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流青群は柊に舞う  作者: ノスケ
第二科【蟻の思いも天に届く】
6/22

〈四類 蒼灯籠とお狐様〉

 菫は『雲雀村伝説』の内容を語り始めた。

 『雲雀村伝説』の原本は時任家にあったらしいのだが、あまりに資料が多く紛失してしまったらしい。資料の整理も兼ねて、菫は文献を探していたがまだ見つかっていないそうだ。

「今から話すことは先祖から伝え聞いた話になります」

 菫によれば、『雲雀村伝説』は平安時代の人々が経験したことを書き記したものであるそうだ。『雲雀村伝説』が書かれた当時、雲雀村は村の外から襲撃を受けていた。

 源氏と平氏に追い出された勢力が雲雀村に逃げ込み、侵略を始めたのだ。村は瞬く間に半壊し、支配されそうになったという。

「え!? それかなりまずくないですか?」

「お狐様がそのときに助けてくれたと伝えられています」

 お狐様とは九尾の狐のことである。他の九尾の狐との争いに巻き込まれ、中国から日本に追い出されてきたものが雲雀村に住み着いたらしい。

 当時村人が偏見なく助けてくれたことから、お狐様は雲雀村を救おうとした。

 しかし雲雀村に来てから数年であったため体は完全に回復しておらず、勢力を止めるために戦ったが尻尾を三本も失ってしまった。そのため雲雀村にあるお狐様の銅像の尻尾は六本だと決まっている。

 お狐様が困ったとき、どこからか仮面を被った男が現れたのだという。彼の名前はヒイラギ。ヒイラギはお狐様の力をうまく扱える能力があった。

 お狐様は最後の力を振り絞って祈り、怒りの人魂を作り出した。人魂の炎は温度が上がり青色となった。ヒイラギはその炎を壺に入れて、敵に向かってぶつけたのだ。

 敵は燃えなかったが、まるで毒に苦しむようだったそうだ。その炎は蒼灯籠と呼ばれるようになった。灯篭は中国で生まれたという説があり、九尾の狐であるお狐様と併せてそのようになったのだろう。

 蒼灯籠の力によって争いは鎮まった。しかし蒼灯籠が散った後お狐様は消え、ヒイラギと名乗る青年も消えるようにどこかへ行ってしまったのだという。

「蒼灯籠……私が調べた話と似てる!」

 菫が話している最中、仮面の男はある本を四人のいる部屋に置いた。資料と菫の話に夢中になっていた春馬たちは全く気付かない。仮面の男は本を置いた後、そっと部屋を出て行った。

「驚いたな、ホタルには毒があるんだ」

 資料を読んでいた春馬が口を開いた。しかし春馬によればホタルの毒性は弱いものが多く、噛みついたりするわけでもないため人間への害は本来無いそうだ。

「昔のホタルは毒性が強いって可能性もありますよね!」

 茜は食い下がらない。きっとどうしても蒼灯籠をホタルにしたいのだろう。

「私が聞いている話は以上です」

 菫によればまだ資料の整理は完全には出来ていないらしい。四人はさらに関連する資料を探すことにした。暫くして、春馬がある文献に気づいた。

「あった!」

 それは紛れもなく『雲雀村伝説』であった。菫は『雲雀村伝説』があればすぐに気づく、さっきまではそんなものは無かったと首をかしげている。

 ひとまず四人は目の前にある『雲雀村伝説』を読んでみることにした。文献、というよりも巻物という感じだった。書かれている文章は平安時代の文字であった。

 民俗学を専攻している茜、資料の管理者である菫、資料館に勤めている里穂は比較的簡単に解読することができた。一方の春馬は一切読めなかったが、三人から話を聞くことで理解を深めることができた。

 『雲雀村伝説』には主に、菫から聞いた話が詳しく書かれていた。また、絵もより鮮明に描かれており、ヒイラギと名乗る青年はやはり春馬に似ていた。

 そして終盤には、やはり「あかき水のもとで蒼き光群るるとき、やんごとなき狐の人影(ひとかげ)映しいださる」と書かれていた。

 しかし平安時代の文献であり状態も決して良いとは言えなかったため、この巻物を読むのには相当な時間がかかるように感じた。

 菫の話では前半の物語は村にも広まっているが、それ以外は外部に公開していないそうだ。

「菫さん、この狐の人影って何のことなんですかね?」

 茜は春馬と考えても分からなかったところを質問した。菫は急に下の名前で呼ばれたことに驚きつつも、説明をした。

「それはおそらく狐者(こしゃ)ですね」

「「狐者?」」

 狐者という言葉は三人とも聞いたことが無かった。菫によれば、狐者とはお狐様に仕える存在で、柊という青年もその一人なのだという。

 人には見えず、しかしお狐様と人々を繋ぐ架け橋のような存在とのことだった。仮面の男は頷いている。

「亡くなった方や神隠しにあった方の一部がなるとされていますが、詳しいことはよく分かっていません」

 狐者に関する情報は『雲雀村伝説』にもあまり載っていなかった。それ以外には、蒼灯籠は消えることはなく、山の中にずっといるということが書いてあった。

「つまり繁殖しているってことだな!」

 具体的な生息地は書かれていなかった。載っていた文を訳せば、山に赤い水を流せば鏡から蒼灯籠が現れるとなるが、四人とも何を意味しているのかを理解することは出来なかった。

