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流青群は柊に舞う  作者: ノスケ
第五科【蛍が照らす道しるべ】
16/22

〈三類 光と毒のはざまで〉

 授業が終わり、菫は椅子に座りなおした。教科書をしまっていると、友人が二人やってきた。友人らは菫に話しかけた。

「あ、お疲れ~。昨日の番組? 見たよ! そうそう!あそこめっちゃよかったよね!」

「え? その後のお笑いは見てないな……ごめんね。来週は見ておく!」

「……そうなんだ。二人とも忙しいんだね」

 友人らは委員会の仕事に行くらしい。菫は教科書を出して、

「私も次の準備しないと! バイバイ!」

 菫は委員会に行く二人を見送った後、暫く教科書を眺めた。その後、机の中にしまい、突っ伏した。その教科書はさっきの授業で使ったものと同じであった。


 里穂が菫と同じ中学の人から聞いた話では、最初は頑張っていたようだった。しかし無理は長くは続かず、次第に喋らなくなってしまったらしい。

「そうだったんですね……」

「菫、小学生の頃言ってたんです。将来は必要とされる人になりたいって。そのために勉強も頑張っていい中学に入ったのに」

「じゃあそれが原因で菫さんは……」

「それだけじゃなかったんです」

 高校生になって、菫は村の伝承管理を任されることになった。最初はとても喜んでおり、里穂ともまた話してくれるようになったそうだ。そこには私は必要とされている、という菫の安心感があった。


「でもその後、菫は取りつかれたように伝承管理にのめりこみました。他の人とも話すことをやめて。もちろん私とも……」

 今まで雨の音に身を潜めていた蝉の声が次第に大きくなっていった。


「管理しなきゃ……私にはこれしかない。友達もいらない。私にはこれだけあれば!」

「(あいつ、いつもよく分からないの調べてるよな。なんか感じ悪いし)」

「管理、管理しないと……」

 菫の足取りはおぼつかない。

「(ね!ちょっと明るくなったと思ったらまたすぐ暗くなってめっちゃ絡みづらいし!それになんか見下してくるよね。勘違いしてるんじゃないの?)」

「違う、私は……」

 頭の中のイメージを必死に払拭しようとする。しかし声は逆に大きく、より鮮明に菫の耳に届く。

「(あんな奴いなくなった方が良いよな)」

「あ、あ……!」

「(あんな子いなくなればいいのに!)」

「(いなくなれば)」「(いなくなれば)」

「もうやめて!!」

 菫が手で振り払うと、の頭の中から声が消えた。

「……私にはこれしかない……私には、これしか……!」


「菫さんの過去にそんなことがあったなんて……。私誤解してました」

 茜は自分が最初に菫に抱いたイメージを反省した。だからあそこまで態度を豹変できたのか、菫の行動すべてに納得がいった。

 里穂は高校卒業後、村役場に勤め始めた。それはすなわち菫との逆の立場を示している。

「距離はこんなに近いのに、心はどんどん離れて行っちゃう気がして……」

 茜は里穂と菫がさっさと仲直りしたらいいのにと思っていた自分に嫌気が差した。それならとっくにしているはずである。人には一人で抱えきれず、潰れてしまいそうな事情があるのだ。

「でも私は菫とまた一緒に話がしたい……!」

 里穂は続けて、自分の想いを話した。茜に話したことで、自分の本当の気持ちに気づけたのだという。

「きっと里穂さんなら出来ますよ! 応援してます! 言いたいこと言えるのは相手が居てこそですから!」

 それは茜の心からの言葉だった。しかし、茜には一つ心配があった。

(里穂さんが自分の気持ちを言っても、立場上菫さんは取り合ってくれないんじゃないかな……?)

 それだけが心配だった。現状が変わらなければ気持ちが変わっても伝わらないこともあるのだ。それは茜が自分の人生を通して実感している事だった。

「ありがとう。でも実は昨日連絡があって、村おこしが中止になったんです!」

 寝耳に水だった。茜は喜び、里穂に呼びかけた。

「え? それって……!」

「あとは私一人でやってみます。頼ってばかりでは私も成長できませんから!」

「そんな、頼らせて貰っているのはこっちの方ですよ!」

 しかし茜は、自分たちが関われる問題ではないことを感じていた。ここは里穂の気持ちを優先して応援することにした。

 里穂の状況が変わってもまだ菫は信用しないかもしれない。里穂は慎重に少しずつ仲を取り戻していくことを思案しているようだった。茜は里穂の性格が一貫している事に安心した。

 里穂は宿の手伝いに向かうそうだった。茜はもう少し縁側にいることにした。雨は小降りになっていた。

 ただ一人の幼馴染と言える存在、咲葵。里穂は菫が近くにいるから仲の良さを取り戻すことができるだろう。

(ただ、私は……)

 茜は咲葵との思い出のフィルムを頭の中で巻き戻した。

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