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「第九話」はじめてのおつとめ

 「ふん、ふん、ふーん~」


 帰り道。誰がどう見ても上機嫌。

 その通り、私は今、超絶ゴキゲン絶好調なのである。

 

 何故か? そりゃあ、私の腰にぶら下がっている”これ”をさっき親父から受け取ったからである。


 『ゴキゲンだな。巫女ってのはたかが刀一本でそんなに楽しめるもんなのか?』

 「当ったり前よ! なんたってこれは……」


 親父の刀だから。そう言いかけて、やっぱり恥ずかしくてやめた。


 巫女としての見回りに行こうとして、玄関先で呼び止められた。……そのまま「必ず返せ」とかいかつい顔で渡してきた、一振りの刀。

 あの人にとって自分の刀は命だ。それを私に預けてきた……つまりそれは、親父が私を認めてくれたってことなんだ。

 

 『ま、どうでもいいけどよ。どんなにいい刀でも霊力が使えなきゃ意味ねぇだろ? 宝の持ち腐れなんじゃねぇの?』

 「失礼ね、アンタ。……あのね、私だっていつまでも昔のままじゃないの。使えるようになったわよ霊力ぐらい」

 『へーぇ、結界術どころか碌な術も使えないのに?』

 「……き、斬ればいいのよそんなの! 見てなさい、今度私に依頼が来たら、アンタの力を借りずに祟神をぶった斬ってやるんだか」

 

 ──ぎゃあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 ……近い、すごく近い。

 人の叫び声だ、近くでなにかあったんだ。


 「っ!」


 迷いは無かった。私は勢いよく走り出し、声のした方へと駆け抜けていく。


 「ひっ、ひぃいいっ……たっ、たすけてぇ」


 そこには、腰の抜けた男が一人。血がドクドクと流れる肩を抑え、ガクガクと震えながら後ずさっていた。──そしてその眼前。そこには、巨大な大蜘蛛のような化け物が涎を垂らしていた。


 (祟神!)

 「ひいいっ、ひっ……ああ、来るな来るなぁ!」


 デカい! いや、そりゃああの時の【山神】よりは当たり前にマシだが、それでも私からしたら見上げるぐらいデカいぞ!?


 柄に伸びる手が躊躇う。

 そこに、涙と鼻水まみれの男の目線が突き刺さる。


 「……! み、巫女様! 助けてくれぇ、オラぁまだ死にたくねぇ!!!」

 「──ッ!」


 そうだ、私は誓ったじゃないか。

 立派な巫女になると、お父さんや妹たちが心配するのをやめるぐらい強い巫女になるって!


 「はい! 今助けます!」


 握りしめた柄を鞘から引き抜き、そのまま構えて走り込む。……思い出すのは、【空舞】により空を駆けたあの時の感覚。


 (少しだけ霊力を、込める……!)


 極度の集中を以て、最小限の霊力を手から刀に伝わせる。不安定、纏い具合にムラもあるし粗もある……が、今はこれでいい! 通じるならば、刃が肉に通り骨を断つのであれば十分だ!!!


 「でぇえりゃああああああっっ!!!」


 大蜘蛛の祟神がこちらに気づき、その両腕に携えた手鎌を垂直に振るってくる。ガギン! 太刀を以て受ける。重い! 鈍い、今にも両足が大地にめり込みそうなぐらい……だが、これならっ!!


 「──【逸落とし】ッッ!」


 敢えて、受けに用いた太刀の切っ先を地面へと倒し……相手の攻撃の勢いを利用することにより、逸らす! 今までずっと見てきた、親父の技のうち一つ! ──隙まみれ。二撃目が空を撫でる頃には、既に私は大蜘蛛が見上げるほど高い位置まで跳んでいた!


 構える、大上段の構え。

 これより放つは斬るというよりは叩き割るに近い力業!


 「──【大嶽割】ィ”ッ”ッツ”ッ”ッ”ッ”ッ”!!!」


 見上げた頭蓋に刃を叩きつける! 砕ける頭蓋ひしゃげる脳髄そのまま真下へと斬り潰されていくその肉体から飛び出る血飛沫に怯むこと無く、私は全体重を刃に乗せ……振り、切ったッッ!!!


 ぶしゃあっ。私の着地と同時に斬り潰された部分から吹き出す鮮血、倒れる大蜘蛛の巨体。……黒い煙を吹き出しながら、その肉体は少しずつ塵になっていく。


 「はぁ、はぁ。……あっ」


 そうだ、あの人。私は手早く血振りを済まし納刀し、仰向けに倒れている男性のもとに駆け寄った。


 「大丈夫ですか!? 怪我とか、なにか……」

 「……いや、大丈夫だぁ。うん、死ぬかと思ったべ……ありがとう、巫女様」


 目をグルングルンにして青ざめている男性。まぁそりゃそうだ、あんだけデカい祟神に食い殺されかけたのだから……寧ろ失禁して意識を失っていないだけ肝がデカい方だ。


 「取り敢えず止血しますね。血が出すぎると死んじゃうので」

 「ああ、ありがとう……ありがとう……」


 持っていた手ぬぐいで肩を結ぶ中、私は少し、いやかなり興奮していた。

 祟神を一人で倒した。巫女として、カゲルの手を借りず、自分一人の力で。


 (……嬉しいなぁ)


 ぎゅっ。手ぬぐいを肩に結んだのちに、男性をよっこらせと背負い込む。 

 

 「近くの村まで送ります。えっと、私実はここらへんの土地に詳しくないので……道とか、分かります?」

 「ああ、勿論だぁ」


 私は男性の案内のもと、傷に響かないようにゆっくりと道を歩んだ。


 『……妙だな』

 (えっ、どしたの急に)


 怪しまれては面倒なので小声で問う。


 『別に、独り言だ』

 (そう言われると逆に気になるんだけど……)

 『ってか、やるじゃん。まぁまさか速攻で有言実行するとは思ってなかったが』 

 (お、おお……ありがと)

 

 褒められた。

 あのカゲルに、メチャメチャに強いカゲルに褒められた。……嬉しいな、素直に。 


 『因みにお前の心の中は筒抜けだぞ』

 「っ!? アンタそれ先に言いなさいよ!!!!」 

 「ひいっ! すみませぇん!」


 あっ、ヤバい。

 ついでかい声で喋ってしまった。怖がらせてしまっただろうか?


 「ああいえその、その……ははっ、ごめんなさい……」

 「ええっ? ……あっ、見えてきただよ」


 かなり気を遣わせてしまったことに申し訳なさを感じながらも、私は男性が指差した方を見た。そこには遠目からでも中々に規模が大きいと分かる村が、ちらほら見える人の姿とともに見えた。


 「……んん? のわっ!? 巫女様……それにゲンさん!?」

 

 持っていた米俵をほっぽり出し、髭を生やした男性がこっちに駆け寄ってきた。ゲンさん、というのは多分この人の名前のことだろう。


 「どうしたんだその怪我!?」

 「なはは、まぁ……探してる途中で祟神に襲われちまってな。そこをこの巫女様に助けてもらったんだべ」

 「はぁ……取り敢えず手当てしよう。巫女様、そいつを……」


 言われるがままに私は、その髭面の男性にゲンさんを引き渡した。米俵のように軽々と彼を抱えたまま、「よければ私の家においでください」と言われた。

 

 ぐぅぅぅう。

 カッコつけようとしたが、腹の虫はそうはさせてくれないらしい。私は腹のあたりを押さえながら、お言葉に甘えることにした。




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