今日の夕食は何?
僕は今家族と夕食を楽しんでいます。
向かい側には父さんと身籠った母さんが、僕の隣には妹が座っています。
僕もみんなも笑顔で談笑しながら食事しています。
今日の夕食はビーフシチューです。
肉が柔らかく、ご飯にもよく合います。
「なんだか今日の肉は特別旨いなぁ~。」
「そうねお父さん。 今日のは特別いい肉を使ってるからね。 春香もそう思うでしょ?」
「うん! このお肉美味しい!」
「母さんこの肉は何の肉だったかな?」
「もうお父さん忘れちゃったの? あれよあれ。」
「あ~! すっかり忘れてたよ。 俺もボケてきたかなぁ。」
みんな楽しそうで何よりだ。でも僕も気になっている。
この肉ってなんの肉なんだろう。 今まで食べたことがない味と食感だ。
「と、父さん。 この肉ってなんの肉なの?」
「ん? なんだお前まで忘れたのか?」
「うん......ごめん......」
「別に怒ってるわけじゃないさ。 父さんもさっきまで忘れてたしな。」
「この肉は海斗君だよ。 まったく忘れちゃダメだろ。」
「か、海斗君......?」
明らかに人の名前だ。 もしかして僕は人の肉を食べてしまったのだろうか。
いやきっと何かの間違いだ。 人間の肉がこんなにおいしいわけないし......
「海斗君ってこんなにおいしいんだね! 春香知らなかったなぁ~。」
「ちゃんと味わって食えよ。 一点ものだからな。」
「そうね。 でもこれからメインディッシュが待ってるし、早く食べちゃいなさい。」
何だろう......違和感がある。 一点もの......海斗君......真実がすぐそこまで出かかっているのに、わからない。
「それじゃあそろそろメインディッシュと行くかぁ!」
父さんは勢いよく席を立ち、近くに置いてあった鉈を手に取った。
「よし!準備はいいか? 春樹君?」
父さんは突然僕の名前を呼んだ。
「父さん......? どうして僕に鉈を向けるの?」
「そりゃメインディッシュだからなぁ~。 いつまで記憶喪失のふりしてんだ?」
「お父さんったらしょうがないじゃない。 目の前で見せられたらこうもなるでしょ。」
「お父さん早くしてよ~。 兄弟丼で食べたいんだからさぁ~。」
「おう! 今解体するからな!」
「え......あ......ああ......」
そうだ......思い出した。 この家族は本当の家族じゃない。
あの日、僕は弟の海斗と一緒に森に探索に出掛けていた。
そして、このイカレた家族に捕まって、海斗は......目の前で......
「お、おぇぇぇぇ......」
僕は吐き出した。 この肉をそう呼んでいたということは......僕は、弟を......
「おいおい、もったいねぇなぁ。 ちゃんと食べてあげろよ。 兄貴なんだろぉ?」
「もういいでしょお父さん。 早くしてちょうだい。」
「すまんな母さん。じゃあ大人しくしてくれよ。 春樹君?」
ダメだ......逃げれない。 この森にどう来たのか、どう連れ去られたのかわからない以上、逃げても無駄なんだ......
「よいしょっと!」 僕の首は簡単に切り裂かれた。
僕は真っ暗な世界にいた。 何も見えないし、何も感じない。
でも、聞き覚えのある声がする。
その声はだんだんと近づいてくる。 誰だろう。 海斗か......?
海斗がいれば僕は何だってできる。
そう思っていると、男の声が聞こえてきた。
「母さん生まれたぞ! 今日からこいつの名前は春樹君だ!」
僕はあのイカレた父親に抱き上げられていた。