表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の反射  作者: Mavi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

第13章 ― 分裂

夜は、すべての輪郭を曖昧にする。

光と影、現実と幻想、そして「自分」と「自分でないもの」の境界さえも。


この街では、夜になると人の気配が薄れ、代わりに“何か”が目を覚ますと言われていた。

それは名前を持たず、姿も定まらず、ただ心の隙間に忍び込む存在。


あおいとみかは、その噂を否定するように歩いていた。

しかし胸の奥では、すでに理解していたのかもしれない。


今夜、ひかりを追って足を踏み入れる闇は、

もう後戻りのできない場所だということを。

夜の街は、静まり返っていた。

遠くの工業地帯にぽつりぽつりと光が灯る。

あおいとみかは、息をひそめながらその方向へ足を運ぶ。

ひかりが一人で歩く姿を、影のように追いかけるためだ。

「……ここで本当に合ってるの?」

みかが小声で問いかける。

背筋が寒くなるほどの静けさ。

あおいは答えず、ただ前を見つめる。

目の前の暗闇に、すでに何かが潜んでいる気がしていた。

倉庫の扉を開けた瞬間、ひかりの声が暗闇から聞こえた。

「りん……やめて……」

あおいは一瞬、息を飲む。

その声は確かにひかりのものだ。

しかし、声の奥には、別の存在の冷たさが潜んでいることに気づく。

「隠れる必要はないって言ったでしょ」

別の声。

ひかりの口から出ているのに、明らかに違う。

それは穏やかで、遊び心のある声――しかし、同時に恐ろしい冷静さを持っていた。

「りん……? そんなこと……やめて……!」

みかが思わず叫ぶ。

声が倉庫の壁に反響し、闇を震わせる。

その瞬間、あおいが箱につまずき、重い音を立ててしまった。

ひかりは振り返る。

その瞳――冷たく深く、底のない闇を宿していた。

もはや、ひかりのものではない。

「……ついてくるの?」

ひかりの口から、りんが語りかける。

その声に、あおいは体が硬直する。

まるで、闇そのものに呼ばれているかのようだ。

「や、やめて……お願い!」

みかの叫びが倉庫にこだまする。

しかし、りんは微動だにせず、ひかりの背後で微笑んでいる。

ひかりは何度も瞬きをする。

その度に、りんの存在が薄れては現れる。

そして突然、ひかりが崩れ落ちるように地面に膝をつく。

声は出せず、ただ呼吸だけが荒く震えている。

「……目を閉じた時……自分が誰かわからない……」

あおいは膝をつき、ひかりを抱き寄せる。

「ひかり……目を開けて……お願い……」

ひかりの体が微かに震える。

その背中に、りんの意思が残り、二人の存在が混ざり合う。

あおいの心に、恐怖と哀しみが同時に押し寄せる。

「ひかり……私たちがいるよ……」

みかが手を伸ばす。

しかし、手のひらが触れる直前、ひかりの体は微かに後ずさる。

「……触れたら、誰も傷つけずにはいられない」

りんの声が、無言で空気に染み込む。

倉庫の中の闇と光が交錯し、現実と幻想の境界は完全に溶ける。

ひかりの顔に涙が伝う。

「……どうして……私……こんなことに……」

あおいは、ひかりの手を握り、震える声で言う。

「大丈夫……私たちがいる……逃げないで……」

ひかりは微かに頷くが、瞳の奥に闇が残る。

りんの存在は消えていない。

むしろ、ひかりの中で、静かに力を増しているようだった。

「……もう、私だけの身体じゃない……」

ひかりの小さな声が、倉庫の静寂に溶けていく。



倉庫に再び静けさが戻った頃、夜明けはまだ遠かった。

闇は完全には消えず、ただ息を潜めているだけのようだった。


ひかりは、あおいとみかに支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。

その瞳には、かすかな光と、消えきらない影が共存している。


りんの声は聞こえない。

だが、それが「終わり」を意味するわけではないことを、三人とも理解していた。


人の心に宿る闇は、否定されるほど深く根を張る。

それでも、誰かの手を握ることで、かろうじて均衡は保たれる。


夜はまだ続く。

ひかりの中にも、街の奥にも。


けれど今は、確かに――

一人ではないという温度だけが、静かに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