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闇の反射  作者: Mavi


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第17章 — 探偵、核心に迫る

真実は、いつも声高に名乗り出るとは限らない。

それは沈黙の重なりとして、違和感の連鎖として、そして偶然にしては出来すぎた一致として姿を現す。

眠りきった街の裏側で、誰にも気づかれずに歪みは広がっていた。

事故として処理された死。断ち切られた人生。

それらを結ぶ見えない糸に、ひとりの男だけが目を向け始める。

まだ彼は知らない。

その中心にいるのが、外から来た怪物ではなく、壊れやすい「誰か」そのものであることを。

夜更けの事務所に、時計の秒針の音だけが響いていた。

くろがわは椅子に深く腰掛けたまま、壁一面に貼られた資料を見上げている。

写真、地図、新聞の切り抜き、手書きのメモ。

それらは無秩序に貼られているようで、実際には一本の流れを形作っていた。

「……偶然、ではないな」

低く呟き、立ち上がる。

コーヒーはとっくに冷めていたが、口に含んでも味は気にならなかった。

最初の事件は半年前。

深夜、橋の近くでの転落事故。

次は河川敷。

その次は校舎裏の階段。

どれも「不幸な事故」として処理されている。

だが、くろがわの目には、ある歪みがはっきりと映っていた。

「全員……同じ方向を向かされている」

被害者の年齢も性別もバラバラ。

共通するのは、恐怖でも、金銭でも、恨みでもない。

――接点。

赤いペンで、ひとつの円が強く囲まれる。

ひかり

彼女の名前の周囲には、無数の線が集まっていた。

直接の知人。

間接的な関係者。

一度だけ名前を交わした程度の人物。

「……彼女自身が、意図していない」

くろがわは、机に置かれたノートを開く。

そこには、彼自身の癖のある文字で、こう書かれていた。

『加害者不在。だが、誘導者は存在する』

その言葉を書いたとき、確信はまだ弱かった。

だが、今は違う。

翌日、雨。

喫茶店の窓を流れる水滴を眺めながら、くろがわは向かいの席に座る少女を観察していた。

みか。

ひかりの友人。

カップを両手で包み、視線は下を向いたまま。

だが、逃げてはいない。

「最近、彼女と話したか?」

みかは一瞬、肩を強張らせ、それから小さく首を振った。

「……避けられてます」

「理由は?」

「……たぶん、私たちを巻き込まないため」

その言葉に、くろがわは眉をひそめた。

「巻き込む?」

みかは唇を噛みしめ、しばらく沈黙したあと、静かに口を開いた。

「……ひかりは……二人いるみたいなんです」

「二人?」

「笑ってるひかりと……笑ってないひかり」

くろがわは、ペンを握る手に力を込めた。

「後者は?」

「……助けを求めてる目を、してます」

その言葉は、彼の胸に重く落ちた。

「怖くはないのか?」

みかは、首を振る。

「怖いのは……彼女が、消えちゃいそうなことです」

店を出たあと、くろがわは雨の中を歩きながら、思考を整理していた。

人格障害。

解離。

防衛反応。

どれも説明にはなるが、説明だけで終わってはいけない。

事務所に戻り、ノートに新たな一文を書き加える。

『攻撃的な人格が主導権を掌握。目的性あり』

「……守るために、生まれたものが……」

彼は深く息を吸い、吐いた。

「今は、選別している」

誰を生かし、誰を切り捨てるか。

それを決めている存在がいる。

そして――

その存在は、ひかり本人ではない。

「……直接会うしかないな」

危険なのは承知の上だった。

だが、このまま放置すれば、取り返しがつかなくなる。

くろがわはコートを手に取り、事務所の灯りを消す。

夜の街に出た瞬間、どこかで――

見られているような感覚が、背中を撫でた。

それでも、彼は足を止めなかった。

核心は、もうすぐそこにあった。


夜は彼を包み込み、答えのない問いだけを残した。

何も終わってはいない。ただ、引き返せない場所へと移行しただけだ。

被害者と加害者の境界は溶け、敵という概念すら意味を失い始めている。

もし脅威が「守るため」に生まれたのだとしたら、それを止めることは、人間性そのものを傷つける行為になる。

街は何も知らぬまま、いつも通りの朝を迎えるだろう。

だが、次に待つのは調査ではない。

避けられぬ対面。

そしてその先で、誰もが同じ姿でいられる保証はなかった。

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