 夏の雨上がりに現れるという他の条件も書かれていたが、春馬によればこれは普通のホタルの特徴と変わらないものであるらしい。

 蒼灯籠がホタルである可能性を高める文章ではあったが、それ以上の進展は無かった。

 春馬たちが唸っている最中、仮面の男は部屋に入ってきた。気づいた人物は誰もいない。仮面の男は傍で春馬たちの話を聞くことにしたようだった。

 その後、あかき水の文の解釈について四人は話し合うことにした。

「条件付きで現れる昆虫なんて聞いたことないぞ?」

「赤い水って何でしょう? もしかして血?」

 春馬は首をかしげている。里穂と茜も考えるが、まったく結論は出なかった。

 条件とは別に、一つ気になることが書いてあった。山に入れば狐者に会えるが記憶が霞んでしまい、朧となる、と。その後のページは不自然に破かれていた。

「青い光が群れるって、普通にホタルじゃなくても平気なんですかね?」

茜が疑問を呈した。里穂がそれに反応する。

「あー、普通に青い光を出せば見れるんじゃないかってことですか?」

「そうそう、そうです! こうやって……」

茜はリュックに入っていた懐中電灯を菫の家にあった青いセロハンで覆った。

「これなら青い光出せますよね! あ、この懐中電灯は先生にあげますね! 山探すときに困りそうなので持ってきました!」

「ありがとう、ただこれで見つかるとは到底思えないな……ライトトラップも青色なんて聞いた事は無いし」

「私も効果は無いと思います。一度試してみましたが、特に何かが見えることはありませんでした。私が狐者の居場所を知らないからかもしれませんが」

「あー、だから青いセロハンが部屋にあったんですね」

菫は落ち込んでいた。茜は話を逸らそうと、もう1つ気になったポイントを話した。

「この狐者に会えるって言うのがポイントですよね!」

「まぁそっちはどうでも良い。青いホタルに関する情報はもうないのか?」

 春馬はそれには興味がない様子だった。あまりに冷徹な春馬に、茜が突っかかる。

「どうでも良いって! 死んだ人に会えるかもしれないんですよ! 先生は会いたい人とかいないんですか?」

 仮面の男は春馬を見る。自分を指さしてアピールするが、春馬は気づかない。

「いや、特にいないな」

 仮面の男はずっこけた。仕方ないという顔をしながらも、その表情はどこか寂しげであった。

 溜息をついた後、仮面の男はパチンと指を鳴らした。鳴らした瞬間、春馬の頭に一つの記憶がよみがえった。

「僕はここに来たことがある」

「「え!?」」

 春馬の唐突な発言に三人は驚いた。

「あるんですか!?」

「うん、小さいころに雲雀村の山に入って、そこには確かに青いホタルがいた」

 一番驚いているのは春馬だった。

「どうして忘れていたんだろう? だからずっと気になっていたんだな、青いホタルが」

「それも朧となった記憶の影響かもしれませんね」

 菫によれば、蒼灯籠で朧となった記憶はきっかけがあれば思い出せる例もあるそうだ。春馬が具体的な場所を思い出せないのもそれが原因だという話になった。

「ただこれで青いホタルはいるとわかった。行ってくる」

「え? 行ってくるって?」

 春馬が急に立ち上がったので、茜は驚きながら聞いた。

「もちろん山探しにだよ。これ以上ここでできることはない」

 春馬はフィールドワークに行くつもりだった。茜には春馬の行動力が理解できなかった。

「どうして行く気になるんですか? また記憶が無くなるかもしれないんですよ!」

「青いホタルを見たい。それだけだよ」

 春馬はたとえ記憶が無くなっても、青いホタルを見て研究をしたかったのだ。

 菫は『雲雀村伝説』を解読することに注力することにした。

「新しい情報が出次第、お伝えします」

「助かります」

 里穂は実家の宿を二人に紹介してくれると言った。それは宿をまだ見つけていない二人にとって、とてもありがたい申し出であった。しかし、

「ありがとうございます。でも……本当に行くんですか?」

 納得できていないのは茜だけであった。

「行く。茜君のおかげで助かった。ありがとう」

 春馬の目は覚悟の色をしていた。茜は最後に忠告した。

「……山を見つけて登る前には言ってください」

 春馬は頷いた。

「先生も宿は必要でしょうからご案内します。では向かいましょうか」

 菫に礼を言い、三人は菫の家を出た。いや、正確には四人。仮面の男も一緒に。

 仮面の男は三人が車で走るのを見送った後、口を開いた。

「やっぱり覚えてねぇか……まぁいいや、そろそろ始めますか!」

 仮面の男は顔を叩いて気合を入れなおし、山の中へ消えて行った。


 仮面の男が立ち去った後、蒼い光が人の形に集まった。光が消えると、そこには一人の少女がいた。歳は高校生ほど、制服を着ていた。

「あれ?ここは…私何してたんだっけ?」

 少女は自分に何が起こっているのか理解できなかった。周りを見渡すと、男がたどたどしく歩いていくのが見えた。

「今の人、どうしてお面着けてたんだろ……」

 少女は仮面をつけた男の後を追った。少女の名前は、水上咲葵(みずがみ さき)


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