴッ!!! という轟音とともに、バッタは前のめりに突っ伏し、地面に顔をのめり込ませた。その姿に、一瞬、新年会でマシロさんがニシャプール様に放った平手打ちを思い出す。


『打撃には強そうです。切るか、突くか、他の手段を……』

『莉名、あれやって! 必殺技の出番よ!』

『あっこら、勝手に割り込んでくるなです!』


 マシロさんのアドバイスの途中で、ニシャプール様の興奮したような声が飛び込んできた。必殺技ってあれ? まあ、確かに切るといえば切る、なのか……?




 ニシャプール様が言う必殺技とは、鍛錬の時にたまたまできた、俺の遠距離攻撃のことである。名付けて「超音波メス」。耳がいい=音を操る、というゴリ押しのような発想に、前世で見た怪獣映画の知識を加えた……要は「よく切れる黄色の光線を手元から出す」というものだ。


 なんというか、「空を飛ぶ悪役といえば黄色っぽいビームを出す」という固定観念が俺の中にあったらしい。それはともかく。




 俺は再度、上空にぱたぱたと逃げ、バッタを見下ろした。バッタはキリキリと謎の音を発しながら、こちらを睨みつけている。ふふ、恨むならその飾りみたいな大きな羽を……って!



 バッタはこちらに向かって羽を広げ、大きな脚で地面を蹴り、勢いよく飛び上がってきた。視界の中で、ぐんぐんとバッタが大きくなっていく。やばい。


「こ、このっ! 落ちろ! 落ちろぉっ!」


 戦場に突然投入された新人パイロットみたいな台詞とともに、超音波メスを何度も放った。フィィィィィ、という高音とともに撃たれた超音波メスは、黄色い光となっていくつも地表に降り注ぎ、ブランコやジャングルジム、公園にありがちな謎の巨大オブジェをスパスパと真っ二つに切り裂いた。面白いくらいに全部外れた。


 そして、バッタはこちらと同じ高さまでついに到達し、キリキリと笑う。やばい。もう、視界全部がバッタ。……あれ? ということは今、前に撃てば絶対当たるのでは……?


 とりあえず最大出力で滅多撃ちにすると、2発がバッタの片羽に当たり、見事に大穴を開けた。ひょろひょろと地面に落下していくバッタ。それから、地面に到達するまでに、俺は何度も至近距離まで接近し、超音波メスをひたすらに乱射した。




 地表でピクリとも動かず、謎の緑の液体を全身の穴から噴き出しているさっきまでバッタだった物体を、靴の先でつんつんと何度も突っつく。……うん。これは死んでる。


『勝ちましたよ! 見てましたか? わたしの作戦!』

『スペック差にものを言わせて力押ししたようにしか見えなかったのです』

『莉名って死体蹴りするタイプだったのね……さすがリズンスターの娘だわ……』







 ともかく、初勝利である。

 俺が基地に帰って、お疲れさまのおやつ会を開いてもらっていると。


 ジリリリリ! と、どこかからベルのような音が響く。……あ。あっちの壁に、電話みたいなやつがある。電話ボックスの中にあるみたいな、電話線でつながった古いタイプのあれ。


「ニシャプール様。あそこの電話みたいなやつから鳴ってます」

「……あー……そういや、あんなのあったわね……。ちょっと出てくるわ」




 ニシャプール様は、とても嫌そうな顔で、電話を手に取った。そして、しぶしぶと耳に受話器を当てる。口を尖らせ、怒られているときのいたずらっ子みたいな顔だった。


「……はぁい。もしもし。なに? 首領」


 すると、受話器から、興奮したような年配の男性の声が飛び出してきた。ニシャプール様が顔をしかめる。


『ワシがやっとの思いで作った新怪人を、お前、お前、なんで倒しとるんだ!?』

「あらごめんなさい。でも、あっちが先に喧嘩売ってきたのよ」

『見とったが、お前が近寄ったのが最初ではないか』

「ううん、睨まれたから」

『お前は街の不良か。……まあいい』


 いいんだ。さすが元首領だけあって、心広い。でも、やっぱり生きてたらしい。





『ワシもようやく動けるようになった。今、何人残っとる?』

「3人よ」

『すくっ、少なっ……! なんでそんなに減っとるんだ!?』

「えー? これでも1人入団したのよ」

『さっきの知らん奴はそれか! なんじゃあいつ!? まだガキのくせに、執拗にとどめ刺しにいっとったぞ!? ……まあ、いい。これからワシが戻って、組織を立て直す。大人子供関係なく、安穏と暮らしている奴らに目にもの見せてくれるわ』




 ニシャプール様は、校長の訓辞を聞く小学生みたいなつまらなさそうな表情で、くるくると電話の線に指を絡め、少しだけ溜息をついた。


「あー、ごめんなさい。それは無理よ」

『……なんでだ?』

「正確には、もう組織は消滅してて。今あるのは新しい組織なの。ニシャプール団っていうね。で、首領は残念ながら入れてあげられないわ。だって話してて面白くないもの」


『いや、そこワシの秘密基地だろ!?』

「そうだけど、空いてたから……。ごめんなさい。大事に使うわね」

『おまっ、おまっ……! お前!!』

「じゃあ、もうすぐ夕ご飯だから。ごめんなさい、切るわね」

『お前! 謝りゃいいと思っとるだろ! ちょ』






 ガチャン、と無造作に電話を戻し、こちらを振り向いたニシャプール様は、にぱっと笑った。もう首領のことなんて頭になさそうな顔だった。本気で忘れてそうなのが恐ろしいところだった。





「あー、おなか減ったわー……もう、なに?」


 再びジリリリリ! と鳴った電話を、ニシャプール様は、さっきより迷って、渋々ながらに取った。


「はーい。なに?」

『お前、ワシらの組織の目的、覚えとるか?』

「えっ……? そしきの、もくてき……?」



 ニシャプール様は、明らかに困った。そして、手でくいくいとマシロさんを呼び寄せる。


 マシロさんは、ひそひそとニシャプール様に囁いた。「違う世界から『越界災害』を呼び寄せて、世界を征服することです」。……え、そんな物騒な目的だったの!? 初耳だよ!?



「違う世界から災害を呼ぶのよね。だって、他の世界から来た者は、世界の壁を超える際に圧倒的な力を得るって首領の研究で分かったから。それがどうしたの?」


『おまっ、お前! 聞こえたぞ! カンニングしとったろう!』

「失礼ね。バレなきゃカンニングじゃないのよ」

『バレとる! バレとるぅ!! ……いかん、高血圧で立ち眩みが……』


「お大事にね。で、目的がどうかしたの?」

『さっき、叶ったんだ。ある者の協力を得てな』

「え、何が?」




 ……え、何が?




今回もなんだか長くなってしまいましたが、あと3話くらいで完結です(たぶん)

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― 新着の感想 ―
うーん、これは左遷もやむなしw
首領可哀想w
お疲れさまのおやつ会ってなんですか? 人生で一度も開いてもらったこと無いんですが 勉強しまくったあとに、自分で甘ったるいミルクティー淹れるのとかがそれですか?
感想一覧
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