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闇の反射  作者: Mavi


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第12章 ― 歩美の証言

人は、本当に恐れるべきものが何かを、すぐには理解できない。

それは怪物でも、明確な敵でもなく、あまりにも身近で、あまりにもよく知っているはずの存在かもしれない。


昨日の出来事は、誰の口からも語られないまま、確実に日常を歪めていた。

教室に満ちる沈黙、避けられる視線、そして胸の奥に残る違和感。

あゆみとひかりは、それぞれの恐怖と向き合いながら、壊れかけた現実の中を歩いている。

やがて、光と影の狭間で、もう一つの意識が静かに目を覚まそうとしていた。

朝の教室は、昨日の事件の影響で、異様な静けさに包まれていた。

生徒たちは互いに視線を交わさず、低くざわめく声も最小限に抑えられている。

あゆみは席に戻るが、周囲の視線を避けるように頭を伏せ、動きはぎこちない。

笑顔は消え、肩は固くこわばっている。

まるで、自分の存在を隠すかのように、机の影に身を沈める。

ただ一人、ひかりだけは例外だった。

視線が合うたび、あゆみの胸に微かな衝撃が走る。

あの夜のこと――誰かを見すぎた視線、指先の感覚――それらが無意識にあゆみを引き寄せている。

昼休み、廊下は人影もまばらで、窓から射し込む光が長く影を落としていた。

あゆみは深呼吸し、手をぎゅっと握りしめる。

「……誰もいない……よね?」

彼女は小さな声でつぶやき、周囲を確認する。

安心を確認すると、ゆっくりとひかりに近づく。

「……待って……」

声はかすれ、震えていた。

ひかりは足を止め、重い空気の中で立ち尽くす。

時間が引き延ばされるように、廊下の光と影が二人を包む。

「私……何が起きたのか……わからない」

「全部は覚えていない……でも……誰か、他にいた……」

あゆみの目は恐怖と混乱で大きく見開かれ、手が微かに震えている。

ひかりは息を詰め、僅かに震える手を握りしめる。

「誰……?」

声は空気に溶け、微かに震える。

「君の顔をしていた……でも、君じゃなかった……」

その瞬間、廊下の壁に設置された金属製ロッカーに、二人の姿が映る。

ただの反射ではない。

冷たく、無言の監視者――それがりんだった。

「始めたことを、終わらせるべきかも」

低く、無感情に響く声に、ひかりは立ちすくむ。

瞳が冷たい光を帯び、まるで自分の中の別の意志が存在しているかのように動く。

「やめて……!」

あゆみは恐怖で一歩後ずさる。

心臓が口から飛び出しそうなほど早く打ち、息が詰まる。

「これは現実……? それとも幻……?」

思考がぐるぐると巡り、頭の中で言葉がまとまらない。

遠くから、くろがわが静かに観察している。

彼の目には恐怖や混乱は映らず、ただ冷静な分析だけが宿る。

「これは……人格の分裂、あるいは意識の二重化……」

誰にも言わず、心の中で推測を重ねる。

廊下の静寂は重苦しい圧力となり、三人を包み込む。

あゆみの呼吸は荒く、ひかりは微かに震え、りんの存在は無言のまま、二人の間に冷たい壁を作る。

「やめて……お願い……」

ひかりは、自分の内部で、もう一人の存在――りんと対話しようとする。

しかし、言葉は出ず、心だけが叫ぶ。

あゆみの恐怖がひかりの内面に映り込み、罪悪感を増幅させる。

「……ひかり、怖い……でも、私は……知りたい……」

あゆみが震える声で続ける。

「あなたが……何をしたのか……どうして……」

ひかりは微かに眉をひそめ、言葉を探すが、りんが静かに目の前を支配している。

廊下に映る三つの影――

ひかり、あゆみ、そしてりん。

光と影が交錯し、現実と幻想の境界は曖昧になっていく。

「触れたら……何か壊れる……」

あゆみは心の中でつぶやき、一歩踏み出す勇気を振り絞る。

しかし恐怖以上に、理解したいという好奇心が彼女を止められない。

ひかりは一瞬、目を閉じ、深呼吸を整える。

りんの視線が、冷たくも安定感を伴って自分を捉えているのを感じながら。

恐怖と好奇心の狭間で、ひかりは小さく頷くしかなかった。

「……わかった……でも……私、もう……逃げない」

ひかりの小さな声に、あゆみは少し安堵し、震える手を緩める。

光と影が交錯する廊下で、三人の関係は張りつめたまま静かに続いた。

それは、嵐の前の静けさのように――

次の波がいつ来るか、誰にも予測できないまま。


廊下は、やがていつもの静けさを取り戻した。

まるで、何事もなかったかのように。


だが、三人の中には、決して消えない亀裂が残されていた。

あゆみは知ってしまった――恐怖の先にあるのは、安心ではなく、さらなる真実だということを。

ひかりは理解し始めていた。逃げ続けることよりも、向き合うことの方が、ずっと残酷であることを。


そして、反射の向こう側で、りんは静かに見守っている。

感情もためらいもなく、ただ「続き」を待ちながら。


答えはまだ出ていない。

現実と幻想の境界は曖昧なまま、物語は確実に次の段階へと進んでいく。

それは終わりではなく、戻ることのできない始まりだった。

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