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「第二十四話」不意打ち

 

 「【神縛威】ッッ!!」

 「【天喰】ッッ!!!」


 衝突する鎖刃と黒炎。余波により、壁も地面も天井も揺れっぱなしだ。


 【神縛りの鎖】を操る久怨の攻撃は縦横無尽の範囲攻撃だった。攻撃そのものを避けるというよりも、攻撃によって崩れていく岩石の破片を避けることが重要だということに気づかなければ、私は今頃生き埋めになっていただろう。

 

 【空舞】で空中戦が出来ているからまだいいが、もしもこの絶技を使えないまま地上戦をすることになっていたら……この落石と鎖刃の嵐を思うとゾッとする。


 (それでも、近づけない……!)


 一撃一撃が即死級なことに加え、結界術による妨害と自己強化も怠らない。

 

 記憶の中でのツバキとの戦いから推測するに、久遠という巫女は”器用貧乏”という言葉に尽きる。結界術、体術、神との契約による”権能”の行使に関しては、そもそも一人の巫女が複数の紙と契約している時点で壊れている。


 なにか一つが秀でているとか欠けているとかではない。全部が高水準で、穴の無い堅牢さを誇る。なにかを犠牲にした付け焼き刃で一点突破を試みようものなら、たちまち別の角度から負ける。……彼女はまるで堅牢な要塞だった。


 『ヒナタ』

 「!?」


 カゲルだった。久怨の攻撃を避けて相殺しながら、同時並行で私に語りかけてきていたのだ。


 「なに!?」

 『喋るな! 俺達がこうやって会話できることはアイツにはまだバレてねぇんだ、黙って心の中で返事してくれ』

 (わ、分かったわ。……それで?)

 『もう分かるとは思うが、コイツに真正面から挑んで勝つのは無理だ。悪ぃけど結界術やらこの前の火傷やらで俺もあんま無茶はできねぇ……だから、お前がやるんだ』

 (わ、私!?)


 とてもこの攻撃の嵐を避けるので精一杯の巫女に言うセリフではなかった。


 『幸い、コイツはあくまで俺だけを脅威として認定してる。だからコイツは俺が引き受ける、その隙にどうにか久怨を……終わらせてやってくれ!』

 (────)


 荷が重いとか、怖いとか。

 そういうのもあったけど私は、何故か興奮していた。いいや分からないふりをするなんてとんでもない……分かってる、私は今、場違いにも興奮していたのだ。


 (──ええ、任せなさいな!)


 嬉しかったんだ。他の誰でもない、コイツに頼られたのが。

 出会ってからいっつも助けてもらってばかりだった私が、ようやくコイツを助けることができるのが、たまらなく嬉しかったんだ。


 『じゃあ……頼んだぞ!』

 (ええ!)


 周囲の霊力の”流れ”が、ほんの少しだけなにかに引き寄せられるような軌道を描く。

 その先には、今までで一番霊力を纏い放つカゲルの禍々しくも神々しく、頼もしい姿があった。


 「お前と喧嘩すんのは初めてだったな」

 「……祟神風情が」


 舌打ち。

 次の瞬間、久怨の叫声が響き渡る。


 「ひぃぃぃぃくぅぅぅいぃぃぃのぉぉぉかぁぁぁみぃぃぃぃぃぃぃぃっッ!!!!!!」


 久怨の鎖、その他の祟神の”権能”を用いた攻撃は露骨にカゲルを狙い始めた。

 【神縛りの鎖】は当たればその時点で動きを封じられてしまう。”流れ”を知覚した今だからこそ分かるが、あれは神を殺すためだけに存在する呪具……いや、怨念の塊だ。


 (でもその分、私への注意が鈍る!)


 掠れば終わりとはいえカゲルはカゲルだ。あの滅茶苦茶な力を内包する神を殺すのは、如何に本気になった久怨でも骨が折れるはずだ。──当然、隙が生まれる。不意打ちのための隙が。


 【空舞】を用いて大回りな円を描きながら久怨の視界へと潜り込む。カゲルへの攻撃が集中している間に背後へと回り込み、一気に彼女の首を断ち切るべく、気づかれないようになるべく音や周囲の霊力を乱さない……卑怯かもしれないが、それしか私達がこの戦いに勝つ方法はない。


 カゲルは満身創痍だ。


 今も互角の戦いを繰り広げながら注意を引いてくれてはいるが、彼自身の火傷は完治していない。加えてさっき久怨が展開した大結界の効力は彼にも影響を及ぼしており、いつもより霊力の出力が落ちている。

 

 おまけに私がいるこの場所に来るまでに黒炎を相当使っただろうし、前回のような神域を用いて一気に決着をつけることは不可能。……それは即ち、久怨に神域を先に使われれば終わりだということだ。


 やられる前にやらなければならない。


 「ひぃいくぅううぃぃいのぉぉおかぁぁみぃぃいいいいいいっっッッ!!!!!」

 「くぅぅうぅぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおんんっっッッ!!!!!」


 カゲルと久怨との間に巻き起こっているのは最早戦闘ではなく災害そのものであった。

 振るわれる鎖、舞い散る岩石の破片、黒炎の流れ弾。それら全てを最小限の動きで回避しながら……遂に私は、久怨の真後ろへと到達した。

 目の前のカゲルに精一杯で全く気づいていない。今なら、背後から殺せる!


 (ごめん、久遠!)


 多少引っかかる部分はあれど、それが刃を鈍らせる要因にはなり得ない。

 妹にかけられた呪いを解くために、久遠とツバキの因縁を今度こそ終わらせるために……そして、カゲルの友達にこれ以上罪を重ねさせないために!!!!


 ──遂に彼女のうなじを、間合いにて捉える。


 握りしめた刃に霊力を流し込む。

 この一太刀で、全ての因縁を斬り伏せる。──真横。振り切る刃のその先には、カゲルが。


 「────罠だ!」

 (えっ)


 ……いいや、ここで決める。首を切ってしまえば。

 あ。

 目が、久怨の目が、こっちを向いている。


 笑っていた。


 「お前も、アイツと、同じだ」


 振るう刃。──軋む、止まる。首に放ったはずの刃は、振り向いてきた久怨の口元でしっかり挟まれていた。


 (歯で受け止められた!? やばい、このままじゃ折られ)


 バキィン! 思考した次の瞬間には、刃は久怨に噛み砕かれていた。鉄片が宙を舞い、乱反射して輝く。……それを突き破るかのように、久怨の引き攣ったような笑みが迫ってくる。


 「死ね、卑怯者」


 どちゅっ。

 臓物が潰れて、混ざる音がした。

 




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