〈四類 茜は色づく〉
「全部聞いた。茜、あのときは突然いなくなってごめん」
咲葵はトランシーバーを仕舞って言った。そして、自分は狐者であることを明かした。茜は絶対にそうだと思って行動してきたので、大きく驚く事は無かった。
「暫く混乱してたけど、やっと記憶が戻ってきた。どうして私がこうなったのか」
咲葵は狐者になる前、水神家の神社へ向かったときのことを話した。石には触れることは出来た。しかしその帰り道、足を踏み外してしまったのだ。
「慣れてるから大丈夫だと思ってたんだけどね。正門を避けたのが失敗だった」
咲葵はいたずらっぽく笑って話した。茜はうつむいている。
「ごめん、私が一緒に行っていればそんなことには……私、怖かったの」
茜は、自分が断った後咲葵が納得してくれたことに安堵していた。そんな自分に今でも嫌気が差していた。
「気にしなくていいよ。私も怖かったの」
咲葵はそれを紛らわすために茜を利用しようとしたことを話した。お互いに謝ったが、茜の嗚咽は止まらなくなった。
「でも、そのせいで咲葵は苦しんで死ぬことに……」
「ちょっと泣かないでよ!」
咲葵は茜らしくないなぁ、と笑った。
「まぁ、さっきよりは茜らしいけどさ」
「……ごめん。私どうかしてた。咲葵が死んで、急に一人になったように感じて。それなのに文句言ってる咲葵の親にもイライラして。お狐様を恨んで」
「だーかーらー、そういうのが茜らしくないって言ってんの!話は最後まで聞いてよ」
咲葵はその後急に青い光に包まれたことを話した。その光の中には狐の影が見えて、そこからは記憶が無くなった。
「青い光?」
「そ、ネタバレしちゃうとこれなんだけどね。蒼灯籠の光」
咲葵はそこから四年くらい経って、最近目が覚めたことを伝えた。
「五年も?」
「なんかラグがあるんだって」
茜が前回ここに来たときには咲葵はまだ狐者ではなかった。だから条件を満たしていたのに会えなかったのだと、茜は納得した。
「記憶が曖昧だったのは光を浴びたせいだって冬馬さん、あ、さっきのイケメンね。が言ってた」
どうやら咲葵は冬馬に心酔しているようである。
(確かに学生時代も面食いだったな)
「今何か考えたでしょ?」
「い、いや何も!」
咲葵が勘繰るように見てきたので、茜はなんとかごまかした。
「あれ、じゃあお狐様って……?」
「私たちが思ってたものとは違うみたい」
冬馬から聞いた話だと、お狐様が村を離れているうちに自分を鎮める家系まで出てしまったらしい。咲葵はうちのことだね、とあきれて言った。
「これに関しては私が悪いよ、ちゃんと調べてなかったんだから。ごめん、茜」
「いや、私が止めてればこんなことには……」
咲葵は茜のせいではないことを、目を見て説明した。もう未練が無いことも伝えた。
「でも……親に未練は無いの? あの後咲葵の親、凄い怒ってて」
「あー、そっか。茜はあの事件の後に村を出たんだもんね。知らなくて当然か」
茜には咲葵が何を言っているのかさっぱり分からなかった。咲葵は狐者になってから久しぶりに実家を訪れたことを話した。
「一応様子見にね。そしたらびっくりした」
お狐様の仕事は無くなっており、咲葵の両親はとも穏やかになっていたのだ。おそらくお狐様がうまくやってくれたのだろう。咲葵が過ごした部屋には咲葵の写真が大事に飾ってあった。
「私、それ見たら小さい頃は楽しかったなって思い出したの」
「私、どうして確認に行かなかったんだろ……」
咲葵の親が、家のこと以外では咲葵を可愛がっていたことは茜も知っていた。ちゃんと大切にしていたのを知っていたのに、あのときはとにかく腹が立ってそこまで思考を巡らせることができていなかったことを茜は悔やんだ。
「それは仕方ないよ。怒ってくれたくれたことが嬉しいし!」
咲葵はこれから狐者としてやっていこうと思っていることを話した。その目は輝きを取り戻していた。
「ただ、茜に言いたいこと伝えずにいなくなるのは嫌だった!」
「私に……伝えたいこと?」
咲葵は茜に、過去に囚われずに生きてほしいことを伝えた。
「自分を大切にしてくれてるのは嬉しいけどさ、茜にはそう生きてほしい! お互い場所は違うけど、それだけの違いだよ!」
「それだけの……違い……」
茜はこの世界、咲葵は狐者の世界、頑張る場所が違うだけだと茜は気づいた。
「そう! 茜ならやっていけるよ!」
だからこそ、今周りにいる人を大事にしてほしいと咲葵は話した。
「私には茜が一人だとは思えなかったよ」
茜は今の自分の周りに居てくれている人を思い浮かべた。里穂さん、薫さん、そして……
(そうだ、私春馬先生にとんでもないことを……)
茜は春馬に謝ろうと決心した。
「もとはと言えば私が原因だし、私も一緒に謝るよ!」
咲葵もついていくと言ったが、茜は涙を拭いて断った。
「いや、私一人で行くよ」
「え? でも……」
「一人で行かせて。あのとき咲葵に付いていかなかったのに今は付いてきてなんておかしい話でしょ?」
咲葵は心配している。茜は自信をもって咲葵に宣言した。
「許してもらえなくても謝りたい。咲葵が言ってくれた通りだよ」
(私は一人だと思ってたけど全然違った。春馬先生も里穂さんも菫さんも、皆私を助けてくれた)
茜の目を見て、咲葵は頷いた。
「分かった、じゃあ私は応援してるね。ずっと遠くからになるけど!」
「うん……ありがと!」
「いってらっしゃい! 冬馬さんたちはあっちに行ったから」
茜が咲葵の指差した先を見ると、確かに冬馬と春馬がいた。
「会えてよかったよ、最後に」
咲葵は面を被り、姿を消した。
「え?」
茜が振り向くと、もうそこに咲葵は居なかった。
「咲葵!?」
茜は辺りを見渡したが咲葵が見つかる事は無かった。
「……ありがと」
茜はそう一言呟いてその場を後にした。その足取りに、迷いはなかった。
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